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第二部 一章【愛すべき妖精剣士とぶどう農園】(ジェスタ編)
お互いの戦いの果てに……
しおりを挟む「「メイガーマグナム!」」
ノルンとグスタフはゆっくりと流れているファメタスの残滓へ光弾を放った。
もはや相当弱っているのか、ファメタスの残滓はあっさりと光に焼かれて、存在をかき消してゆく。
しかし全てを討伐できたわけではなかった。現に、残滓はゆっくりとだが、確実に農園の方向へ流れこもうとしている。
「んったく、なんでこんなところにまで!」
「グスタフ、ここは良い! お前は火口への流入作業を継続してくれ!」
「お前はどうすんだよ!?」
「俺はここでファメタスを食い止める! この程度ならば俺1人で十分だ!」
「で、でもよぉ!」
「元を絶たねば意味がない! 頼む!」
ここが正念場だとノルンは判断した。
ジェスタのワイン造りも残り一本。
最後の最後で転けさせるわけには行かない。
「さぁ、行ってくれ!」
「わかった! 終わったらすぐに戻ってくる! お前も無理すんじゃねぇぞ!」
グスタフはラングに飛び乗り、元の場所へと戻って行く。
ノルンは雑嚢から青く輝き鉱石を取り出す。
エリクシルーー勇者を解任になった際、ユニコンから渡された手切金代わりだった。
(まさかこれに頼る日がまた来るとはな……)
そう心の中で嘲るも、これがあって良かったとも思った。
ノルンは青白い輝きを放つエリクシルを砕く。
刹那、荘厳な青い輝きが彼を包み込んだ。
「聖鎧装着(キャスト・オン)!」
鍵たる言葉が響き、異空間から漆黒の鎧が顕現する。
それはノルンの身体へ瞬時に吸い付き、彼を鋼鉄の戦士へと変貌させる。
見た目は黒の勇者バンシィそのもの。
しかし中身は、その力に到底及ばない人間のノルン。
それでも何も装備しないよりは遥にマシである。
「ファメタス、これでお前との因縁を決着させるぞ!」
漆黒の戦士となったノルンは迫り来る黄金の粘液へ立ち向かっていった。
⚫️⚫️⚫️
「あれ? そういえばノルンは?」
最後の収穫の朝、ジェスタは辺りを見渡すが、ノルンの姿を見つけられずにいた。
「ノルン殿は本日も管理人としてのお仕事があるそうです。申し訳ないとお嬢様へ仰っておいででした。しかしお仕事が終わり次第、駆けつけてくださるそうです」
「そっか、それじゃ仕方ないね。じゃあ、シェザールみなさんへ号令を!」
「はっ! それではみなさん、今年最後の収穫となります! どうぞよろしくお願いいたします!」
シェザールが号令を発し、葡萄の収穫作業が始まる。
ジェスタは葡萄園の向こうにある林へ一瞬視線を送っていたのだった。
⚫️⚫️⚫️
「EDF(アースディフェンスフォース)! ファメタスを蹂躙しろぉー!」
ノルンのばら撒いた鉱石が、鋼のカブトムシや鳥に変化して、ファメタスの粘液へ襲いかかった。
粘液は爆破魔法に焼かれ、消滅してゆく。
勢いは弱まっている。確実にファメタスを殲滅することができている。
「いける、いけるぞ、これならば……ふははは!! あははは!!」
ノルンは自分を鼓舞するように笑い声を上げた。
鎧を装着したことで魔力や身体能力は向上していた。
しかし今のノルンはただの人。聖鎧の長時間の着用は体に多大な負荷がかかっていたのだった。
それでも尚、ノルンは戦い続ける。
第二の人生を与えてくれたヨーツンヘイムを、そして愛するジェスタと彼女の夢を守るために。
もう二度と大事なものや人を失わないために……。
「FA……FAME……!」
「なんだと……?」
ノルンの傍で、残ったファメタスの残滓が集合を始めていた。
黄金の粘液は寄り集まり、次第に形を成して行く。
そしてノルンの目の前に、女人を象った不気味なスライムが姿を表す。
