8 / 53
プロローグ 勇者召喚
第八話 属性と修行と
しおりを挟む
レイドナルク王国第二王女、エリザベス・フォン・レイドナルクに出会った颯太は、暫く時間を忘れて彼女と雑談を交えていた。
「ソウタさんは勇者様ではないのですか?」
「ああ。俺じゃなくて、俺の友達二人は勇者だけどな」
「あそこまで見事な身のこなしをしていらしたので、てっきり…」
「俺の祖父…爺ちゃんが武術の達人でさ。小さい頃から、その技術を身体に叩き込まれてたんだ。俺はまだまだだけどな」
「そんな!少なくとも、今ここに居る近衛兵達の誰よりも俊敏な動きでしたよ?」
「え、そうなの?」
このエリザベスの言葉に颯太は驚愕した。
戦闘狂とまではいかないが、颯太も強い相手と戦うことは好きだ。
今日の朝九時から城の中庭で戦闘訓練を開始すると聞いていたので、どんな猛者の戦いを見れるのかと楽しみにしていたのだが、たかだか半分以下の速度の自分より素早い動きが出来る人が居ないと聞いて、颯太は落胆を隠せなかった。
「ちょっと残念だけど仕方ないか。そう言えばエリーは、魔法使えるの?」
だがすぐに気を取り直し、気になっていた事を尋ねる。
この世界の人間が魔法を使えると、聞いてはいたが実際に目で見たわけではない。
まだ心のどこかで信じきれていない自分が居る事に、聡い颯太は気付いていた。
「ええ、少しなら」
「属性は?」
「水です」
(…第一属性、だったか?)
颯太は昨日、イヴァンの部屋で読んでいた本に書かれていた知識を引っ張り出した。
本では小難しい言い回しがされていたが、要は第一属性が一般的なもので、第二属性は所有者が少なく、第三属性は珍しいという事だろう。
その点、彼女の“水”はごく普通の属性という事だ。
ふと彼女を見ると、少し悲しそうな、泣き出しそうな表情をしていた。
「どうした?」
「えっ?」
「悲しそうな顔してたからさ」
エリザベスは目を見開いて言葉を失っていた。
「…分かりますか?」
弱々しくか細い声でそれだけ言った。
気付かれるとは思っていなかったようだ。
多分気付かれたくもなかっただろう。
颯太は聡い。
故にそんな彼女の心情も手に取るように分かる。
申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ謝った。
「…ごめん、無神経だったかな…?」
エリザベスは首を振って微笑んだ。
「いいえ、大丈夫です。気にしないで下さい」
「……」
エリザベスの心情を理解する事は出来たが、彼にはどうすることも出来なかった。
今日出会ったばかりで、彼女の事を何を知らないからである。
知らないのに余計な口出しはしない方が良い、と考えた颯太は気まずそうにエリザベスから視線を外す。
そこで部屋の時計が目に入り、颯太は目を剥いた。
「!?今…七時過ぎ?」
「?どうかなさいました?」
エリザベスと遭遇して話し始めてから、二時間は経っていた。
ここまで長居するつもりはなかったのだが、楽しい時間は本当にあっという間である。
「ごめんエリー、俺もう行かなきゃ」
「え…そ、そうですか…では、またお会いしましょうソウタさん」
「ああ」
外に誰も居ない事を確認してから、颯太は風のように廊下を走り去って行った。
残されたエリザベスは、残念そうな表情で彼を見送った。
エリザベスと分かれ、元の道まで戻ってきた颯太は次にイヴァンの研究室へと向かった。
そこまでの道は昨日の内に覚えておいたので、今度は迷わずに行けた。
「やあ、おはようソウタ君」
イヴァンはもう準備万端といった感じで待ち構えていた。
よっぽど楽しみだったのだろう。
颯太は会釈を返した。
「すみません、遅くなりました」
「いやいや、時間を決めていたわけではないから遅刻も何もないよ。それじゃあ、早速私から君に魔法を教える事から始めよう」
颯太はイヴァンに手で指された椅子に腰掛けた。
イヴァンは自身の後ろの本棚から、一冊の赤い背表紙の本を取り出しパラパラと眺めた。
「すまない。私自身弟子をとったのは初めてなんだ。どう教えたら良いのか分からなくてね。だから理解出来ない所は遠慮なく言ってくれ」
「分かりました、師匠」
「まず我々生命体が体内に宿している、魔力の説明だね」
そこから颯太の魔法の修行が始まった。
最初イヴァンは魔法がないと聞いて、颯太達異世界人は魔力とはなんら関係のない生活をしていると検討をつけていた。
なので体内の魔力を感じるのに時間がかかると踏んでいたのだが、相手は颯太だ。
神お墨付きの規格外は伊達ではない。
「魔力は身体全体に血液のように流れる、言わば人が身体を動かすためのエネルギーだ。魔法を使用するためには、まずこれを感じ取り制御しなければならない。異世界人のソータ君には少し難しいかもしれないが…」
「魔力って、これかな?なんか身体の真ん中辺りのあったかいの…」
「!」
(感じ取れているのか!?この短時間で!)
