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第一部 三章【かつての仲間達がヨーツンヘイムへやってきた!】
割ることも、裂くこともなく1は1のままで。
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「寒いですねぇ……」
隣を歩くリゼルは寒さで手を真っ赤に染めていた。
彼女の出身地であるスーイエイブ州は年間を通じて温暖な気候だ。この寒さは堪えるのかもしれない。
そう思ったノルンはリゼルの手を取って、一緒に自分のコートのポケットへ突っ込んだ。
リゼルは顔を真っ赤に染めて、嬉しそうに微笑んだ。
ポケットの中で彼女の冷たいが、柔らかい手が握り返されてくる。
「あったかい……ありがとうございます!」
「片手だけで申し訳ない。実は今、グスタフに頼んで君の手袋を手配させている。もう少し辛抱してくれ」
「そうなんですか。ありがとうございます! でも、そのことは今この場で聞きたくなかったです」
「そうか?」
「そうですよ! プレゼントはサプライズの方が嬉しいものなんです」
「そうか……難しいものだな」
「でも、嬉しいですっ! 手袋、楽しみにしてますね!」
ようやく診療所の忙しさが終わったのか、リゼルはここ最近、またよく笑うようになっていた。
以前のように一緒に寝るようにもなった。
多少頻度は落ちてきたが、それでも夜な夜なお互いを強く求めあっているが……もっとも、そういうことが無くても、あまり寂しくはない。
リゼルが側にいる。笑ってくれている。それだけで十分すぎるほど幸せだった。
「顔に何かついてます?」
「付いてはいない……気にするな……」
うっかりリゼルを見つめていたらしい。
恥ずかしさが込み上げ、耳が熱くなる。
「そ、そういえば最近、ジェスタ達をみかけないな!」
「そういえばそうですね……ロト様は酒場で働いてらっしゃるそうですけど……」
さすがのノルンでも、リゼルとロトの間に、何かがあったことくらいは察しがついていた。
優劣をつけるのは良く無いのはわかっている。
しかし曖昧なままで、どっちつかずでいるのはもっと最悪であるとも思っていた。
(心も、身体も1つきりだ。それは王でも、貴族でも 俺も同じ……与えられている時間は皆等しい……)
器用を装って立ち回っても、結局物理的な時間はその分割れてしまうのは避けようのない事実。
(割った1つは決して分身をした2つではない。本来あったはずの1を半分にしただけの見せかけだ……)
強く愛する人がいるならば、その人へ全ての時間を、愛情をかけるべき。
勇者時代の長い旅路の中で、複数の一夫多妻を見て、ノルンはそう考えるようになっていた。
「最近、ロト様に会ってます?」
「いや……」
ノルンとて木の股の間から産まれたわけでは無かった。
自分へ向けられている感情がどんなものなのか、なんとなくだが察しはついていた。
雄としての本能が、それに反応を示していたという自覚もある。
おそらくノルンがその気になれば、王や貴族、ユニコンのように、彼女たちを囲うことはできるだろう。
それでもノルンはその選択を廃して、リゼルを選んだ。
(誰かを選べば、誰かが傷つくことは百も承知している……)
しかし選ばなければ一番大事にしたいリゼルが一番傷つくと思った。
これがこの決断を下した最たる理由だった。
(俺を救ってくれたのはリゼルだ。リゼルがずっと傍にいてくれたからこそ、俺は……!)
