将軍の宝玉

なか

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43.塔

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   今年は星見祭の警備の関係上、残念ながら祭りには連れていってあげられない。
   天体の動きを観測している星見師によると、今年はいつもより夜遅くに多くの星が降るらしい。それならば仕事が終わってからでも十分間に合う。

    子供の頃、王都で暮らしていてもほとんど療養生活だったシェリルノーラは祭に行ったことがないどころか、星見もしたことがないという。

   朝出る時に、昼寝をしておいてくださいと言っておいたが、いつになく年相応にワクワクしているのが隠しきれていないのが微笑ましかった。


   屋敷には昔、物見櫓として使われていたらしい古い塔がある。今は使用していないが、建物として問題もなく、屋上は街まで見渡せる。今夜星見ができるよう執事のダラスに命じてある。

 レイノルドは久しぶりに家族と祭を楽しめるよう、今日の勤務から外している。日が暮れる前に一度、本日の勤務者たちに大量に差し入れを持ってきたようだ。ついでに、部屋にも顔を出し、にやにやして帰っていった。

 奴がいないと静かすぎるくらいだが、小競り合いの対応の報告をいくつか受け、夜も更けた頃大きな問題もなく祭はお開きになった。後は通常より人数を増やした警邏の者たちに任せておけばいい。予定より少し過ぎたくらいで、今夜の担当者に声を掛け、詰所を後にした。

 愛馬を走らせ冷たい風を切って屋敷に帰りつくと、いつもは寝ている時間だが夜着を着ていないシェリルノーラが笑顔で出迎えてくれた。

「遅くなりました」

「お仕事お疲れ様です。先に夕食と入浴を済ませてしまいましたが、旦那様お食事は?」

「少し間で食べたので大丈夫ですよ。そろそろいい時間ですので、すぐに着替えてきます。ダラス、何かもう少し羽織るものを」

 共に出迎えていたダラスに準備とシェリルノーラを任せ、私室で軍服から急いで楽な恰好に着替える。
   このままでもいいのだが、せっかくだからリラックスして楽しみたい。

 玄関ホールへ戻ると、暖かそうな厚手の上着を着たシェリルノーラが待っていた。
   淡い水色のふわふわした柔らかな布地がよく似合っていた。もう少し寒い時期に備えて仕立てさせたが、ちょうどよかった。

「どちらに行くのですか?」

 その手を取り歩き出すと期待のこもった瞳で聞いてくる。それに微笑みで答えて、手を引いて誘導する。ランタンの灯りを頼りに暗い渡り廊下を進み、塔の入り口に立つ。

「ここからは階段が続きますので、灯りを持っていてください」

 ランタンをシェリリノーラに渡すと不思議そうに受け取る。少し屈んで腕を回し、縦に抱き上げた。
   驚いたのか小さな声を上げて首に抱き着かれる。ランタンが揺れて、影が左右の壁に写る。らせん状になった階段にも影が落ちた。

「一人で登れますので」

「暗くて足元が危ないのです。今夜は運ばせてください。その代わり、灯りをしっかり照らしてもらえませんか」

   そう頼むと逡巡していたようだが、そのまま歩き出す。諦めてくれたのか、歩きやすいように足元を照らし、疲れたら下ろしてくださいと言ってくる。彼を運ぶくらいなら疲れるはずもなく、しばらく階段を登り続けた。

   屋上へ続く扉の前で灯りを少し落としてもらい、扉をゆっくり開ける。


   そこに広がるのは満天の星。

   シェリルノーラが息を飲む音が聞こえた。

   空気が冷えてきたので、今夜は殊更よく星が見える。今日は可能な限り屋敷の明かりも抑えてある。
   
「……すごい……」

   四方が見やすいようにそっと体を下ろしてやると、溜息とともに声がもれる。
   薄暗闇でもその青翠の瞳が輝いているのが分かる。薄く開きっぱなしの口が可愛らしい。しばらくその横顔を堪能してから、腰に手を当て声をかける。

「さあ、あちらへ」

   そんなに広くないが、屋上の一角に何重にも絨毯が敷かれ、いくつものクッションが並べられていた。



   
   
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