「最後の悪あがきといったところか……ファメタス!」
「FAME……FA、F A……」
「広がっているよりも都合が良い。一気にやらせてもらうぞ!」
ノルンは炎を封じた赤い魔石を取り出し、そして砕いた。
紅蓮の炎が巻き起こり、鎧姿のノルンを包み込む。
「これが俺の愛と怒りと、そして未来への希望の!」
炎が両腕に収束し、真っ赤で鮮やかな剣を形作る。
そして今は亡き、師の姿を思い浮かべる。
かつて守ることのできなかった大切な人。
彼女の死は、ノルンの心へ強烈に焼き付いていて、戦う力を呼び起こす。
「フレイムフィンガーソード!」
「FAME EEEE!!」
ノルンの振り落とした炎の剣と、ファメタスが伸ばした腕が夕暮れの森で激しくぶつかり合った。
⚫️⚫️⚫️
「全く、邪魔しやがって。だけどこれで……あばよ、ファメタス……」
グスタフはオッゴの上から、最後のファメタスの残滓が火口へ流れ込むのを確認する。
彼は手綱を引き、夜の闇の中へ消えてゆく。
そしてもう1人、激しい戦いを制した男が、愛する女のところへ向かっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……ジェスタ……ジェスタぁ……!」
ノルンを覆っていた漆黒の鎧の大半は失われていた。
体も限界を迎え、辛うじて意識を保てる状態にあった。
それでも彼はファメタスから守り切った葡萄園を歩き続ける。
深夜になっても尚、煌々と灯りが灯っている醸造場を目指して歩き続ける。
ーーきっと彼女も、ジェスタも、あそこで最後の戦いを繰り広げている。
応援すると約束した。支えると約束した。だからこそ、ノルンはその約束を果たすべく、意識をギリギリ保ち、彼女の元へと急ぐ。
「よしこれで……みんなこれまでご苦労! 今年の仕込みはこれで終了だ! 本当にありがとう!!」
醸造場へたどり着くと、そうジェスタが叫んでいた。
シェザールや護衛隊、ギラに、トーカ、多くの醸造に携わった人達は安堵の息を漏らして、その場に座り込む。
「お、おい、あれって……ノルンじゃねぇか!?」
ノルンの存在にガルスが気付き、切迫した声をあげる。
それまで安堵の笑みを浮かべていたジェスタが、顔を真っ青に染めて、一目散に駆け寄ってくる。
「ど、どうしたんだノルン!? こんなにボロボロで、しかも鎧なんて装着して!?」
「……す、少し野暮用があってな」
ジェスタに抱かれ、ようやく安心できたノルンの口から軽い口が溢れでた。
「もしや魔物か?」
「ああ。しかしもう大丈夫だ。グスタフと俺が、ファメタスを倒した。問題ない……」
「やはり、そうだったのか……」
「知っていたのか?」
「何かがあるとは感じ取っていたし、貴方が必死に戦っていたのは知っていた。だけどファメタスだったとは……ごめん、私が完全に消し去らなかったばかりに、貴方にこんな負担を……」
ジェスタの瞳から涙がこぼれ出る。
ノルンは辛うじて動く指先で、涙を拭ってやった。
「お前を支えると約束した。それを実行しただけだ。気にするな」
「全く、貴方という人は……そういうところが、私の心を掴んで離さないんだな……」
ジェスタは唇を添えてきた。
冷え切った唇が、ジェスタの熱によって暖かさを取り戻してゆくのがわかた。
「こちらもさきほど全てが終わった。こうして作業に集中できたのもノルンのおかげだ。本当にどうもありがとう」
「そうか。ならば良かった……」
「まずはお互いゆっくり休もう。そうしたら私は貴方とようやく……」
「ようやくだな。楽しみにしているぞ……」
2人は互いを抱きしめあった。
お互いの頑張りを称え合った。
こうしてノルンとジェスタは互いの戦いを終え、そして日常へ戻ってゆくのだった。
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