将軍の宝玉

なか

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14.子猫

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   遠乗後、馬も馬場も自由に使うようにと旦那様に言われ、頻繁に通うようになった。
   あの後、侍女だろうか、掛物をしてもらっても気付かないくらい深く眠ってしまっていた。

   小さい頃ずっと伏せっていたせいか、どうも体力がない。大分、丈夫にはなったとはいえ、情けない。
   もっと体力を付けようと、森もあるような広い屋敷の敷地を歩いたり、剣の稽古や馬に乗るようにしている。時間はたくさんあるし。

   あれから旦那様の馬のガイ以外の馬、みんなに乗ってみた。みんなよく訓練されているけど、最初に乗った芦毛のリラが一番しっくりくるみたいだ。
   今日もしばらく馬場で運動した後、馬丁さんにお礼を言って少し散策することにした。


   手入れの行き届いた花壇はどうやら私が来ることになって作られたらしい。まだまだ若い木や株も多い。
   ずっと王宮や離宮から出られなかった私にとって、花は僕を癒してくれる存在だった。旦那様はそんなことは知らないけれど、それでも、その気持ちがとても嬉しい。これからこの花壇も樹々も育っていくだろう。そう思うと、とても楽しみだ。

   旦那様は花には関心なさそうだけど、いつか一緒に散策できたらいいな。そう思いながら通り過ぎる。


   森林が広がる一角までくると、ぽつと雨粒が落ちてきた。曇り空だったけど、降り始めてしまった。
   屋敷に戻ろうとした時に、木の根元の茂みがガサガサ揺れた。前回のことがあるため、一瞬警戒するが、どうも気配が違う。

   小さい生き物がいるのかな。そっと近づくとこげ茶と灰色の毛が見えた。ミィーミィーと小さな鳴き声。
   しゃがんでそっと手を近づけてみる。

「おいで。大丈夫だよ」

   顔を出したのは痩せた子猫だった。3ヶ月くらいだろうか。警戒してプルプル震えている。

「大丈夫だよ。おいで」

   しばらく待ってみると、ゆっくりよろよろと近づいてくる。かなり弱ってるし、このままこの雨の中放置してしまうと、衰弱して死んでしまう。
   そっと抱き上げると、抵抗する体力もないみたいだった。

   子猫を抱いたまま、周囲を探してみても親猫も兄弟もいない。
   はぐれちゃたのかな。


「シェリルノーラ様、濡れてしまわれて!」


   屋敷にたどり着く直前で強く降ってきた雨に少し濡れてしまった。侍女たちに驚かれたけど、お風呂の用意のため慌ただしく去って行った。
   しかし、絨毯が濡れてしまうなと思ってその場立っていると大きなタオルを巻かれてしまった。

「ありがとう、ダラスさん」

「そのままで構いませんので、早くお部屋へ……何かお持ちですか?」

「庭にね、迷い込んでしまったみたいで、弱っていたから連れてきてしまったんです。すみません」

   そっと腕に抱いていた仔猫を見せる。もう一枚持っていたタオルで包んでくれる。

「こちらでお預かりいたしますので、シェリルノーラ様はどうぞ先に体を温めてきてください」

   自分で拾ってきて世話をお願いするのも気が引けたが、濡れたままだと絶対に熱を出す。そっちの方が迷惑をかけるのは分かっていたから、申し訳ないけど、そっとタオルに包んで彼に渡す。

「お願いします」

「安心しておまかせ下さい。さ、早く」

   ダラスさんに急かされて、部屋に戻ると浴室の準備はほぼ整っていた。


   あの子猫は大丈夫だろうか?弱ってひとりぼっちなあの子は、昔の自分を思い出す。元気になっても、このまま保護して一緒にいてあげたい。

   そう言えば旦那様は猫はお好きだろうか。嫌いでないといいのだけれど。



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