上 下
24 / 41

悠 7

しおりを挟む
放課後は千葉先生はだいたい職員室か、社会科準備室にいる。後者だったら話しやすい。南館の2階だから比較的教室から近いのでとりあえず寄ってみる。気が重すぎてもうなにも考えたくなくて、出たとこ勝負という心境。なんでも聞いちゃえ。

「失礼します」
と声かけて引き戸を開ける。
運良くなのか運悪くなのか、千葉先生は社会科準備室に一人だった。パソコンに向かって作業してる様子。千葉先生が振り向く。わたしはいつも動揺したり高揚したりするのに、今日のわたしは千葉先生の姿見たくらいでは無反応。

「あの、先生、伊東先生と親しかったんですか?」
単刀直入にぶつけてみる。千葉先生はちょっと戸惑った顔をした。

「警察に聞かれたこと誰かに聞いた?」

警察に聞かれたんだ。知らなかったな。

「まあ。いろいろと。友達も一緒にいるところ見たとかいう話もあったりで。個人的にこの前図書室でお聞きしたように、なんかすごく気になってるので、何かご存知でさしつかえなかったら、伊藤先生のこと、どういう事情なのか教えていただけないでしょうか」

随分不躾かつ厚かましいなと言いなが我ながら思うんだけど、他に言いようもなくて。

「学校でも噂になってるらしいけど、別につきあってるとかじゃなかったんだけどな、伊東先生とは。彼女が妙に積極的にいろいろ誘ってきて、それで一緒に飲んだりはしたけど、彼女には結構はっきりした下心あったわけで。そういうのもわかってのつきあいだから、心配するような話はなにもない」

心配?心配してるように見えるかな、わたし。

「下心ってなんですか?」

「知ってるかもしれないがうちは教育一家でね、伯父は市の教育長だし、父も祖父も叔母も教師。あれこれツテはなくはない。そんなのを知って声かけてきたんだろう」

千葉先生の話がまったく見えない。そんなわたしの様子を察したか補足してくれる。

「彼女のお姉さんの話は聞いてる?」

「ええ、亡くなられたっていう」

「お姉さんは小学校の先生でね、トラブルがあったのは確からしい。そのトラブルの経緯を知りたがってたんだよ。学校っていうところはそういう情報を漏らさないから、僕のツテでなんとか調べてもらえないかっていうのが彼女の下心」

美冬が言ってたお姉さんの話、あの話がここにつながってたんだ。想像してなかったな。

「それで何かわかったんですか?」

「せっかくだし彼女も思いつめてたからいろいろ聞いてあげたよ。ただやっぱりみんな口が重いから、知ってる人は少なくてほとんど噂どまりの不確実な話しかはいってこなかった。とはいえ、小学校でトラブルがあったことは確かで、異動先の教育委員会でもトラブルがあったらしい。小学校のことは僕のツテだと全然詳細は探れなかったけど、教育委員会ではお姉さんがおられた部署の、学校教育課初等教育担当の女の係長と折り合いが悪かったという話はあった。ただそれが直接自殺に至った経緯と言い切れるほどとは思えないって話みたいなんだけど、聞いたまま教えてあげたよ」

伊東先生はお姉さんの死のことで思いつめてたんだな、わざわざ千葉先生に頼むほど。でも、それでどうして彼女まで死ぬことになったんだろう。

「千葉先生は、伊東先生が自殺されたって思ってますか?」

千葉先生はしばらく考え込んでいた。

「正直、彼女のキャラクターがつかめなくてね、警察でも聞かれたけどわからない、心当たりはないというしかなかった。強いものを秘めてるんだなとは感じてた。なんらかの下心もって人に近づいていけるくらいの神経で、そういう必死さを持っているわけだから。その強さが、衝動的な行動に出る要素なのかもしれない。でもやっぱりわからないとしか言いようがない。あの日、図書室で本の予約をいれてたわけだから、生きるつもりはあったんじゃないかと僕も思いたい。だから事故か衝動的な何かの引き金となる出来事があったか、そのどちらかなのかなと考えて自分を納得させてみたものの」

先生はそこで一度言葉を切った。

「佐野さんは大丈夫?デリケートだといろいろ神経に来るんじゃないか?」

そして、スマホをいじりながら何かをメモして渡してくれた。

「これ追加用URL。連絡先、追加して」

えっ、えっ、予定外の展開なんだけど……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Vママ! ~中の人がお母さんでも推してくれる?~

ウメ
青春
「こんマリ~! メタライブ0期生、天母(あまも)マリアですぅ」  個性豊かなVTuberを抱える国内最大の運営会社メタライブ。マリアはそれを発足時から支える超有名VTuberだ。  そんな彼女の大ファンである秋山翔は、子離れできない母を煙たがる思春期の高校一年生だった。  しかし翔はある日、在宅ワークをする母の仕事部屋を覗き、マリアとして配信する姿を目撃してしまう。推しの中の人は、自分のウザい母だったのだ!  ショック死しそうになる翔。だが推しを好きな気持ちは変わらず、陰から母(推し)をサポートすることに。そんな事情を知らず、母はお風呂配信やお泊り配信の仕事を約束してしまい……  ――中の人が母だと知った息子を中心に織りなす、VTuber母子コメディ開幕! (※本作は【切り抜き】がきっかけで物語が進みます。また、第1話はキャラ紹介が中心になっています)

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

修行のため、女装して高校に通っています

らいち
青春
沢村由紀也の家は大衆演劇を営んでいて、由紀也はそこの看板女形だ。 人気もそこそこあるし、由紀也自身も自分の女形の出来にはある程度自信を持っていたのだが……。 団長である父親は、由紀也の女形の出来がどうしても気に入らなかったらしく、とんでもない要求を由紀也によこす。 それは修行のために、女装して高校に通えという事だった。 女装した美少年が美少女に変身したために起こる、楽しくてちょっぴり迷惑な物語♪(ちゃんと修行もしています) ※以前他サイトに投稿していた作品です。現在は下げており、タイトルも変えています。

俺、バンドは続けるっしょ。

日向の翼
青春
青春成長物語にしました。どうぞ宜しく。

坊主女子:髪フェチ男子短編集【短編集】

S.H.L
青春
髪フェチの男性に影響された女の子のストーリーの短編集

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

処理中です...