上 下
14 / 41

美冬 4

しおりを挟む
母の帰宅はいつも遅いけど今日はまた特に遅かった。

「お疲れ様、忙しいの?連日遅いね」

「忙しい忙しい。議会もあるし人手も足りないしでてんやわんやよ」

そういいながら、母は買ってきたものをテキパキと冷蔵庫にしまっていく。うちは朝がメインで、夜は各自が好きなものを食べるという家庭で、母は、これがドイツスタイルなんだと言い張っている。なんでもドイツでは夜は火を使わないものを簡素に食べるんだそうだ。そのために常時、冷蔵庫にはプチトマトにスプラウト、千切りキャベツや、生ハムに魚肉ソーセージ、チーかま、納豆、温泉卵、豆腐などそのまま食べられる素材がストックされてるし、冷凍庫にもいろいろ。夜はそんな感じで超軽いのが我が家なんだけど、とはいえ、母はこんなに遅く帰っても朝は早起きしてあれこれ料理する人だから、本当に頭が下がる、でもその分、行動が早く、帰ったかと思うとあっという間に就寝してるので、話すタイミングは非常に限られてる。

「ね、なんか伊東先生についての情報持ってるんでしょ?何なの?」

「うーん」
と言いながら、母はスーツ脱いでハンガーにかけてジャケットに衣類用スプレーを噴射。そして言った。

「まあいいか、この話は知ってる人はみんな知ってることなんだし。あのね、今回の件は自殺で処理されることになったみたい。遺書はないけど、争った形跡なし、争ってる目撃証言もゼロ、伊東先生の周辺にもトラブルらしいトラブルなし、柵についていた指紋も伊東先生のものがべったりってあたりが主な決め手ね。身内は叔母さんがいるくらいで、ご両親は早くに亡くなられてて叔母さんが親代わりなんだけど、彼女が遺体の確認をして引き取ったみたい。で、警察はともかくわたしたちのほうでも多分そうなんじゃないかなって思ってた理由は、伊東先生にはお姉さんがいたの、伊東志保さん。先生の3つ上で小学校の教師だった人」

「うん、それで?お姉さんがいることなんてまるで知らなかったけど、それが何?」

「彼女もね、2年前の春に自殺してるの。その時はちゃんと遺書もあったし問題なく自殺で処理されてるんだけど」

「え、びっくりなんだけど」

「榊公園、わかるでしょ?あそこの桜の木で首を吊って亡くなったの、伊東先生のお姉さん」


……絶句。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

あいみるのときはなかろう

穂祥 舞
青春
進学校である男子校の3年生・三喜雄(みきお)は、グリークラブに所属している。歌が好きでもっと学びたいという気持ちは強いが、親や声楽の先生の期待に応えられるほどの才能は無いと感じていた。 大学入試が迫り焦る気持ちが強まるなか、三喜雄は美術部員でありながら、ピアノを弾きこなす2年生の高崎(たかさき)の存在を知る。彼に興味を覚えた三喜雄が練習のための伴奏を頼むと、マイペースであまり人を近づけないタイプだと噂の高崎が、あっさりと引き受けてくれる。 ☆将来の道に迷う高校生の気持ちの揺れを描きたいと思います。拙作BL『あきとかな〜恋とはどんなものかしら〜』のスピンオフですが、物語としては完全に独立させています。ややBLニュアンスがあるかもしれません。★推敲版をエブリスタにも掲載しています。

沈黙のメダリスト

友清 井吹
青春
淳一は、神戸の下町で生まれ育った。父は震災で亡くなり、再婚した母も十五才の時、病気で喪う。義父は新たに再婚したので、高校から一人暮らしを余儀なくされる。水泳部で記録を伸ばし、駅伝にも出場して好タイムで走り注目される。  高二の時、生活費が途絶え、バイトをしながら学校に通う。担任の吉見から励まされながら防衛大を目指すが合格できず、奮起して国立の六甲大文学部に入学する。 大学では陸上競技部に入部し、長距離選手として頭角を現す。足を痛めて病院に行き、医師の次女、由佳と出会う。彼女は聾学校三年で同級生からの暴行事件で心を閉ざしていたが、淳一と知り合い、彼の走りを支えることで立ち直る。  淳一は、ロンドン五輪に出たいと由佳に打ち明け、神戸マラソンで二位、びわ湖毎日マラソンでは日本人一位になり五輪出場の夢を果たす。由佳にメダルを渡したいという一心で、二位入賞を果たす。帰国した夜、初めて淳一と由佳は結ばれる。 夢はかなったが、手話能力や生活環境の違いで二人の溝が露わになってくる。由佳は看護学校をやめてアメリカで学ぶ夢を持ち、淳一は仕方なく了承する。渡米してまもなく由佳は、現地の学生と関係を持ち妊娠してしまう。淳一は由佳の両親から経緯を知らされ自暴自棄になるが、高校の吉見から水泳部で淳一に思いを寄せていたみどりを紹介される。彼女のサポートを受け、再び陸上の世界に復帰する。 四回生の七月、かつて由佳が応援してくれた競技場で、五千mを走り、日本新記録を達成する。淳一は由佳の記憶を留め、次の目標に向かうことを決意する。

産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ
青春
高校へ入学したことをきっかけに産賀良助(うぶかりょうすけ)は日々の出来事を日記に付け始める。 彼の日々は変わらない人と変わろうとする人と変わっている人が出てくる至って普通の日常だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

きみウタ~たった3年間の歌春~

ヒヤ4ンス
青春
中学時代は野球部でレギュラーだった葵翔は強豪校に誘われていたが事故で肘を怪我し、野球を続けることが出来なくなった。 葵翔はその後、地元の作山高校に進学。 作山高校はごく普通の進学校で部活もそこそこ。 帰宅部として高校生活を終えようと考えていた葵翔だったが、部活解禁初日に思わぬ出会いが…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

ボーイッシュな学園の王子様(♀)助けたら懐かれたのか、彼女は俺の家ではやたらと無防備

アマサカナタ
青春
「――キミは酷いやつだよ。ボクの予想よりはるかに酷いやつだ」  親の仕事の都合で一人暮らしをしている高校生、ヒメノ ヤナギの通う学校には、みんなから慕われる“王子様”がいる。才色兼備、文武両道。ちょっと軟派なのが玉に瑕だが、困った人がいれば放っておけないような、そんな優しい王子様が。  名前はアマツマ テンマ。入学当初からその美貌で学校中の話題をさらい、学校の女の子の視線を釘付けにした――女の子。  学校の有名人でありクラスの中心人物でもある彼女と、平凡な一生徒でしかないヤナギは、同級生ではあってもほとんど関わりのない生活を送っていた。  通学路でケガしていた彼女を、手当てしたあの日までは。 「……ヒメノってさ。お節介だってよく言われない?」 「言われたことはないな。普段なら人助けなんかしないし」 「胸張って言うことじゃないよ、それ」  その日以来、テンマは何故かヤナギのことを気に入ったようで。一人暮らしのヤナギのマンションに、暇を見つけては入り浸るようになる。渋々受け入れるヤナギだが、彼女はわざとかと思うほど無防備で――……  親の転勤に付き合い続けたせいで人付き合いがヘタクソな少年と、そんな少年が気に入った王子様(♀)。  これは二人のちょっとした、恋愛に至るまでの平凡な日常。

処理中です...