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放課後、直接、楓の家に行った。ピンポンしたら部屋着の楓が出てきた。ちょっと痩せた?顔色も冴えない。でも楓だ。楓だ。
口からは怒涛のように詰る言葉が飛び出していく。

「ねえなんで?既読つけたら伝わるだろって言ってたのに、ずっとつかないし。心配いらないって聞いててもこっちがどれだけ怖いかわかる?」

楓はあたしから目をそらす。普段の楓らしくないちょっとだけ優しい声。

「ごめんな」
「俺、お前のこと傷つけただろ。対等な顔してたかったけど、違ってることはわかってた。お前が嫌だと言えないようにもっていって、ずるかったと思う。なんかいろいろ嫌すぎて、思考停止させてたっていうか、何も考えたくなくて、逃げてた。ちっちゃいよな。自分勝手で傷つけてたことはわかってるくせに、もっと心配させるとか。まじで自分で自分が最低なことはよくわかってる。ほんとごめんな。意地はってたっていうか、とにかく逃げてた。」

楓の本音がとても好き。彼が好きというより、彼がたまーに絞り出すように語る本音が聞けることが貴重すぎて嬉しい。

「傷ついたんじゃない。そこ勝手に決めないで。あたしは傷ついてない。あのとき、嫌だったら嫌だってあたしはちゃんと言えた。あんな言い方したのは自分で自分を確かめたかったし、楓がどういう気持ちなのか知りたかっただけ。嫌じゃなかったってこと、伝わってなかったの?」

楓の目を覗き込む。そしてあたしたちは見つめ合う。

あの日は、あれは、自分が自分じゃないみたいな他人事みたいな気持ちだった。だから記憶もどこかおぼろげで自分に起きたことっていう実感がないくらい、すべて嘘みたいって今でも思う。あんなことしたなんて信じられない。でも今は心底ドキドキしてて心臓がバクバクしてる。今度は、自分に起きてる瞬間で事象だってはっきり自覚できてる。
楓の目が優しい。あの時の瀬川の視線と同じくらい優しくて、しかもその目はあたしをまっすぐ見てて、動揺。彼のこの視線、表情。
こんな顔するなんて。この表情をずっと覚えておけたらな、大人になってもずっと、ずっと。

見つめ合ってると心臓が一層バクバクしてきた。この動揺は、気の所為とかなんとか言い訳して封じ込めることがもうできないやつ。だって、あたしたち、距離が近くって。近すぎて……。





受験ってことで、あたしたちの読書会グループは活動しなくなった。あたしと瀬川は勿論同じ高校だけど、たまにすれ違うくらい。

「誰かを好きになったことなんて一度もない」って、あの日言ってたけど
多分、あたしたちみんな嘘つきだったね。

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