ノルンにとって割ることも裂くこともなく、1を1のまま捧げたいと思ったのは、リゼルだったのだ。
「もうロトはいい大人だ。そろそろ俺から離れてもらわなければ困る」
「……本当に、ノルン様はそれでいいんですか?」
ポケットの中のリゼルの手へ僅かに力がこもる。
少し不安げな視線が向けられてくる。
そんなリゼルの頭をノルンは優しく撫でた。
「俺の全てを捧げたいのはリゼル、君だ。それに俺は、色々な人へいい顔をできるような器用な人間ではない……」
「……」
「リゼルは今の俺にとっての生きる意味だ。ならば、俺の時間を、人生を全て、君に捧げたい。俺の1は1のまま、そっくり君に渡したい。割ることも、裂くこともなく、ずっと君を愛するという1のままで」
「……ノルン様って、時々、さらりとそういうドキッとすること言いますよねぇ……」
「そうか?」
「そうですよ……でも嬉しいです。とっても……」
リゼルはより身を寄せて来る。
ヨーツンヘイムを包み込む冬の空気は、凍えるほど冷たい。
しかしこうしてリゼルが側にいて、彼女の熱がいつも感じられるならば、寒さなど何するものぞ。
もはや勇者では無くなったノルンに世界は救えない。
しかし、リゼルと、彼女との愛おしい生活を送っているヨーツンヘイムだけは、何かえても守りたい。
そう思ってやまない。
ふと、そんなことを考えたノルンとリゼルの脇に、一台の立派な馬竜に引かれた荷車が止まる。
「やぁ! ノルンにリゼルさん! こんにちは!」
コートを羽織ったジェスタがひょいと荷車から降り立ってくる。
「久しぶりだな。どこかへ行っていたのか?」
「ああ。色々と取りに少しジャハナムへな。アンクシャもデルタも、私と同じ目的で一度故郷へ帰っている」
「随分と大荷物のようだな?」
ノルンは荷車に積まれた、妙な木などを見上げる。
「ああ! なにせ祭の準備だからな!」
「祭?」
「ああ! バルカポッドでは年の瀬の近くに、神々へ一年の感謝をするためにノエル祭というのを開くんだ! この木を皆で装飾して、それを囲んで美味しいものを食べたり、お酒を飲んだり、歌ったり、踊ったり……ああ、そうそう! 参加者皆でプレゼントを持ち寄って交換したりもするんだぞ!」
「ほう、それはなかなか楽しそうな祭だな」
「とっても楽しいさ! この話をしたらアンクシャもデルタも乗る気でな! 今回はここでやるのは初めてだから、たくさんの村の人にノエル祭に参加して貰いたくて誘っているところなんだ!」
ジェスタは少女のように、楽しげにそう語りながら、刻印の打たれた招待状を手渡してくる。
「是非、ノルンも来てくれ! もちろん、リゼルさんも一緒に!」
「なるほど……了解した。それで、明日の集合場所は?」
「あ、明日? いや、祭は一週間後に教会でだが……」
「なら準備もそこでなんだな!?」
「えっ? あ、ああ、まぁ……」
「心得た! 明朝より参加する! こうしてはおれん!!」
色々と盛大に勘違いしているノルンは、一人道をかけてゆく。
「もしかしてノルンは……」
「準備の手伝いって勘違いしてますね……」
取り残されたリゼルとジェスタは、もうだいぶ遠くなったノルンの背中をみて苦笑いを浮かべる。
「しかし、今のノルンは幸せそうだ。本当に……きっと彼がああ言うふうになったのも、リゼルさんのおかげだ。どうもありがとう」
「ジェ、ジェスタ様!? そんな!!」
ジェスタは深々と腰をおり、リゼルへ頭を下げる。
「どうやら私たちでは彼を満足させられないらしい。そのことが先日の森での収穫で良くわかった」
「……」
「正直にいうと、我らにはそれぞれの願いがあった。しかしその願いを叶えるために行動をしても、ノルンを貴方と一緒にいる時のような笑顔にはしてやれないと痛感した」
「……」
「我らが最も願うは彼の幸せだ。過酷な運命から解放された彼を、もう二度と辛い目に合わせたくはないんだ」
「…………」
「だからどうかこれからも、ノルンのことを支えてくれると嬉しい。これからも彼がずっと笑顔でいられるよう、側にいてやって欲しい。これが我ら三姫士の総意だ」
「ジェスタ様……頑張ります。一生懸命、これからも……」
リゼルがそう告げると、ジェスタは顔をあげて笑顔を浮かべた。
「よろしく頼む。あと、これからは私のことは"ジェスタ様“ではなく気軽に"ジェスタ“と呼んでくれると嬉しい」
「良いんですか……?」
「ああ。あなたとはもっと仲良くなりたいんだ。お願いできるか?」
ジェスタは手を差し出してくる。
リゼルは差し出された手を、そっと握り返した。
「よろしくお願いします、ジェスタ……さん?」
「ああ! これで私たちは友達だ! ついでにアンクシャとデルタもあなたと友達に成りたがっている。良かったらこの後、屋敷にきてくれないか? きっと同じようなことをすると思うが……とりあえず驚いてやってくれ」
「わかりました。とりあえず、驚くようにしますね!」
リゼルとジェスタは揃ってクスクスと笑い声を上げるのだった。
⚫️⚫️⚫️
「さぁ、デルタ行くぞ!」
「ガウッ! ガァァァ!!」
あくる日、教会を訪れたノルンは立派な針葉樹をデルタと共に教会の庭先に建てていた。
「リゼル! 確認!」
「もうちょっと右です!」
「ガウッ!」