こちらの世界の人間が魔法を学ぶ上で一番初めにぶつかる壁は、まさにこれなのだ。
いくら素質があって保有魔力が高かろうと、その魔力を感じ取れないと制御が効かず、結果魔法を行使する事はおろか、最悪の場合魔力の暴走や暴発に繋がる。
この世界の長い歴史の中でも、それで多くの魔術師の卵が潰れた。
イヴァンは、自分が魔法を教えるからにはそんな事はないように目を光らせるつもりであったが、そんな心配を他所に颯太はあっさりと第一関門を突破したのである。
イヴァンは暫く言葉を失った。
颯太は不思議そうに首を傾げた。
「……」
「?どうしました?」
颯太には、自分の力の異常さがまだ半分も理解出来ていない。
進言してくれる人が居ないので、そんな事に気付けないでいる颯太は、ただただ唖然としているイヴァンを見つめ返すだけであった。
ちなみに、天才と呼ばれる魔術師が初め魔力を感じ取れるまでの平均所要時間は大体一ヶ月である。
「ソウタさんは勇者様ではないのですか?」
「ああ。俺じゃなくて、俺の友達二人は勇者だけどな」
「あそこまで見事な身のこなしをしていらしたので、てっきり…」
「俺の祖父…爺ちゃんが武術の達人でさ。小さい頃から、その技術を身体に叩き込まれてたんだ。俺はまだまだだけどな」
「そんな!少なくとも、今ここに居る近衛兵達の誰よりも俊敏な動きでしたよ?」
「え、そうなの?」
このエリザベスの言葉に颯太は驚愕した。
戦闘狂とまではいかないが、颯太も強い相手と戦うことは好きだ。
今日の朝九時から城の中庭で戦闘訓練を開始すると聞いていたので、どんな猛者の戦いを見れるのかと楽しみにしていたのだが、たかだか半分以下の速度の自分より素早い動きが出来る人が居ないと聞いて、颯太は落胆を隠せなかった。
「ちょっと残念だけど仕方ないか。そう言えばエリーは、魔法使えるの?」
だがすぐに気を取り直し、気になっていた事を尋ねる。
この世界の人間が魔法を使えると、聞いてはいたが実際に目で見たわけではない。
まだ心のどこかで信じきれていない自分が居る事に、聡い颯太は気付いていた。
「ええ、少しなら」
「属性は?」
「水です」
(…第一属性、だったか?)
