将軍の宝玉

なか

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16. 侵入者

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 春から夏になる季節の変わり目、雨が続いていた。雨だと外に出られないので、当然馬場にも行けないし、鍛錬もできない。

   今日もしとしとと降る雨を窓から眺める。以前はずっとそんな生活をしていたのに、この2、3か月で私は贅沢になってしまったようだ。

 長雨の被害が出始めているところもあり、旦那様は今夜は遅くなるとの連絡があったのは夕食前。一人で食事を済ませ、もう休む時間になっても、帰りの知らせはない。大丈夫だろうか。
 窓から庭を見ると、屋敷の陰に剣を携えた警備の兵士の姿が見える。戦も終わり、治安もよく日常生活が営まれる中、この将軍の屋敷に何かあるとは思えないし、雨の中申し訳ない。

 しばらく読書をして時間をつぶしても、まだ旦那様は帰宅されない。遅い時間まで起きていると、とても心配されるので、帰ってこられるかはっきりしない場合は寝てしまうことにしている。
   大分大きくなってきたミーも心得たようにすでに足元で寝そべっている。薄い掛物をめくり、体を横たえた。


 どれくらい時間がたったのだろう。物音に目を覚ますと、ベッドの上でミーが毛を逆立てて低く唸っている。
   窓を雨が叩く音が聞こえるだけで、特に物音はしない。しかし、こんな様子は初めてだ。
 ベッドサイドに隠してある剣に手を伸ばす。普通の剣より細身の軽いこの剣は、あまり力のない私には適している。

「ミー、ここでいい子にしてて」

 そっと剣を取り、小剣の入った革袋を身につけると、物音を立てないように静かに廊下に出た。

 
 屋敷の中は静まり返っており、時折強く雨音がするだけ。小さな明かりが灯っている廊下を息を潜めて進む。

   奥の旦那様の書斎の扉の下の隙間から、ごく小さな光が漏れていた。警備の人を呼んできた方がよいが、その間に逃げられることは避けたい。

 屋敷の者に気づかれるように、扉を思い切り開ける。大きな音がして、部屋の中の者がこちらを振り向いた。
   顔を頭巾で覆った男が2人。書類が散乱し、執務机の周りや戸棚が荒らされている。
 男たちに向かって小剣を投げる。

 1本は肩に命中する。奥にいた男は執務机の陰にすんでのところで身を隠し、小剣は戸棚に突き刺さった。
 続けて肩をかばう男の動きを止めるために、太ももと狙いもう1本。動けない男はその場にうずくまる。
 
 もう1人の男が執務机を回って、剣を構えて切りかかってくる。体を反転させ、攻撃をかわすと廊下に出る。傍にあるガラスの花瓶を男に向けて投げつけた。

 ガシャーンと大きな音を立てて、かわされた花瓶が割れる。

「ちっ」

 男が舌打ちして、剣を突き出す。鞘を抜いて、その剣をいなす。

   力が強い相手の剣をまともに受けては、絶対に力負けしてしまう。夜着で動きにくいが、何とかかわしていく。
 しかし、いくら応戦していても、室内に控えているはずの警備の者が現れない。

「シェリルノーラ様!」

 階下からダラスさんの声が聞こえた。

「来ないで!警備の者に連絡をっ」

 ダラスさんは執事だ。剣を使えない場合、来ては危険なだけだ。とにかく剣を使える警備の者とこの男を取り押さえなければ。


 男はその隙に書斎に踵を返す。書斎には大きめのバルコニーがあり、庭に出られるようになっている。

   追って部屋に入ると、先ほどうずくまっていた男の姿はなく、バルコニーに続く扉が開いている。

   他に仲間がいたのか?
 
 バルコニー出ると冷たい雨風が視界を遮る。庭へ続く階段を駆け下りる男へ、小剣を投げつける。小剣は風に煽られ腕を掠めたが、男は剣を避けるためバランスを崩し、庭に転げ落ちた。
 やわらかい芝生で負傷しなかったのか、体制を整えた男が低い声で威嚇してくる。

「こいつめ。殺されたくなかったら引っ込んでろっ」

 このまま逃がすわけにはいかない。じりじりと剣を互いに向けて構え、間合いを図る。雨で服が張り付き、動きづらい。暗い中、目を凝らし、真正面の男に集中する。

 次の瞬間を頭上に剣に剣を振り上げ、男が切りかかってきた。


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