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序章
第五話 ボナパルト・バーガットと悪い知らせ
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アリアは魔物に襲われて、絶体絶命だと思った。
もうダメだ、とぎゅっと目をつぶったその時、助けを呼びに行った風の精霊の声が聞こえた。
「なんか、知らない人、呼んだら来た」
精霊の子はちょっとバツの悪そうな様子でアリアの側へ降り立った。
それと同時に攻撃を庇おうとしたシェイドがアリアから離れた気配がする。
私たち、助かったのかな……。
アリアはほっとしながら目を開いた。
「なんだ。一年ぶりの叔父の顔を忘れたのか?」
「……ボナパルト、叔父様。……どうしてここに?」
「……急用だ」
アリアの目の前には、こんな感じで会話しているシェイドと謎のおじさまがいた。
シェイドがおじ様って呼んでいるってことは多分叔父様……なのよね?
アリアがそう疑ってしまうほどに、二人の相貌は異なっていた。
かたや金髪碧眼の美少年。かたや幼子が泣いて逃げ出しそうな、いかつい顔をしたおっさんである。左目に眼帯をしているところがなお悪役らしくて、負の相乗効果を生んでいる。
強いて共通点を上げるとすれば、その金髪ぐらいだろうか。しかもその金髪ですらキラキラという効果音が似合うような金髪と、年代物の金細工のようなくすんだ金髪で随分と違う。
魔物とどっこいどっこいで恐ろしげな風貌の叔父様(仮)でも命の恩人には違いない。
「あ、あの」
アリアがお礼を言おうと口を開いた。お礼を言う前に、叔父様(仮)が口を開く。
「シェイド。お前は、はるばるエリシール卿の教えを請いておいて、この程度の魔物も倒せんのか。情けない」
そう言って容赦なく言い放つと、魔物を切り裂いた剣を納めた。
アリアは思わず口をあんぐりと開きそうになるほど驚いた。
魔物に襲われた子供に対して普通、情けないなんて言う!?
大丈夫? とか、怪我はないかとかではないの? 百歩譲って叱るにしても、もう少し言い方というのはあるんじゃないだろうか?
冷徹な言葉を浴びせられたら当のシェイドはというと、アリアの前に立っているせいでその表情を知ることはできない。
シェイドはあんまり反論が得意ではない。というより、言い訳するのが嫌なのかなとアリアは思っている。
アリアがしたことで間違えてシェイドが怒られる羽目になってもシェイドは言い訳一つせず黙って怒られているような子だった。後でそれを知ったアリアがシェイドにどうして自分のせいじゃないと主張しなかったのかを聞くと「僕の監督不行き届きかなと思って」などと小難しい事を言っていたから、もしかすると責任感が強すぎる気があるのかもしれない。
でも、そうだからこそ、アリアは何だがシェイドの事を悪く言われると腹が立ってしまうのだ。それがいかにも怖そうな男でもアリアは怯まず、勇敢にも抗議をした。
「情けないとかこの程度の魔物がとかおっしゃいますが、それが魔物に襲われた子供にかける第一声ですか!?」
ここで、初めてバーガットはアリアに目を向けた。
「……エリシール卿の娘か?」
「はい。アリア・セリシールと申します。助けて頂き有り難く存じます」
アリアはお辞儀をしながら怒気をはらんだ声で自己紹介をする。
男はアリアの怒りなどどこ吹く風で気にせず自己紹介をする。
「そうか。私はボナパルト・バーガット、シェイドの叔父にあたる」
ただ立っているだけなのに、その立ち姿はいかにも堂々として卒がなく都の貴人に相応しいものだった。
「ただの子供になら、もう少し慈悲のある言葉をかけるだろうな。だが、今回魔物に襲われた子供はバーガット家の人間だ。己の力量も計れずむざむざ死ににいくなど、恥さらし以外の何者でもない」
ボナパルトがアリアの必死の抗議に対して答える。
