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プロローグ 勇者召喚

第二十一話 前後と始まりと

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 今回後衛に徹する事を早々に決めた颯太は、ステータスを眺めたりして自分の前後衛を検討しているパーティーメンバーに言った。

「俺は後衛だな」
「颯太は後衛?俺は…職業、剣士ってなってるし前衛だな」
「俺も前衛。政人と職業一緒だわ」
「マジで?」

 お互いのステータスを覗き込みながら喋っている所に、朱莉が元気よく切り込んできた。

「ウチは武闘家やから前衛や!一緒に頑張ろうな政人!猛!」
「朱莉もか。よろしく」
「わ、私は、魔術師なので後衛です!」
「……後衛」

 全体の役割はこうなった。

 前衛…政人、猛、朱莉
 後衛…颯太、伊澄、希美

 丁度同じ人数だ。
 魔法の威力は二人に合わせて抑えようと思い、颯太は訊ねた。

「深川、塚原。二人は魔法、どのくらい扱えるんだ?」
「わ、私は火と風と氷の三属性で、火属性は中級まで扱えます!他はまだ初級までです!」
「……水と土の二属性。土は初級、水は中級。立花は?」
「俺は…火と風の二属性で初級までだ」

 属性は希美に合わせて、その初級までしか使わないことに決めた颯太。
 希美の火属性のことは知っていたが、伊澄が水属性の中級まで扱えるのは予想外だった。
 まあ仲間が強いに越したことはない。

「よっしゃー!やったるでー!」
「絶対まけねぇからな!」
「俺だって!」

 前衛組は大いに騒いでやる気を出している。
 そんな三人を見て、後衛組の颯太と伊澄は思わず溜息を漏らす。

「これは…カバーが大変そうだな」
「……抑えられると思う?」
「自信はない」
「…私も…」
「「はぁ…」」
「……立花、貴方とは気が合いそう」
「俺もそんな気がする」

 その後、颯太と伊澄は無言で握手を交わし、横で希美が羨ましがってそんな二人を眺めていた。



 翌日朝七時。
 いつも訓練で使われる広場に、ジョンが率いる騎士団員の人達が来ていた。
 いつもよりも人が多い中、颯太は猛の姿を見つけた。
 政人とはぐれてしまった上、ごった返しの状態で暑苦しく、イライラが募っていた颯太は、迷わず猛の元に向かった。

「猛」
「?颯太!良かった!人が多くて同じパーティーの奴の姿が見えないから焦ったよ」
「俺もだ。見つかって良かった」

 明らかにホッとした顔の猛。
 彼もこの状況に焦っていたらしい。
 颯太も安心した。

(ここから皆探すのか…面倒くさいな……あ)

「…【気配感知】」
「何か言ったか?」
「いや、別に。それより猛、あっちに政人見つけたぞ」
「え、マジで?行こうぜ!」

 颯太はイライラが収まってから「あ、【気配感知】使えば良くね?」と、猛に気付かれないようスキルを発動させて、人混みの中から政人を探したのだ。
 いつもの颯太ならすぐに思いついた事なのだが、余程苛ついていたようだ。
 政人と合流した後は、同じようにスキルを駆使して、固まっていた女子三人を見つけ出し合流して人混みを抜けた。

(スキルって便利だな)

 ここでどこかの創造神様が、別件の仕事に追われていなかったら、すぐさま「いや特定の人物見つけ出すとか、普通無理だから!」と鋭いツッコみを彼の頭の中に流していたであろう。
 しかしそれはタラレバ、もしもの話だ。
 忙しい神様も、スキルを使用したことにさえ気付かないお仲間も、彼にはツッコめない。




「全員揃ったな!?良いか!今から行くのは、決してお遊びではない!実戦である事を忘れるな!」

 ジョンが全員の前で、軽い演説と昨日それぞれのリーダーに伝えていたダンジョンでの注意事項を言っている間、颯太は皆の様子を横目で確認していた。

(…男子は問題なし……女子は…平が少し…昨日の訓練で無茶したのか?右足を庇ってる…塚原は挙動不審だけど大丈夫だな……?深川?)

