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あれから、楓は入院した。例の手術のためらしい。
そして、瀬川が送ったグループLINEは既読が2になることはなかった。ずっと。

瀬川に聞けば、もっと詳しい状況が聞けたのかもしれないけど、怖くて何も言い出せなかった。とにかく怖くてたまらなかった。
あの日から何の連絡もなく、感情としてはほ放置されたくらいの感覚なんだけど、さすがにそれを責めるわけにも問い詰めるわけにもいかず、気持ちのやり場をどこにもっていっていいのかわからない。甘く構われたかったわけじゃないけど、とはいえこの状況のわからなさとあわせてやりきれない。今の関係は何なのか、楓の状態はどうなのか、そのどちらがより知りたいのかもわからないまま、知りたいことを知れないしんどさで、もんもんとするしかなかった。

そんなもんもんとしてやるせない気分のあたしの前に、瀬川が立ってた。
「ちょっと話せる?」


渡り廊下は風が強い。なんでこんなところでと思いつつ、確かにあまり人に聞かれたくない気分なので文句も言えない。
瀬川が口を開く。

「楓、もう退院してるんだよ。でも既読つかないままが続いてるから心配してるんじゃないかと思って」

なんか急に泣きそうになって鼻の奥がツンとする。聞きたかったことを聞けたせいか力抜けてしまって、今すぐここで座り込みたいような気分。

「退院してるけどまだ学校は休んでるらしい。どうせすぐ冬休みにはいるからって。電話かかってきてちょっとだけ話したんだけど、なんかグループのほうは放置してるから気になって。晶に直接連絡きてないんだったら心配してるんじゃないかって」

「うん。気になってたから、聞けてたすかった。ありがとう」

「俺が紹介したようなもんだからな」

瀬川はそう言って踵を返した。

「なんで?」

あたしは彼の背中に言った。

「なんで瀬川はあたしたち2人を読書会に誘ったの?」

瀬川は立ち止まる。

「なんでかって?利己的な行為だよ。ただ、それだけ。親切心でも何も考えてないわけでもない。それがいいと思っただけ。自分のため」


瀬川の言葉の意味を考えてしまう。
あの日のことを思い出す。楓の家で3人でだらだらと過ごしてた夏の日のこと。覚えてるのは、ふとした時に見てしまった瀬川の表情。この人ってこんな顔するんだって思った。
なんとも筆舌に尽くしがたい見たこともないような優しい目で、あたしじゃないほうを見てた。

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