颯太は昨日、イヴァンの部屋で読んでいた本に書かれていた知識を引っ張り出した。
本では小難しい言い回しがされていたが、要は第一属性が一般的なもので、第二属性は所有者が少なく、第三属性は珍しいという事だろう。
その点、彼女の“水”はごく普通の属性という事だ。
ふと彼女を見ると、少し悲しそうな、泣き出しそうな表情をしていた。
「どうした?」
「えっ?」
「悲しそうな顔してたからさ」
エリザベスは目を見開いて言葉を失っていた。
「…分かりますか?」
弱々しくか細い声でそれだけ言った。
気付かれるとは思っていなかったようだ。
多分気付かれたくもなかっただろう。
颯太は聡い。
故にそんな彼女の心情も手に取るように分かる。
申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ謝った。
「…ごめん、無神経だったかな…?」
エリザベスは首を振って微笑んだ。
「いいえ、大丈夫です。気にしないで下さい」
「……」
エリザベスの心情を理解する事は出来たが、彼にはどうすることも出来なかった。
今日出会ったばかりで、彼女の事を何を知らないからである。
知らないのに余計な口出しはしない方が良い、と考えた颯太は気まずそうにエリザベスから視線を外す。
そこで部屋の時計が目に入り、颯太は目を剥いた。
「!?今…七時過ぎ?」
「?どうかなさいました?」
エリザベスと遭遇して話し始めてから、二時間は経っていた。
ここまで長居するつもりはなかったのだが、楽しい時間は本当にあっという間である。
「ごめんエリー、俺もう行かなきゃ」
「え…そ、そうですか…では、またお会いしましょうソウタさん」
「ああ」
外に誰も居ない事を確認してから、颯太は風のように廊下を走り去って行った。
残されたエリザベスは、残念そうな表情で彼を見送った。
エリザベスと分かれ、元の道まで戻ってきた颯太は次にイヴァンの研究室へと向かった。
そこまでの道は昨日の内に覚えておいたので、今度は迷わずに行けた。
「やあ、おはようソウタ君」
イヴァンはもう準備万端といった感じで待ち構えていた。
よっぽど楽しみだったのだろう。
颯太は会釈を返した。
「すみません、遅くなりました」
「いやいや、時間を決めていたわけではないから遅刻も何もないよ。それじゃあ、早速私から君に魔法を教える事から始めよう」
颯太はイヴァンに手で指された椅子に腰掛けた。
イヴァンは自身の後ろの本棚から、一冊の赤い背表紙の本を取り出しパラパラと眺めた。
「すまない。私自身弟子をとったのは初めてなんだ。どう教えたら良いのか分からなくてね。だから理解出来ない所は遠慮なく言ってくれ」
「分かりました、師匠」
「まず我々生命体が体内に宿している、魔力の説明だね」
そこから颯太の魔法の修行が始まった。
最初イヴァンは魔法がないと聞いて、颯太達異世界人は魔力とはなんら関係のない生活をしていると検討をつけていた。
なので体内の魔力を感じるのに時間がかかると踏んでいたのだが、相手は颯太だ。
神お墨付きの規格外は伊達ではない。
「魔力は身体全体に血液のように流れる、言わば人が身体を動かすためのエネルギーだ。魔法を使用するためには、まずこれを感じ取り制御しなければならない。異世界人のソータ君には少し難しいかもしれないが…」
「魔力って、これかな?なんか身体の真ん中辺りのあったかいの…」
「!」
(感じ取れているのか!?この短時間で!)
こちらの世界の人間が魔法を学ぶ上で一番初めにぶつかる壁は、まさにこれなのだ。
いくら素質があって保有魔力が高かろうと、その魔力を感じ取れないと制御が効かず、結果魔法を行使する事はおろか、最悪の場合魔力の暴走や暴発に繋がる。
この世界の長い歴史の中でも、それで多くの魔術師の卵が潰れた。
イヴァンは、自分が魔法を教えるからにはそんな事はないように目を光らせるつもりであったが、そんな心配を他所に颯太はあっさりと第一関門を突破したのである。
イヴァンは暫く言葉を失った。
颯太は不思議そうに首を傾げた。
「……」
「?どうしました?」
颯太には、自分の力の異常さがまだ半分も理解出来ていない。
進言してくれる人が居ないので、そんな事に気付けないでいる颯太は、ただただ唖然としているイヴァンを見つめ返すだけであった。
ちなみに、天才と呼ばれる魔術師が初め魔力を感じ取れるまでの平均所要時間は大体一ヶ月である。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります
ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□
すみません…風邪ひきました…
無理です…
お休みさせてください…
異世界大好きおばあちゃん。
死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。
すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。
転生者は全部で10人。
異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。
神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー!
※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。
実在するものをちょっと変えてるだけです。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる