短編 カフェ

2カフェ

チュンチュン。チュンチュン。
朝だ。眠りから覚めるが低血圧だからかスッキリ起きたためしがない。
清川夏子は気怠さを身に纏いながらバイトに行く準備をナマケモノのごとくいそいそと動き出した。

バイト先のスタッフ専用のドアを開けると一人大きな女性がテーブルに置いたパソコン画面を見ていた。
「おはよう。朝からはやいね」
「あ、店長。おはようございます。私、今日早番で、大学も休みなんです」
カフェの店長だ。コーヒーには精通しており、週末は宿泊客が多い為、週明けに夜遅くに仕入れたコーヒー豆に傷んだものがないかの選別をしており、コーヒーの淹れる煮るの工程も研究する熱心な人だった。
「昨日は休んじゃってごめんなさいね。兵庫のお土産休憩室に置いてるから皆が食べちゃう前に食べてね」
「ああ、だから居なかったんですね。久しぶりの劇場どうでした？」
カフェにも熱を籠めていたがこの店長、宝塚にも熱をあげていて、たまに月組のスターが引退だの、今度は花組スターが引退となると「楽しんでくるわね」と、休みをとっては劇場へ足を運ぶ人だった。
「ウフフ。そうなのよー。もう、めちゃくちゃ良かったのよー。やっぱり最高でね○○が黒の装束で車降りて－－－－」


…………しまった。私は宝塚のスターの顔もわからない、劇場に行ったこともない。私からしたらスターの名前も全く覚えられるはずもなく…………。
私は墓穴を掘ったことを痛感しながら店長の話に相槌を打っていたとき
「おはようございますー。あ、店長また宝塚のこと喋ってるんですか。バイトにはまらせようとするけど諦めないですねー」バイトリーダの金井さんだった。
「いいでしょ。絶対清川さんは宝塚にハマると私の直感が訴えてるのよー。だから是非私の押しのスターについて語ってるんだけどねー」
「いや、宝塚高いし、劇場から遠いし趣味にはハードル高いしね」
「ハア、そしてアンタはココ来たときから、宝塚はまってくれなかったわ」
「私はバレエ一筋ですから」
「そう言うと思ってハイこれーーー」
「どっこから出してきたんですか。そんな分厚いの！」ガンとテーブルに叩きつけた物をみる限り、分厚いアルバム本のようだ。
「これは～私の大好きな男性スターだったり姫役の生写真よ」
鼻息荒く堂々と宣言する店長。宝塚に行ったことはないけれど、生写真がどれだけお金がかかるかぐらいは、知識が浅い私でも知っていた。私と金井さんがうわーと、顔に出して引いたのは言うまでもない。
「いやー私はけっこうですよ。バレエのほうが好きだしー」
金井さんと店長はどんなに芸術性が優れているか宝塚VSバレエの話で永遠に話を続けており、この二人の間にいる自分は主張することもないため影が薄くなってしまうことを否めない。

職場は静かだか、裏は騒々しいことが多い。
今日も慌ただしく、スタッフ同士軽口を叩きながらオープン準備をするのだった。