確認役のリゼルの声に従ってデルタは翼を羽ばたかせて、木を少し移動させる。
「ああ! デルタさん! ストップストップ! 行き過ぎです!」
「こ、こっちか!?」
「そうそう! そのまま……ああ! ずれました!」
「グルルル……難しい……!」
いつの間にかリゼルとデルタは仲良くなってたらしい。
「おーい、リゼちゃん! ちょっと来ておくれよー!」
「は、はーい! デルタさん、あとお願いしますね!」
リゼルは庭のど真ん中の大荷物の中で後ろ髪を掻いていたアンクシャへ駆け寄ってゆく。
「どうかしましたか?」
「いや、天麩羅粉がみつかんねぇんだよ。リゼちゃん、どっかにしまった?」
「ええっと、確か……」
リゼルとアンクシャは大荷物の中へ潜り込み、お尻を突き出している。
どうやらアンクシャとも、交友関係になっているらしい。
(こう並んでみると、やはりアンクシャよりも、リゼルの方が女性的か……)
と、ノルンはまた妙なことを考えていた自分に恥じらいを覚えた。
「ああもう二人とも! こんなに散らかして!」
気がつくとジェスタが怒りの声をあげている。
彼女の前でリゼルとアンクシャが仲良く正座をして、ジェスタに怒声を浴びている。
「全く……そもそもものを丁寧に扱わない奴はだな……」
「リゼちゃん、こいつの話真剣に聞く必要ねぇぜ?」
「そうなんですか……?」
「おう! こいつの部屋、人にはとやかく言うくせにめっちゃ汚いんだぜ? パンツがいつも部屋の中に干しっぱなしでさぁ……」
「よ、余計なことをいうなっ! それに私の部屋は汚くはない! ものは多いが、私はどこに、何があるか把握しているし、あれは立派な収納術だ! それに下着を部屋干ししているのは、盗難対策でだな!」
喧々轟々とジェスタとアンクシャはいつものやり取りを始める。
リゼルはその間に入って、諌めようとしている。
大変そうだが、楽しそうには見えた。
ふと、背後に視線を感じて、振り返る。
瞬間、サッと木の影に何かが隠れた。
しかしちらりと見えた髪の一端が、誰だと知らせてくる。
(何をしているんだ、あんなところで……)
ノルンは、木の裏へ隠れたロトへ歩み寄ってゆく。
隣を歩くリゼルは寒さで手を真っ赤に染めていた。
彼女の出身地であるスーイエイブ州は年間を通じて温暖な気候だ。この寒さは堪えるのかもしれない。
そう思ったノルンはリゼルの手を取って、一緒に自分のコートのポケットへ突っ込んだ。
リゼルは顔を真っ赤に染めて、嬉しそうに微笑んだ。
ポケットの中で彼女の冷たいが、柔らかい手が握り返されてくる。
「あったかい……ありがとうございます!」
「片手だけで申し訳ない。実は今、グスタフに頼んで君の手袋を手配させている。もう少し辛抱してくれ」
「そうなんですか。ありがとうございます! でも、そのことは今この場で聞きたくなかったです」
「そうか?」
「そうですよ! プレゼントはサプライズの方が嬉しいものなんです」
「そうか……難しいものだな」
「でも、嬉しいですっ! 手袋、楽しみにしてますね!」
ようやく診療所の忙しさが終わったのか、リゼルはここ最近、またよく笑うようになっていた。
以前のように一緒に寝るようにもなった。
多少頻度は落ちてきたが、それでも夜な夜なお互いを強く求めあっているが……もっとも、そういうことが無くても、あまり寂しくはない。
リゼルが側にいる。笑ってくれている。それだけで十分すぎるほど幸せだった。
「顔に何かついてます?」
「付いてはいない……気にするな……」
うっかりリゼルを見つめていたらしい。
恥ずかしさが込み上げ、耳が熱くなる。
「そ、そういえば最近、ジェスタ達をみかけないな!」
「そういえばそうですね……ロト様は酒場で働いてらっしゃるそうですけど……」
さすがのノルンでも、リゼルとロトの間に、何かがあったことくらいは察しがついていた。
優劣をつけるのは良く無いのはわかっている。
しかし曖昧なままで、どっちつかずでいるのはもっと最悪であるとも思っていた。
(心も、身体も1つきりだ。それは王でも、貴族でも 俺も同じ……与えられている時間は皆等しい……)
器用を装って立ち回っても、結局物理的な時間はその分割れてしまうのは避けようのない事実。
(割った1つは決して分身をした2つではない。本来あったはずの1を半分にしただけの見せかけだ……)
強く愛する人がいるならば、その人へ全ての時間を、愛情をかけるべき。
勇者時代の長い旅路の中で、複数の一夫多妻を見て、ノルンはそう考えるようになっていた。
「最近、ロト様に会ってます?」
「いや……」
ノルンとて木の股の間から産まれたわけでは無かった。
自分へ向けられている感情がどんなものなのか、なんとなくだが察しはついていた。
雄としての本能が、それに反応を示していたという自覚もある。
おそらくノルンがその気になれば、王や貴族、ユニコンのように、彼女たちを囲うことはできるだろう。
それでもノルンはその選択を廃して、リゼルを選んだ。
(誰かを選べば、誰かが傷つくことは百も承知している……)
しかし選ばなければ一番大事にしたいリゼルが一番傷つくと思った。
これがこの決断を下した最たる理由だった。
(俺を救ってくれたのはリゼルだ。リゼルがずっと傍にいてくれたからこそ、俺は……!)
