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閑話

閑話 あの背中を追って

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 今回は大輝視点です。

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 俺の名前は江川えがわ大輝だいき
 有名な武術家立花たちばな幸三こうぞう氏の孫にして立花道場の跡取り息子、武の世界で「武神ぶしん」の異名を持つ武術の天才、立花颯太そうたと、一宮財閥の一人娘にして高校剣道界で「剣姫けんひ」と呼ばれる美少女、一宮いちみや綾乃あやのの幼馴染みだ。
 それぞれ剣道と空手の試合で颯太に出会って、彼の家に遊びに行った時に紹介されて以来、俺達は共に修行を積んで切磋琢磨し、時には共に悪さをして怒られたりと、それぞれ小学校が違うのにも関わらず、長い時間ずっと三人で過ごした。


 中学校に上がると、三人共同じ学校に入った。
 クラスも三人一緒で物凄く嬉しかったのを、とても鮮明に覚えている。
 颯太がどの部活にも入らないと言ったのには驚いた。
 颯太は目立つのが嫌いだというのも、中学校で初めて知った。
 しかしあの時、俺達は理由を訊かなかった。
 訊こうか悩んだ時もあったが、いつの間にか忘れていた。
 颯太にはぐらかされたのだと気付いたのは、それからかなり後だ。
 色々あったけど、楽しい学校生活だった。


 そんな俺達三人も今年で高校生になった。
 綾乃と俺は部活に入ってそれなりの成果を上げてきたが、颯太は更に徹底して目立つことを避けた。
 部活に入らなかったのは元々だが、頼めば部の手伝いや模擬戦の相手をしてくれていたのに、高校ではそれすらも断られ、中学時代に自分の容姿が人目を引くと気が付き、邪魔だからと眉から下までは決して伸ばさなかった前髪を、検査でギリギリ引っかからない程度まで伸ばすようになった。
 そんな親友を見ても、またも俺は何も言えなかった。
 綾乃も何も言わなかった。
 いや、俺と同じで言えなかったのだろう。
 いくら目立つ事が嫌いにしてもやりすぎなぐらい徹底している行動なのに、颯太のやり方にが口を出すべきではない、聞いたとしても多分理解出来ないと、無意識の内に思っていた。
 その事に気付かされたのは、颯太がダンジョンで行方不明になったと聞いてからだった。



~~

「そうたぁぁぁああああああああああ‼」

 綾乃はひどく取り乱し、どうにか宥めようと彼女を抑えているクラスメイトに、「離して」「行かせて」と叫び続けた。
 俺も綾乃が暴れ出さなかったら、盛大に取り乱したんじゃないかと思うぐらい、内心動揺していた。
 多分だが、反応の違いはあっても二人共考えていることは同じだ。
 一ヶ月前、この世界に来て初めての模擬戦で有本に言われた、あの言葉。

『あんな根暗そうな奴足手まといだし、下手したらこの世界で死ぬかもね』

 あの時はあまりにも無神経な事を言われ、有本に殺意を覚えた。
 しかしその可能性を頭から否定出来ない自分が居るのも事実で、そんな自分達に腹が立った。
 有本をボロ雑巾にしたのは、多分八つ当たりの意味も含んでしまったと思う。
 その有本も、突然の事に驚き固まっている。
 曲がりなりにも、同じ学校のクラスメイトが危険なダンジョンの中で行方不明というのはショックだったのだろう。
 力尽きたのか綾乃は気絶し、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
 そんな綾乃の身体を慌てて受け止める女子達。
 その後どうやって自室に戻ったのか、俺は覚えていない。
 今自分は酷く顔色が悪いらしく、ジョンさんが部屋まで付き添ってくれた。
 部屋に備え付けられた椅子に座る俺達の間には、重い沈黙が流れる。

