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第一部 三章【かつての仲間達がヨーツンヘイムへやってきた!】

アンクシャ・アッシマ・ブラン

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「ふぅーん……野外活動グッズねぇ」
「名付けて……キャンプギアと称してみたい」
「はは! なんだそりゃ! かっこいい名前じゃん!!」

 グスタフは笑飛ばしているものの、感触は良さそうだった。

「でも、まぁ、キャンプ場はこのご時世だしなぁ……まだ、魔族との戦いだって終わってないわけだし」
「もちろん、わかっている。しかし未来を見据える行動も悪くはないだろ?」
「確かにな。まっ、一回商会内で揉んでみるわ。いつもご提案ありがとな」

 一回めの商談としてはまずまずの成果が得られたと、判断しても良さそうだった。
 早く、このことをアンクシャに報告してやりたいと思い、ノルンは急いで村へと戻ってゆく。

 今日もヨーツンヘイムは平和で、穏やかだった。
 アンクシャは村の広場にある噴水の側が気に入ったらしく、ここのところ青空市を開いている。

「アンさん! 悪いんだけど、刃こぼれしちまって」
「はいよー! 一研ぎ10Gねー! その間に新作みてってよぉ! この鍋さ、自信作なんだよ! これで野外でもパスタや豆をゆでたりできるんだぜ?」

 すっかりアンクシャ「アンさん」と呼ばれ、村に溶け込んでいた。
特に山男たちにすごく気に入られているらしい。

「アンさん! この椅子もらえる?」
「300Gだ! 毎度ありー! ついでに、こっちの焚き火台もどうよ? 椅子に座りながらこれで火をたいて、魚なんて焼いたら最高だぜ?」

 確かに愛らしい見た目はしているが、酒好きで、豪放磊落な彼女は、山男たちにとっても親しみやすい娘なのかもしれない。

 そしてお客が去ると、アンクシャは酒瓶を取り出して飲み始めた。

(またあいつは昼から酒を……)

「ん? おー! ノルンじゃん! んなとこで僕を視姦してんじゃねぇよ! こっち来いよ!」

 視姦などという不穏なキーワードが響き、あたりの視線がノルンへ集中する。
 これ以上、妙なことを叫ばれて困ると思い、仕方なしにアンクシャへ近づいてゆく。

「アンクシャ、あまり大声でさっきのようなことを叫ぶのは……」
「だって、僕のことを影からジロジロみてたノルンが悪いんじゃん」
「むぅ……」
「視姦されたんだ! 僕は君に犯されたんだ! お詫びの印に飲めぇ!」

 そういってアンクシャは火酒の入った盃を差し出してくる。
 きっと断ったら、また大声で妙なことを叫ばれかねない。
ノルンは仕方なしに盃を受け取り、強い酒精を流し込むのだった。

「おっ! いいねいいね! ははっ! ささっ、もう一献……」
「飲みに来たのではない。報告をしにしたんだ」
「報告? なんの?」
「君の作ったキャンプギアをカフカス商会に提案してみた。色々と問題はありそうだが、感触は良かったぞ」

 そう伝えると、アンクシャは「そっかぁ!」と嬉しそうに笑顔を浮かべた。
 魅力的な笑顔が、意図せずノルンの胸を高鳴らせる。

「そっか、そっかぁ……ノルンはようやく僕と一緒に商売を……」
「勝手に決めるな」
「んだよ、その連れない答えは! やろうぜ、一緒に? そしたら毎日……」
「?」
「こ、この、僕と、毎日一緒にキャンプできるんだぜっ!!」

 アンクシャは顔を真っ赤に染めてそう叫ぶ。
 明るいアンクシャとだったら毎日が楽しいとは思う。
しかし同時に、そんなことをしたらリゼルが寂しがるのではないかとも思う。

「だからさぁ、ノルーン!」
「う、むぅ……」
「よぉ、お二人さん! 相変わらず仲良いじゃねぇか! さすがは宴会中にしっぽり二人っきりでふけやがった間柄ってやつかぁ?」

 気がつけば目の前にガルスがいて、ニヤニヤした顔でノルン達を見下ろしている。

「アンさんはよ、俺らの間じゃアイドルだ。だけど、おめぇにだったら譲ってもいいってみんな言ってるぜ?」

 ガルスはそう耳うちをしてくる。

「ゆ、譲る? なんのことだ!?」
「まっ、俺らは口が固い。リゼちゃんには黙っておいてやっかからよ。男同士の約束だ!」
「待て! だから俺とアンクシャは……!」
 
 ガルスはニカッと男臭い笑顔を浮かべて去ってゆく。
 これ以上、ここにいると、余計なことを言われかねない。

「では、俺はこれで!」
「あっ! 逃げんな! まだ答えきいてねぇぞぉ!!」

 走り出したノルンを、アンクシャは商売道具を放り投げて追いかけてくる。

「なぁ、ノルン! やろうぜ! 商売! 一緒にぃー!」
「俺は山林管理人の仕事が忙しいんだ!」
「んなわけねぇじゃん! いっつもフラフラしてんじゃん! ぜってぇ暇じゃん!」
「だから、今はたまたまで!!」

 勇者だった頃も、こうしてアンクシャといるのは楽しかった。
しかし今は、その時以上に、彼女と過ごす時間に喜びを感じるようになっている。

「行けぇ! EDF! ノルンを捕まえろぉ!」
「ぐっ! ここで、鍛造魔法を使う……ぐおっ!?」

 楽しいは楽しい。
 しかし大変なのもまた事実である。

「さぁ、ノルン! もう逃がさないぜ? ゆっくり商売の話しようぜ?」

 アンクシャはノルンの背中を踏んづけながら、ゴクリと火酒を飲み込む。
 どうやってこの状況を乗り切ろうか。

 ノルンは必死に考えるが、妙案浮かばずだった。
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