勇者がパーティ―をクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら……勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?

シトラス=ライス

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第一部 三章【かつての仲間達がヨーツンヘイムへやってきた!】

モンスターハンターデルタ

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「きゃっ!?」
「グゥ!?」

 昼食をとっている最中、強い揺れが山小屋を襲った。

「リゼル! ゴッ君!」

 ノルンは咄嗟に立ち上がり、リゼルとゴッ君を抱いて守る。
 揺れは強かったものの、幸い棚から物が落ちるほどではなかった。
 きっと今のは地震ではない

「表の様子を見てくる。リゼルとゴッ君はここで」
「ノルン様……」
「グゥー……
「心配ありがとう。しかし大丈夫だ」

 ノルンはリゼルとゴッ君の頭を撫でると立ち上がる。

 ここ最近、魔物の出現が頻発している。
アルラウネや、キングオクトパスといった、大型の危険種も確認している。

 ノルンは気を引き締めて、外へ出てゆく。
すると真っ先に、視界へ巨大な威容が飛び込んできた。

 危険度Aワームーー大型で芋虫型の獰猛な魔物である。

「死んでる……?」

 しかしワームは倒れたまま、ピクリとも動かなかった。

「ガァァァァ!! ガァァァァ!!!」

 なぜか、ワームの死骸の上から、聞き覚えのある苛烈な咆哮が降り注いできた。
咆哮の主はワームの死骸の上からノルンの前へ降り立つ。

「おはよう、バ……がう……ノルン!」
「お、おはよう、デルタ」

 ノルンは血塗れで、竜牙刀を手にした三姫士の一人ーー竜人ドラゴニュートのデルタへ挨拶を返した。

「こいつ、山に潜んでいた! 危険だった! だから我、狩った! こいつを倒した!」
「そ、そうか」
「我、狩った!! 今の我、ヨーツンヘイムを魔物から守るもの! モンスターハンターデルタ!! ガウアァァァ!!」

 デルタは少し切迫した様子で声を張り上げている。
 彼女の下半身に生える尻尾が、パタパタとしきりに地面を叩いている。

「あ、あの、ノルン様。デルタ様はたぶん、ご自身の成果をお見せしているのではないでしょうか……?」

 いつの間にか小屋から出てきていたリゼルがそう言ってくる。

「我、一生懸命戦った! がうっ!」
「よく頑張ったな。ありがとう……?」
「ガウゥッ!! ガァァァァ!! 我、頑張ったぁぁぁぁ!!!」

 デルタは破顔しながら吠えた。
 どうやら、リゼルの意見は正しかったらしい。

 次いで、デルタは指笛を吹く。
すると、すぐさま麓の村から、1匹の飛龍が飛び立ってくる。

「もう見せるの終わった。もう邪魔。さっさと運ぶ!」
「ガ、ガアァァァ!!」

 飛来した雄飛龍のオッゴは後ろ足でワームの死骸を掴むと、慌てて飛びだってゆく。

 竜人はあらゆる竜の頂点に立つ存在である。
更にデルタはそんな竜人一族ウェイブライダーの次期族長であり、姫君でもある。
きっとオッゴのような一般飛竜は逆らうことも恐れ多い存在なのだろう。

(オッゴ、また大変なことが一つ増えたな……しかし挫けず頑張れ! お前にもきっと、いつかいいことがあると信じている!)

 重そうに飛んでいるオッゴへノルンはエールを贈るのだった。

「ガウッ!」

 突然、デルタがノルンの腕を掴んできた。

「な、なんだ急に!?」
「要件、これだけじゃない! もっと大事ある!」
「要件? 大事?」
「ガウッ! リゼル! ノルン、少し借りるっ! 終わったらちゃんと返す!!」
「ぬおっ!?」

 ノルンはデルタに腕を掴まれたまま、引きづられた。
強靭な膂力は、ノルンの腕を離そうとしない。

「ノルン様ー! デルタ様ー! お気をつけてぇー!!」

 そんなリゼルの声が風切り音に混じって、僅かばかり聴こえるのだった。
 デルタ物凄い勢いで走りながら、村まで駆け降りる。
そしてしきりに周囲の様子を窺って、何かを探している様子だった。

「だりーなー……なんでこんないい天気の日に教会で勉強なんて……」
「読み書き算術はとっても大事なんだよ? わからないところは教えてあげるから!」
「ば、ばかにすんじゃねぇよ! トーカに教わるほどばかじゃねぇって!!」
「あー! バカとかいうジェイ君酷いんだぁー!」