 伊澄はいつにも増して緊張しているようだ。
 あまり喋らないのはいつもの事だが、今はまだ一言も言葉を発していない。
 警戒しとかないといけないな、と颯太は思いつつ、今度は目線だけを他のクラスメイト達に向ける。
 こちらに危害が及ぶようならば、伊澄とは別の意味で警戒しておく必要があるかもしれない。
 そうして見渡していると、昨日ジョンに、ソロで参加しても良いのか聞いていた奴の顔を見つけた。
 颯太の予想通り、あの時周りに居た奴ら五人でパーティーを組んできたようだ。
 しかし、猛達と顔を合わせた時と同様に名前が浮かばない。
 そいつらは、元の世界でも学校でよく悪ふざけをして教師達に怒られていたり、かなり目立っていた奴らなのだが、颯太は全く興味がなく見ていなかったし、彼らの事を知ろうともしなかった。
 仮に知っていたとしても、自分には害がないと分かる目立つ奴を積極的に避けようとする颯太は関わろうとはしなかったであろう。
 だが、こんな死と隣り合わせな状況で相手の事を知らないのは危ない、と判断した颯太は、元の世界でも交友関係の広かった政人に聞いた。

「なあ政人、あいつらの名前分かるか?」
「あいつら?…颯太マジで言ってる?俺らの学校でかなり有名だぜ」
「ああいう奴とは関わらん」
「いやそれにしたって…まあ良いわ。東堂とうどう玲二れいじだよ。周りの奴らは、俺達から見て右側から…」

 東堂とうどう玲二れいじ
 松元まつもと誠也せいや
 佐藤さとう愛梨あいり
 廣田ひろた美園みその
 瀬川せがわゆう
 颯太は政人から教えてもらった名前を、それぞれの顔を確認しながら覚えた。
 昨日ジョンにふざけた質問をしていたのは松元だが、彼らのリーダーは東堂のようだ。
 颯太は政人にお礼を言って、それ以上は彼らについて聞かなかった。
 見ていて大体どんな奴らか検討がついたのだ。
 それにあまり彼らばかりに気を取られると、思わぬ所から刺されるかもしれない。
 全体の様子見を再開しクラスメイトを観察していると、最後に勇者パーティーの大輝と目が合った。
 周りに気付かれないよう、こっそり手を振ってくる。
 颯太もそれに答えながら、ジョンに意識を戻した。

「以上だ!ではこれより出発する!十二人ずつ馬車に乗り込め!そこで一人一人に、騎士達からダンジョンへ挑む際に必要な物資を支給する!武器や戦闘服なども纏めて渡すので、すぐ装備してくれ!」

 ジョンの指示に従って、一斉に行動を開始する騎士団員達。
 一年B組メンバーはオロオロしていたが、やがて先頭の勇者パーティーに居た良輔が、恐る恐る馬車へ向かって歩き出した。
 それに扇動されたのか、一人、また一人と移動し始める。
 先に綾乃と大輝が動き出すのを見届けた颯太は、政人を見た。
 政人は初のダンジョン挑戦ということから緊張しているのか、真剣な顔で前を見据えていた。

「政人」
「…そ、颯太は、緊張しないのか?」

 声が若干固い。
 颯太は政人に聞かれて初めて、自分が緊張も恐怖もなく、ただこれから始まる事に僅かに高揚しているのだと気付いた。

「してないな。…だが、楽しみではある」
「楽しみ?」
「俺達の世界にはなかった事をこれから体験出来ると考えると、緊張感や恐怖心よりも、好奇心が湧いてくるんだ。政人はそういうのないか?」
「……言われてみれば、あるかも。緊張してるけど、同時に心のどっかでわくわくしてる」

 そう言う政人の目は、先程の緊迫した色はなく、ギラギラと輝いている。

(大丈夫そうだな)
「行こうか」
「おう!」

 颯太と政人は同時に新たな一歩を踏み出した。


 この時点で、これが自分達の運命を分けるターニングポイントになる出来事だと、気付いている者は誰一人としていなかった。


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