【R18】復讐の魔王は転生を重ね、女勇者に挑む。第1章~女騎士の誇りは濡れて~

異常那鬼

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第40話~勇者故郷へ~

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 共和国アーバンの首都であるアーバンシティはバレンシア大陸の東、海洋に面した場所にある。街の東側が深い入り江になっており、多くの船舶が停留している。この港から東に向かう船のほとんどは貿易船であり、多くの富をアーバンにもたらしていた。

 共和国アーバンは他国のように軍というものを持っていない。街の治安を守る警備隊は備えているが、それも必要最低限であった。その代わり、彼らは金で傭兵を雇った。「力には金を、金には力を」がアーバンの国家理念である。メリダやリスタルト、サニバールのように王はおらず、選挙によって選ばれた議会と、議会から選出された議長が国を運営していた。

 アーバンシティの中心に近い場所に、傭兵達の集う酒場「銀海の鯨」亭がある。大陸全土から傭兵達が集まるこの酒場は、情報が集まる場所でもあった。アーバンに辿り着いたリリア達一行もそこに居た。
 大量の料理を行儀悪く食べるリリアをよそに、アリスは情報を仕入れていた。

「どうやら、ピエタ村で一騒動起きそうらしいわ」
「ピエタ村? どこだそれ?」
「確か隔絶の山脈の麓よ。リスタルトとメリダの国境。良質なミスリル銀の産地で腕の良い鍛冶屋も多いから、リスタルト騎士団にとっては大切な村なの」
「そこが、どうしたんだ?」
「魔族が侵攻してきたさい、村人はメリダ側に逃れたのよ。それを理由に、メリダ法国はピエタ村の復興支援として中央教会の司祭と軍を派遣した。それを面白く思わないリスタルト王国が、白の騎士団を村に送ったって」
「白の騎士団って言ったら、フィリーさんの?」

 リリアの隣で優雅にナイフとフォークを動かしていたクレアの手が止まる。

「ええ、そうよ」
「メリダにとっても、ミスリル銀の採掘される鉱山は欲しいところですからねぇ」

 良質な鉱物資源の多くは隔絶の山脈、もしくは北の大地で採掘される。その為、武器の質においては魔族のほうが一段上だった。

「それだけじゃないわ。覚えてる、先の大戦で魔族達はあの村を最初に襲った。それから門(ゲート)の魔法陣を敷いて軍勢を送り込んできたのよ」
「どういうことだ? わかりやすく説明しろよ」

 禁呪である門(ゲート)の魔法は、異なる場所に同一の魔法陣を描くことで空間を繋ぎ物質を移動させることができる。北の大地に住む魔族が南の大地に侵攻する主なルートは隔絶の山脈の切れ目「大地の繋ぎ」と呼ばれる峡谷だった。決して広くはないが大軍を安全に移動させるには、ここしかない。

 先の大戦でも人間達は魔族侵攻の情報を掴むと連合軍をその付近に集結させた。ところが、魔族は地下坑道を通りピエタ村に奇襲をかけ、そこに門(ゲート)の魔法陣を設置し、大軍を送りこんできた。結果的に挟撃されることになった連合軍は大敗した。

「つまり、ピエタ村には北の大地と繋がる通路があるってことか」
「採掘用の地下坑道が繋がったんでしょうね。それともう一つ不思議な事があって、魔族の侵攻に際してピエタ村にはほとんど犠牲者がでなかったって」
「なんでだ?魔族の奇襲を受けたんだろ?」
「理由はわからないけど、戦後になって判明したらしいわ。しかもよ、村にはほとんど被害がなかったの。建物も壊されてなければ、畑も荒らされていなかった」
「なんだそれ?」
「確かにこれまでの魔族なら、略奪と破壊の限りを尽くしていたはずですね」

 クレアが当然の疑問を口にする。一般的には魔法を駆使して戦う人に対して、力づくしかない魔族は知性が低いものだと思われていた。

「まぁ、合理的ではあるわ。村を侵攻の橋頭保とするなら、インフラを破壊する必要はないしね」
「魔族がそんな高度な判断をするなんて」
「そこが、これまでの魔王と違ってたってことよ。敵ながら惜しい奴を亡くしたわ。案外話のわかるやつだったかもね」
「お前がそれを言うか」
「そうですよ。魔王城に奇襲をかけて問答無用で魔王を倒せばいいって言ったのはアリスさんですよ」
「まっそうだけどさ。過去の事は置いといて。どうやって魔王城へ向かうかよね」
「船で向かうのではなかったのですか?その為にアーバンに来たのかと」

 隔絶の山脈を越えずに北の大地へと渡るルートの一つにアーバンから海上を北に進むという道があった。

「ちょっと時期がねぇ、行きはギリ大丈夫そうだけど」

 北の海は時期によっては凍り付く、上陸するのには困難を伴った。

「それよりもリリア、あんたってアーバン出身だったわよね」
「そうだけど」
「私、あんたが産まれたとこに行ってみたいんだけどさ」
「はぁ、なんだそりゃ?」

 リリアの持つ規格外の魔力量、それは彼女が人の中の希少種である証だ。希少種が産まれる条件の一つに、魔力濃度が濃い場所で産まれ育つという事がある。これは自然条件だけでなく、母親の条件でもある。魔力の総量というのは、そう言った意味では遺伝であった。

「行ってもかまわねえけど、何にもないぜ」
「そんな事はないわ。あんたの桁違いな力の源。そこには何かがあるはずよ」

 こうして勇者一行は久しぶりの里帰りとなった。

 その頃、ピエタ村ではメリダとリスタルト、そして魔族の三つ巴の争いが幕を開けようとしていた。






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