ノルンにとって割ることも裂くこともなく、1を1のまま捧げたいと思ったのは、リゼルだったのだ。
「もうロトはいい大人だ。そろそろ俺から離れてもらわなければ困る」
「……本当に、ノルン様はそれでいいんですか?」
ポケットの中のリゼルの手へ僅かに力がこもる。
少し不安げな視線が向けられてくる。
そんなリゼルの頭をノルンは優しく撫でた。
「俺の全てを捧げたいのはリゼル、君だ。それに俺は、色々な人へいい顔をできるような器用な人間ではない……」
「……」
「リゼルは今の俺にとっての生きる意味だ。ならば、俺の時間を、人生を全て、君に捧げたい。俺の1は1のまま、そっくり君に渡したい。割ることも、裂くこともなく、ずっと君を愛するという1のままで」
「……ノルン様って、時々、さらりとそういうドキッとすること言いますよねぇ……」
「そうか?」
「そうですよ……でも嬉しいです。とっても……」
リゼルはより身を寄せて来る。
ヨーツンヘイムを包み込む冬の空気は、凍えるほど冷たい。
しかしこうしてリゼルが側にいて、彼女の熱がいつも感じられるならば、寒さなど何するものぞ。
もはや勇者では無くなったノルンに世界は救えない。
しかし、リゼルと、彼女との愛おしい生活を送っているヨーツンヘイムだけは、何かえても守りたい。
そう思ってやまない。
ふと、そんなことを考えたノルンとリゼルの脇に、一台の立派な馬竜に引かれた荷車が止まる。
「やぁ! ノルンにリゼルさん! こんにちは!」
コートを羽織ったジェスタがひょいと荷車から降り立ってくる。
「久しぶりだな。どこかへ行っていたのか?」
「ああ。色々と取りに少しジャハナムへな。アンクシャもデルタも、私と同じ目的で一度故郷へ帰っている」
「随分と大荷物のようだな?」
ノルンは荷車に積まれた、妙な木などを見上げる。
「ああ! なにせ祭の準備だからな!」
「祭?」
「ああ! バルカポッドでは年の瀬の近くに、神々へ一年の感謝をするためにノエル祭というのを開くんだ! この木を皆で装飾して、それを囲んで美味しいものを食べたり、お酒を飲んだり、歌ったり、踊ったり……ああ、そうそう! 参加者皆でプレゼントを持ち寄って交換したりもするんだぞ!」
「ほう、それはなかなか楽しそうな祭だな」
「とっても楽しいさ! この話をしたらアンクシャもデルタも乗る気でな! 今回はここでやるのは初めてだから、たくさんの村の人にノエル祭に参加して貰いたくて誘っているところなんだ!」
ジェスタは少女のように、楽しげにそう語りながら、刻印の打たれた招待状を手渡してくる。
「是非、ノルンも来てくれ! もちろん、リゼルさんも一緒に!」
「なるほど……了解した。それで、明日の集合場所は?」
「あ、明日? いや、祭は一週間後に教会でだが……」
「なら準備もそこでなんだな!?」
「えっ? あ、ああ、まぁ……」
「心得た! 明朝より参加する! こうしてはおれん!!」
色々と盛大に勘違いしているノルンは、一人道をかけてゆく。
「もしかしてノルンは……」
「準備の手伝いって勘違いしてますね……」
取り残されたリゼルとジェスタは、もうだいぶ遠くなったノルンの背中をみて苦笑いを浮かべる。
「しかし、今のノルンは幸せそうだ。本当に……きっと彼がああ言うふうになったのも、リゼルさんのおかげだ。どうもありがとう」
「ジェ、ジェスタ様!? そんな!!」
ジェスタは深々と腰をおり、リゼルへ頭を下げる。
「どうやら私たちでは彼を満足させられないらしい。そのことが先日の森での収穫で良くわかった」
「……」
「正直にいうと、我らにはそれぞれの願いがあった。しかしその願いを叶えるために行動をしても、ノルンを貴方と一緒にいる時のような笑顔にはしてやれないと痛感した」
「……」
「我らが最も願うは彼の幸せだ。過酷な運命から解放された彼を、もう二度と辛い目に合わせたくはないんだ」
「…………」
「だからどうかこれからも、ノルンのことを支えてくれると嬉しい。これからも彼がずっと笑顔でいられるよう、側にいてやって欲しい。これが我ら三姫士の総意だ」
「ジェスタ様……頑張ります。一生懸命、これからも……」
リゼルがそう告げると、ジェスタは顔をあげて笑顔を浮かべた。
「よろしく頼む。あと、これからは私のことは"ジェスタ様“ではなく気軽に"ジェスタ“と呼んでくれると嬉しい」
「良いんですか……?」
「ああ。あなたとはもっと仲良くなりたいんだ。お願いできるか?」
ジェスタは手を差し出してくる。
リゼルは差し出された手を、そっと握り返した。
「よろしくお願いします、ジェスタ……さん?」
「ああ! これで私たちは友達だ! ついでにアンクシャとデルタもあなたと友達に成りたがっている。良かったらこの後、屋敷にきてくれないか? きっと同じようなことをすると思うが……とりあえず驚いてやってくれ」
「わかりました。とりあえず、驚くようにしますね!」
リゼルとジェスタは揃ってクスクスと笑い声を上げるのだった。
⚫️⚫️⚫️
「さぁ、デルタ行くぞ!」
「ガウッ! ガァァァ!!」
あくる日、教会を訪れたノルンは立派な針葉樹をデルタと共に教会の庭先に建てていた。
「リゼル! 確認!」
「もうちょっと右です!」
「ガウッ!」
確認役のリゼルの声に従ってデルタは翼を羽ばたかせて、木を少し移動させる。
「ああ! デルタさん! ストップストップ! 行き過ぎです!」
「こ、こっちか!?」
「そうそう! そのまま……ああ! ずれました!」
「グルルル……難しい……!」
いつの間にかリゼルとデルタは仲良くなってたらしい。
「おーい、リゼちゃん! ちょっと来ておくれよー!」
「は、はーい! デルタさん、あとお願いしますね!」
リゼルは庭のど真ん中の大荷物の中で後ろ髪を掻いていたアンクシャへ駆け寄ってゆく。
「どうかしましたか?」
「いや、天麩羅粉がみつかんねぇんだよ。リゼちゃん、どっかにしまった?」
「ええっと、確か……」
リゼルとアンクシャは大荷物の中へ潜り込み、お尻を突き出している。
どうやらアンクシャとも、交友関係になっているらしい。
(こう並んでみると、やはりアンクシャよりも、リゼルの方が女性的か……)
と、ノルンはまた妙なことを考えていた自分に恥じらいを覚えた。
「ああもう二人とも! こんなに散らかして!」
気がつくとジェスタが怒りの声をあげている。
彼女の前でリゼルとアンクシャが仲良く正座をして、ジェスタに怒声を浴びている。
「全く……そもそもものを丁寧に扱わない奴はだな……」
「リゼちゃん、こいつの話真剣に聞く必要ねぇぜ?」
「そうなんですか……?」
「おう! こいつの部屋、人にはとやかく言うくせにめっちゃ汚いんだぜ? パンツがいつも部屋の中に干しっぱなしでさぁ……」
「よ、余計なことをいうなっ! それに私の部屋は汚くはない! ものは多いが、私はどこに、何があるか把握しているし、あれは立派な収納術だ! それに下着を部屋干ししているのは、盗難対策でだな!」
喧々轟々とジェスタとアンクシャはいつものやり取りを始める。
リゼルはその間に入って、諌めようとしている。
大変そうだが、楽しそうには見えた。
ふと、背後に視線を感じて、振り返る。
瞬間、サッと木の影に何かが隠れた。
しかしちらりと見えた髪の一端が、誰だと知らせてくる。
(何をしているんだ、あんなところで……)
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