「……」
「……」

 暫くして意を決したのか、ジョンさんは一度深く息を吸ってゆっくりと口を開いた。

「……ダイキ」
「…何ですか…」

 思っていたよりも弱々しい声。
 震えているのが自分で分かる程だ。

「ソータとは、知り合い、だったのか?」

 恐る恐るといった感じで尋ねてくる。
 颯太は、大事な友達を無理矢理動かすための種に利用されるのは御免だと言っていたが、今回は突然の出来事でショックが大きく、隠しだてすることは最早不可能だ。

「…親友です…俺と綾乃と、颯太は…」
「!…そうか…すまなかった…」

 ジョンさんは、それ以上何も言わず俯く。
 俺はその間もぐるぐると思考を巡らせる。

 __ダンジョンは、確かに魔物の出現率が高く危険だった……けど、万が一が起こる程に個々が強いわけじゃなかったのも事実だ。
 実力を隠しながらでも十分凌げただろうし、颯太は馬鹿じゃない。
 本当にヤバくなれば命優先で全力を出した筈だ。
 最近颯太に魔法を教わり始めたって言う、井口だって居た。
 もしかして何かのトラップに引っかかった?
 それなら他のメンバーが無傷でここに居るのはおかしい。
 彼らも巻き込まれている筈だ。
 だったら………!まさか……いや、まだ詳しくは聞いてないから分からない。
 でも、もし本当にそうなら……

 俺は、ある一つの可能性に思い至った。
 それは普通なら誰も思いつかないことかもしれない、颯太だからこその発想だ。
 親友の死という絶望の中に、僅かな希望が見えたかのようだ。

 コンコン

 ふと、遠慮がちに扉が叩かれた。

「開いてますよ」

 そう応じると、一拍程間を置いて扉を開けたのは…

「…井口…それに、杉田も…」

 颯太のパーティーの男子メンバーだった。
 沈痛な面持ちで部屋に入ってきた二人は、ジョンさんに会釈してから俺に向き直った。
 二人は最初少し躊躇っていたが、意を決したように杉田が口を開いた。

「な、なあ、江川。一宮さん、目ぇ覚ましたみたいだぞ」
「…そうか」

 それなら綾乃に話したい事がある。
 俺は短く言葉を返して立ち上がった。

「…何だ?」

 まだ何か言いたそうな様子の二人を振り返る。
 顔を見合わせた二人は、同時に首を横に振って何でもないと言った。
 俺もそれ以上は訊かずに、ジョンさんにお礼を言って部屋を出た。


~~

 部屋に着くと、綾乃は真剣な表情で俺を見据えてきた。
 たったそれだけの動作で、俺達二人は同じ事を考えていると悟った。

「綾乃もか」
「大輝もでしょ?わざわざ説明する手間が省けたわね」

 微笑む綾乃の目元は、薄っすらと赤くなっている。
 あの可能性に気付くまでは、やはり泣いていたのだろう。
 綾乃の部屋に付き添いとして居てくれた女子三人は、何の事やらさっぱり分からないと言った表情で俺達を交互に見てくる。
 だが生憎俺達は、彼女らに一々説明する気はない。
 俺達は俺達の間だけで話を進めていく。

「どうすると思う?」
「間違いなく、先に進むだろうな」
「そうよね。その後は?」
「自由行動だろ。元々それが目的の筈だ」
「その前に、一度こっちに戻って来る可能性は五分ごぶよね。どうする?」
「綾乃は?」
「行く」
「だよな」

 この会話を聞くだけでは、俺達が何について話してるかなんて分からないだろうが、これは颯太のこれからの行動の予測だ。
 行方不明になったとしても、颯太ならどうにか生き延びる方法を導き出す。
 それなら彼はこの後どうするか、俺達はそこを考えて行動するべきだ。

 颯太は常に、俺達の何倍も先を行く。
 彼の考える事を隅々まで理解するのは、今の俺達には到底無理だ。
 それでも俺達は、そんな彼に置いて行かれたくない。
 いつか颯太と、肩を並べられるような人間になりたいのだから。


__________________

 この話、凄く書きにくかったです…途中、趣旨が迷子に…

 次回は本編に戻ります。
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