シェイドがアリアを制止しようするも、激昂したアリアは小動物が威嚇するようにボナパルトにまくしたてた。
「シェイドは魔物に惑わされた私を助けるため身一つで追いかけてくれたんです! 人助けをバーガット家では恥さらしって言うんですか」
「人助け? 自分の手に負えぬ事に準備もせず、助けも呼ばず無謀に立ち向かう命知らずの間違いだろう。お前も貴族の子女なら考えて行動することだな」
ボナパルトはそんなアリアにひるむ様子もなく、小動物と戯れる獅子のごとく言葉を返した。
「……でも!」
「随分減らず口を叩くおてんば娘だな。もうよい。移動するぞ」
ボナパルトはそれでも食い下がろうとするアリアに呆れたように言ってマントを翻すとすたすたと移動し始めた。
アリアは気が収まらない様子でさらに言い募ろうとしたが、シェイドが今度こそと止めた。
「アリア、叔父様の言う通りだ。ここも安全じゃないから早く行こう」
シェイドに促されて、気を失っているウチキを抱えてついていく事にした。
大柄の男が大股で歩くので随分と速度が早い。そのせいで、アリアとシェイドは置いていかれまいと歩くのを通り越して小走りになった。
「……アリア! ボナパルト叔父様に文句を言うなんて、僕は肝が冷えたぞ!」
ボナパルトからの冷たい視線から解放されたシェイドが、アリアにこっそり耳打ちする。
「叔父様じゃなくて人の形をした魔物か悪魔かの間違いでしょ! 」
「厳しい言い方をする叔父なんだ。僕の判断が甘かったのは本当だし、助かったのは叔父様のおかげだ」
「でも、シェイドが魔物に気づいてくれなかったら最初の一撃で私の頭にいがぐりが命中していたかもしれないじゃない。もしかしたらその一撃で死んでたかもしれないでしょう?
シェイドの判断で、私は助かったの! ちょっと甘かったかもだけど、間違ってなんかないんだから」
ぷんすか怒ったアリアは感情を吐き出すのに必死で、その言葉を聞いたシェイドの頰が赤く染まっているのに気づくことが出来なかった。
「あらあら。……森探検に、魔物退治ですか? これは残らず詳細を領主様に報告しなければなりませんね」
アリア達はトイシャたちと合流するなり、トイシャは微笑んで言った。
「……トイシャが、過去最大級に怒ってるわ! どうしようお家に帰りたくない」
長年の付き合いで表情の読めるアリアは、震えながら言った。
「姉様、僕も一緒に怒られてあげますから帰りましょう」
迷子だったはずのダニエルはとっくに見つかっていて、むしろ新たに迷子だったアリアを慰めていた。
ボナパルトはトイシャと事のあらましを説明し終えると、馬にまたがった。全身黒色の綺麗な馬で、アリアやダニエルが見とれるほどだった。後ろにはボナパルト引き連れてきたのであろう従者たちもいた。
「また後で、話さねばならないことがある」
ボナパルトは去り際、シェイドにそう言い残して去っていった。
絶対、説教するつもりだ、とアリアは勝手に邪推した。
「……なぜ叔父様がわざわざセリシールまで訪ねて何を話に来たんだろう?」
シェイドはボナパルトの言葉を眉をひそめて思案する。
「偏屈おじさん……じゃなかった、ボナパルト叔父様はここに来たことあるの?」
アリアが無邪気に問うと、シェイドは少し吹き出した。そして、こほんと気を取り直して答える。
「普段はお祖父様に代わって家の公務を肩代わりしたり、元々の軍部関係の仕事もあって忙しい方だから、僕が覚えている限りでは今回が初めてではないかな」
「ふーん。どうりで知らない人だと思った。シェイドのお祖父様なら覚えているんだけどな」
アリアの言葉にシェイドは顔をほころばせて言った。
「ジル爺様は毎年、エリシールが好きだからってこの時期に来ていたからな」
「今年はいらっしゃらないの? ジル爺様のお土産やお話毎年楽しみにしているんだけどな」
「手紙によると、一月ほど前から体調が優れないらしい。なかなか調子が良くならないようだから近々お見舞いに行く予定なんだ」