 目の前ではガルスの息子ジェイと、ギラ工場長の娘トーカが並んで歩いているのが見えた。

「アイツ、良い! ガーっ!!」

 デルタはノルンを掴んだまま高く飛んだ。
 突然、太陽が遮られて、ジェイとトーカは何事かと、デルタを見上げる。

「うわっ!?」
「コイツ借りる! 終わったら返す!!」
「ジェイ君!?」

 デルタはジェイを脇に抱えると、再び走り出す。

「ノ、ノルン!? これなんなんだよ!?」
「俺にもさっぱりわからん!!」
「ああ、ちくしょう! 離せ、離せ! このドラゴン女……わふっ!? んぐぐぐ……!!」

 デルタはジェイをうるさく感じたのか、ジェイの顔を豊満な胸へ押し付けたのだった。

「飛ぶ! 気をつける!」
「と、飛ぶだと!?」
「ふが! もが! ぐぐぐっ!!」

 デルタは強靭な竜の翼を開いて、大空へ舞い上がった。
 風に乗り、山を飛び、野を過り、谷を越え、あっという間マルティン州の州都カスペンに達する。
そして、街のほぼ中心に聳え立つ、要塞のような佇まいの建物の前へ着陸した。

「ジェイ、生きているか……?」
「これが大人の人のおっぱい……あはは……! いつかはトーカも……? あはは……!」

 ジェイはやや酸欠気味で、ちょっと混乱している様子だった。

「お、お待ちしていました! デルタ様!」

 と、茶髪で割と丹精な顔立ちをした竜人の青年が、駆け寄ってきた。
贔屓目に言っても、かなりのイケメンである。

「精算終わったか?」
「は、はい! ご確認ください!!」

 デルタは竜人の青年から袋を受け取ると、中身を改め出す。

「大丈夫ですか? 勇者……じゃなかった、ノルン様」
「君は……?」

 手を差し伸べてくる、竜人の青年に会うのは初めてだった。
しかし初めてではないような、むしろ知っているような……

「まさか……お前、オッゴか!?」
「はい! オッゴです! いやぁ、気がついてもらえて光栄です!」
「はぁ!? オッゴ!? この兄ちゃんが、あのオッゴだってぇ!?」

 ジェイの大声に、竜人の青年ーーオッゴは苦笑いを浮かべた。

「しかし何故、竜人に……?」
「なんかデルタ様が急に色々と手伝えって仰いまして。飛龍のままだと色々不便だからって、竜人化の術を施しくださいまして……」

 ウェイブライダー一族の秘術の一つに、竜を竜人に変える術があったような気がした。
 これは功績のある竜を一族に迎え入れることであり、族長の家系にしかできない奇跡の業である。
元々は捨て飛龍で、更に生まれつき火炎袋を持たない、劣性種のオッゴにとっては、破格の待遇である。

「よかったな、オッゴ! 色々と苦労した甲斐があったな! おめでとう!」
「ありがとうございます! これも全て、ノルン様が救ってくださったばかりか、ヨーツンヘイムでの仕事をくださったおかげです! これからもボルちゃんやガザのために一生懸命頑張ります!」
「オッゴ! 早く案内する!」

 しかし喜びも束の間、デルタに呼ばれたオッゴは背筋を伸ばした。
 竜人に進化しても、オッゴの苦労人気質は変わらないらしい。

「ところで、デルタ。何故俺たちを冒険者ギルドへ?」

 冒険者ギルドーー数多の屈強な戦士たちが、一攫千金を狙って日々凌ぎを削る、戦いへの入り口である。

「臨時パーティー! 結成!」
「パーティーだと!?」
「がう! 4人じゃないとダメと言われた! だからノルンたち誘った!!」
「誘ったって……半ば拉致じゃねぇかよ! これでも俺は忙しんだぞ! 教会サボったらトーカにまた嫌味を……」
「うるさい! お前は男のくせに口が多い! 少し黙るっ!」

 デルタはジェイをつまみ上げると、またまた豊満な胸に押し当てた。
 最初は手足をジタバタさせていたジェイだったが、気絶したのかなんなのか、大人しくなる。

 ジェイが妙なことに目覚めなければ良い……そう思ってならないノルンだった。

「パーティー揃った! だから狩る! 巨獣ヒルドルブ!!」
「ヒ、ヒルドルブだと!?」

 さすがのノルンもそう叫ばずにはいられなかった。
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