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第42話~料理の力~

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「アダモン、私は蒼魔四氏族を束ねる長として、重大な決定を行うつもりだ」

 蒼魔族の里、族長たるミスラの部屋にアダマン族の族長、アダモンと四人の従者はいた。アダモンは一人椅子に腰かけ、その背後に従者が立ち従っている。彼らの眼前には蒼魔族の里から南の大地へと抜ける坑道の地図が貼られていた。ミスラの言う重大な決定とやらに、その地図が無関係なわけはなかった。彼女の意図を察したアダモンがニヤリと笑みを浮かべる。

「再度、南の大地へ侵攻しようってのか」
「その通りだ。だが、目的は侵略ではない」
「どういうことだ?」
「我らは人との共存の道を探す。その手始めにピエタ村を人の支配から解放するのだ」
「人間を人間から解放だ?何言ってんだ! それに、あんな弱っちい奴らと共存して何の得があるんだ。そもそも、先の大戦だって俺達は勝ってた。負けたのは魔王一人だろうが!」
「魔王様を悪く言うな!」

 ミスラがアダモンを睨みつける。部屋の空気に殺気が混じった。それを破ったのは、ミスティの明るい声だった。

「お姉さま、お待たせしましたぁ」

 部屋に入ってきたミスティが持つお盆には皿の上にプルプルと揺れる柔らかな鉱物が綺麗に盛り付けされていた。その香しい匂いにアダマンの目は釘付けになった。

「なんだこりゃ?」
「これが、我らが人との共存を目指す理由だ」

 自信満々にミスラが胸を逸らす。

「理由って食い物かよ。いったいこりゃなんだ?」
「アダマンタイトだ。悪いとは思ったが、お前の武器の一部を拝借した」

 アダマンが太い指先でツンとつつく。それは皿の上でぷるんと揺れた。

「う、嘘をつけ!アダマンタイトがこんなに柔らかいわけがねえ!」
「いいから、食ってみろ」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながらミスラはアダモンに勧めた。ミスティが小皿にとりわけ、後ろで控えている従者達にも渡す。彼らは互いに顔を見合わせた。無理もない、アダマンタイトといえば、ミスリル銀と同等の希少鉱物で、アダマン族の族長でさえ年に一度口にできれば良いという鉱物だ。しかも、四つの希少鉱物の中でも最も硬いをされ、いかに鉱物を食す蒼魔族でも容易には嚙み砕けないのだ。

「心配するな、毒は入っていない。それとも怖いか」
「う、うるせい。このアダモン様は嫌いな鉱物などないのが自慢なんだ」

 アダモンは目を閉じると、摘まんだそれを口の中に放り込んだ。

「んっ!!!」

 凄い勢いで椅子から立ちあがったアダモンは、椅子ごと後ろに倒れ込んだ。

「アダモン様!」

 従者達が駆け寄る。やはり何か盛られていたのかと、ミスティを睨みつける。アダモンを守るように囲むと、戦闘体勢に入った。その中心でアダモンが吠えた。

「う、うめぇぇぇ! なんだこりゃ! アダマンタイトとは思えねえ柔らかさだが、味は全く損なわれてねえ、いやむしろその逆! 口の中でとろける事によって、舌全体にまんべんなくその味が染みわたる。それに、この鼻から抜ける香しさ。飲み込む時のぷるんとしたのど越し、これはまさに至高。まるで、女神の涙を飲み込んでいるようやー!」

 アダモンは叫び終わると、従者達に配られた小皿を見つけ、目を光らせた。

「お前達、食わんのなら俺によこせ!」

 飛びかかるほどの勢いに、従者達は慌てて自分達の取り分を守った。

「ダメです。これは私達のものです!」
「なんだと、俺は族長だぞ!よこせ!」
「ズルいですよ、自分だけ」

 それはまるで、おやつを取り合う子どもの喧嘩だった。

「心配するな。希少鉱石とはいかんが、充分なもてなしは用意させている」

 ミスラが合図する。ミスティが戸を開けると、次々と料理が持ってこられた。それは、生の鉱石ではなく美しく調理(加工)されていた。

「み、見てくださいアダモン様。この鋼の薄さ!」
「この青銅の美しさ、本当に食べ物なのか!」

 勝ち誇った顔で、ミスラはアダモンに告げた。

「遠慮するな、思う存分食べるがよい」


 アダモン達は会話も忘れて夢中に食べた。食べつくした。その様子を見て給仕をしていたミスティは喜びを隠せなかった。タルスの技が認められた。その事が誇らしかった。
 彼らは腹一杯になると幸せそうに、だらしなく椅子にもたれかかった。

「ミスラ、この食い物はいったい……」
「紹介しよう。今回の料理人を」

 ミスリアに連れられ部屋に入ってきたのはタルスだった。彼が人間だと気づくとアダモンの従者達は驚いて立ち上がった。

「人間……だと」
「そうだ。名をタルスという。一流の料理人だ。あれだけの技術は我ら魔族には無い」

 料理人じゃなくて鍛冶師ですと言いたいとこをタルスはぐっと我慢した。アダモンは立ち上がると無言でタルスに近づくと相好を崩した。

「そうか!見事だったぞ。まさか、アダマンタイトをあのように加工できるとはな!まさに一流の技だ! 例え人間であろうと、一流の技術を持つ者は尊ばねばならん」
「い、いえ。私はまだ修行中の身です。村にいる私の兄弟子や師匠であれば、もっと素晴らしいものが打てると思います」

 タルスの言葉に、アダモンの眉がピクリと揺れた。

「さらに、上がいるというのか」
「私の技など師匠の足元にも及びません」
「もっと、上だと……」

 事実ではあったが、タルスの謙遜でもあった。だが、その台詞はアダモンはさらに美味いものを想像させた。いや、アダモンだけではなかった。部屋にいた蒼魔族全てが極上の美食を想像した。思わず垂れた涎を拭うとアダモンはミスラに向かっていった。

「わかったぞミスラ!俺達も人間と共存の道を探す!お前達も異論はないな!」

 こうして、アダマン族を味方につけた魔王達はピエタ村を奪いあおうとするメリダ法国とリスタルト王国の争いに横から入りこむ事になった。その混乱の中で魔王は、あの女騎士への復讐を企てていた。




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