心なしかシェイドの声も暗くなった。アリアは、それとなく思いついた考えを口にした。
「それならエリシールの花も持っていくのはどう? 枝付きならしばらく持つと思うし」
「それはいい考えだ! きっと喜んでくださる。でもいいのか?」
シェイドの心配そうな顔に、アリアはどうしてかなと思案を巡らせる。そして、コノハナ様の事かと思い至るとアリアは笑いながら顔を横に振った。
「コノハナ様はエリシールをよっぽど痛めつけたりしない限り怒ったりしないよ! 怒らせようと思ったら、野山を大胆に焼く払うくらいしないとね」
シェイドはそれを聞いて胸をなで下ろした。
「シェイド。トイシャも片づけているところだし、せっかくだから今見つけようよ」
「僕も、お姉様と一緒に枝を探します!」
途中から話を聞いていたダニエルも喜んで参加した。もっともダニエルは早々に探すのに飽きて、セリシールの花びらを集めていたが。
アリアは、エリシールに住む花の精霊に許しをもらって両手で丁度よく収まる長さの枝を手に入れる。
シェイドはそれを大切に抱えて馬車に運んだ。セリシールの枝を見ながらアリアはぽつりと言った。
「私もジル爺様のお見舞いにいけるようにお父様に頼んでみようかしら」
「そうだな。もしアリアも来てくれたら、ジル爺様も喜ぶ」
アリアの言葉に、シェイドは頷いた。
どたばたの花見を終えて、屋敷に戻ったシェイドは応接間にいた。夕刻後に応接間にてボナパルトより話があると言われたからである。
シェイドの嫌な予感が外れれば良いと、良い知らせであるようにシェイドは切に願いながら応接間の椅子に腰掛け叔父を待った。
「今日わざわざここまでおまえに会いに来たのは、伝えなければならぬ事と聞かねばならぬ事があるからだ」
しかしその期待はすぐに裏切られることになる。
「お前のお祖父様、ジルヴェスター・バーガットが昨日、亡くなった。……今のバーガット家当主は、私だ」
夜の冷えた空気がシェイドを包み込み、奪われた体温で心まで冷えていくような心地がした。
もうダメだ、とぎゅっと目をつぶったその時、助けを呼びに行った風の精霊の声が聞こえた。
「なんか、知らない人、呼んだら来た」
精霊の子はちょっとバツの悪そうな様子でアリアの側へ降り立った。
それと同時に攻撃を庇おうとしたシェイドがアリアから離れた気配がする。
私たち、助かったのかな……。
アリアはほっとしながら目を開いた。
「なんだ。一年ぶりの叔父の顔を忘れたのか?」
「……ボナパルト、叔父様。……どうしてここに?」
「……急用だ」
アリアの目の前には、こんな感じで会話しているシェイドと謎のおじさまがいた。
シェイドがおじ様って呼んでいるってことは多分叔父様……なのよね?
アリアがそう疑ってしまうほどに、二人の相貌は異なっていた。
かたや金髪碧眼の美少年。かたや幼子が泣いて逃げ出しそうな、いかつい顔をしたおっさんである。左目に眼帯をしているところがなお悪役らしくて、負の相乗効果を生んでいる。
強いて共通点を上げるとすれば、その金髪ぐらいだろうか。しかもその金髪ですらキラキラという効果音が似合うような金髪と、年代物の金細工のようなくすんだ金髪で随分と違う。
魔物とどっこいどっこいで恐ろしげな風貌の叔父様(仮)でも命の恩人には違いない。
「あ、あの」
アリアがお礼を言おうと口を開いた。お礼を言う前に、叔父様(仮)が口を開く。
「シェイド。お前は、はるばるエリシール卿の教えを請いておいて、この程度の魔物も倒せんのか。情けない」
そう言って容赦なく言い放つと、魔物を切り裂いた剣を納めた。
アリアは思わず口をあんぐりと開きそうになるほど驚いた。
魔物に襲われた子供に対して普通、情けないなんて言う!?
大丈夫? とか、怪我はないかとかではないの? 百歩譲って叱るにしても、もう少し言い方というのはあるんじゃないだろうか?
冷徹な言葉を浴びせられたら当のシェイドはというと、アリアの前に立っているせいでその表情を知ることはできない。
シェイドはあんまり反論が得意ではない。というより、言い訳するのが嫌なのかなとアリアは思っている。
アリアがしたことで間違えてシェイドが怒られる羽目になってもシェイドは言い訳一つせず黙って怒られているような子だった。後でそれを知ったアリアがシェイドにどうして自分のせいじゃないと主張しなかったのかを聞くと「僕の監督不行き届きかなと思って」などと小難しい事を言っていたから、もしかすると責任感が強すぎる気があるのかもしれない。
でも、そうだからこそ、アリアは何だがシェイドの事を悪く言われると腹が立ってしまうのだ。それがいかにも怖そうな男でもアリアは怯まず、勇敢にも抗議をした。
「情けないとかこの程度の魔物がとかおっしゃいますが、それが魔物に襲われた子供にかける第一声ですか!?」
ここで、初めてバーガットはアリアに目を向けた。
「……エリシール卿の娘か?」
「はい。アリア・セリシールと申します。助けて頂き有り難く存じます」
アリアはお辞儀をしながら怒気をはらんだ声で自己紹介をする。
男はアリアの怒りなどどこ吹く風で気にせず自己紹介をする。
「そうか。私はボナパルト・バーガット、シェイドの叔父にあたる」
ただ立っているだけなのに、その立ち姿はいかにも堂々として卒がなく都の貴人に相応しいものだった。
「ただの子供になら、もう少し慈悲のある言葉をかけるだろうな。だが、今回魔物に襲われた子供はバーガット家の人間だ。己の力量も計れずむざむざ死ににいくなど、恥さらし以外の何者でもない」
ボナパルトがアリアの必死の抗議に対して答える。
シェイドがアリアを制止しようするも、激昂したアリアは小動物が威嚇するようにボナパルトにまくしたてた。
「シェイドは魔物に惑わされた私を助けるため身一つで追いかけてくれたんです! 人助けをバーガット家では恥さらしって言うんですか」
「人助け? 自分の手に負えぬ事に準備もせず、助けも呼ばず無謀に立ち向かう命知らずの間違いだろう。お前も貴族の子女なら考えて行動することだな」
ボナパルトはそんなアリアにひるむ様子もなく、小動物と戯れる獅子のごとく言葉を返した。
「……でも!」
「随分減らず口を叩くおてんば娘だな。もうよい。移動するぞ」
ボナパルトはそれでも食い下がろうとするアリアに呆れたように言ってマントを翻すとすたすたと移動し始めた。
アリアは気が収まらない様子でさらに言い募ろうとしたが、シェイドが今度こそと止めた。
「アリア、叔父様の言う通りだ。ここも安全じゃないから早く行こう」
シェイドに促されて、気を失っているウチキを抱えてついていく事にした。
大柄の男が大股で歩くので随分と速度が早い。そのせいで、アリアとシェイドは置いていかれまいと歩くのを通り越して小走りになった。
「……アリア! ボナパルト叔父様に文句を言うなんて、僕は肝が冷えたぞ!」
ボナパルトからの冷たい視線から解放されたシェイドが、アリアにこっそり耳打ちする。
「叔父様じゃなくて人の形をした魔物か悪魔かの間違いでしょ! 」
「厳しい言い方をする叔父なんだ。僕の判断が甘かったのは本当だし、助かったのは叔父様のおかげだ」
「でも、シェイドが魔物に気づいてくれなかったら最初の一撃で私の頭にいがぐりが命中していたかもしれないじゃない。もしかしたらその一撃で死んでたかもしれないでしょう?
シェイドの判断で、私は助かったの! ちょっと甘かったかもだけど、間違ってなんかないんだから」
ぷんすか怒ったアリアは感情を吐き出すのに必死で、その言葉を聞いたシェイドの頰が赤く染まっているのに気づくことが出来なかった。
「あらあら。……森探検に、魔物退治ですか? これは残らず詳細を領主様に報告しなければなりませんね」
アリア達はトイシャたちと合流するなり、トイシャは微笑んで言った。
「……トイシャが、過去最大級に怒ってるわ! どうしようお家に帰りたくない」
長年の付き合いで表情の読めるアリアは、震えながら言った。
「姉様、僕も一緒に怒られてあげますから帰りましょう」
迷子だったはずのダニエルはとっくに見つかっていて、むしろ新たに迷子だったアリアを慰めていた。
ボナパルトはトイシャと事のあらましを説明し終えると、馬にまたがった。全身黒色の綺麗な馬で、アリアやダニエルが見とれるほどだった。後ろにはボナパルト引き連れてきたのであろう従者たちもいた。
「また後で、話さねばならないことがある」
ボナパルトは去り際、シェイドにそう言い残して去っていった。
絶対、説教するつもりだ、とアリアは勝手に邪推した。
「……なぜ叔父様がわざわざセリシールまで訪ねて何を話に来たんだろう?」
シェイドはボナパルトの言葉を眉をひそめて思案する。
「偏屈おじさん……じゃなかった、ボナパルト叔父様はここに来たことあるの?」
アリアが無邪気に問うと、シェイドは少し吹き出した。そして、こほんと気を取り直して答える。
「普段はお祖父様に代わって家の公務を肩代わりしたり、元々の軍部関係の仕事もあって忙しい方だから、僕が覚えている限りでは今回が初めてではないかな」
「ふーん。どうりで知らない人だと思った。シェイドのお祖父様なら覚えているんだけどな」
アリアの言葉にシェイドは顔をほころばせて言った。
「ジル爺様は毎年、エリシールが好きだからってこの時期に来ていたからな」
「今年はいらっしゃらないの? ジル爺様のお土産やお話毎年楽しみにしているんだけどな」
「手紙によると、一月ほど前から体調が優れないらしい。なかなか調子が良くならないようだから近々お見舞いに行く予定なんだ」
心なしかシェイドの声も暗くなった。アリアは、それとなく思いついた考えを口にした。
「それならエリシールの花も持っていくのはどう? 枝付きならしばらく持つと思うし」
「それはいい考えだ! きっと喜んでくださる。でもいいのか?」
シェイドの心配そうな顔に、アリアはどうしてかなと思案を巡らせる。そして、コノハナ様の事かと思い至るとアリアは笑いながら顔を横に振った。
「コノハナ様はエリシールをよっぽど痛めつけたりしない限り怒ったりしないよ! 怒らせようと思ったら、野山を大胆に焼く払うくらいしないとね」
シェイドはそれを聞いて胸をなで下ろした。
「シェイド。トイシャも片づけているところだし、せっかくだから今見つけようよ」
「僕も、お姉様と一緒に枝を探します!」
途中から話を聞いていたダニエルも喜んで参加した。もっともダニエルは早々に探すのに飽きて、セリシールの花びらを集めていたが。
アリアは、エリシールに住む花の精霊に許しをもらって両手で丁度よく収まる長さの枝を手に入れる。
シェイドはそれを大切に抱えて馬車に運んだ。セリシールの枝を見ながらアリアはぽつりと言った。
「私もジル爺様のお見舞いにいけるようにお父様に頼んでみようかしら」
「そうだな。もしアリアも来てくれたら、ジル爺様も喜ぶ」
アリアの言葉に、シェイドは頷いた。
どたばたの花見を終えて、屋敷に戻ったシェイドは応接間にいた。夕刻後に応接間にてボナパルトより話があると言われたからである。
シェイドの嫌な予感が外れれば良いと、良い知らせであるようにシェイドは切に願いながら応接間の椅子に腰掛け叔父を待った。
「今日わざわざここまでおまえに会いに来たのは、伝えなければならぬ事と聞かねばならぬ事があるからだ」
しかしその期待はすぐに裏切られることになる。
「お前のお祖父様、ジルヴェスター・バーガットが昨日、亡くなった。……今のバーガット家当主は、私だ」
夜の冷えた空気がシェイドを包み込み、奪われた体温で心まで冷えていくような心地がした。
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