反芻

立夏 よう

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エピローグ

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ふいに引き戸が開き、照明が点く。
何度かお見かけして顔なじみになっていた若い看護師さんが、わたしがまだこの病室にいたことに驚き、部屋の入口で突っ立ったまま、まごまごしながら言葉を探している。
「あの、まさかおられるとは。あの、この度は本当に……」
わたしは彼女の言葉を遮るように、口を挟む。
「ごめんなさい、とっくに出ていかなければいけなかったんですが、少し考え事をしていたら思いのほか時間がたってしまっていたようで」
看護師さんは言葉を失ったように立ち尽くしている。

「看護師さんを困らせたら駄目じゃない」
耳元でそんな彼女の声が聴こえる、そうやって彼女はいつもわたしのことを少しおどけた口調でからかうのだ。あの口調を思い出し、わたしの口元はひとりでに緩み、そして歪む。耳元の後ろに彼女の息遣いを、気配、大気?を感じた気がして振り向きたくなる。そんなわけはないのに。

「すみませんでした。もう帰りますから」

わたしは名残惜しいこの病室を振り向くことなく後にする。もうここに来ることはないだろう。
そしてリノリウムの廊下を一人、歩く。

かけがえのない彼女の記憶を反芻しながら。
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