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第一部 二章【旅立ちのとき。さらばユニコン!】

頼りになる先輩飛龍

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『ガオォォォォ――ンッッッ!!』

ガンドールが激しい咆哮をあげた。
飛龍達の何十倍もの音圧が、ノルンとラングへ降り注ぐ。

「ギャギャー!!」

 しかしラングはノルンの指示に従って急上昇し、これを避けてみせる。
 やはりラングの飛行センスはデルタに比類する。

「ギャー! ギャー! ギャアァァァ――!」
「こ、こら! 大人しくしろっ!」

 わがままで、非常に扱いづらいということを除いては……。

『良いぞ! 大変良いぞ、飛竜の小童よ! ならば……ガアァァァァッ!』

 下ではガンドールが、再び咆哮を上げていた。
 その咆哮によって呼び起こされたのは、激しい稲妻の数々。
 上から下から、あるいは真横から。
自然界の理を逸脱した稲妻が、次々ノルンとラングへ襲いかかる。

 しかしノルンはラングを巧みに操作して、稲妻の中を掻い潜る。
どうやらわがままなラングも“今は大人しく従っていたほうがいい”と判断したらしい。

(しかしいつまでも避けているばかりではいられんか!)

 ノルンはガンドールをしっかり見据える。
 ラングをまっすぐガンドールへ向けて飛ばす。
そして999個のアイテムが詰まっている雑嚢へ手を突っ込んで、目的のものを探りだす。

「ギャ! ギャ! ギャアァァァ!(ぶつかるぶつかるぶつかるぅぅぅ――!!)」
『勇ましくオレヘ飛び込んでくるか! なーらーばぁー!』


 怯えるラングの目の前で、ガンドールが渓谷のように巨大な顎を開いた。
 ノルンは雑嚢から目的のもの――紫色をした鎧玉を取り出した。瞬間、手にした玉が強い紫の輝きを放つ。

「鎧装着(キャストオン!)」

 ノルンが放った鍵たる言葉は、紫の鎧玉へ変化を促した。
 輝きはノルンを包み込み、瞬きよりも早い速度で、彼へエッジがかった"紫の全身鎧(フルプレートアーマー)を装着させる。

 その時間、僅か0・03秒に過ぎない!

「よし!」

 ノルンは拳を握り、鎧がしっかり装着されていることを確認する。

 今、ノルンを包み込んでいる全身鎧の名は【シャピロアーマー】――勇者時代に同名の傲慢な騎士団長を倒して、手に入れた、ノルン秘蔵の一品である。

「おおおおっ!」
『ア、ガッ――!?』

 鋼に包まれたノルンの右腕が、ガンドールの牙を一本を打ち砕いた。
そして宙を舞うガンドールの牙の欠片を掴み取る。

「覚醒(ウェイクアップ)刀剣(ブレード)!」

ガンドールの牙の欠片はノルンの魔力を浴びて、瞬時に巨大な刃へと変化する。

 ガンドールの牙より生まれし、偉大なる竜の剣――【斬空龍牙剣(ざんくうりゅうがけん)】!

『やるなノルン! そうこなくては! それにしても……ぬおぉぉぉっ! その鎧かっちょいいではないかぁ! お前の美しい体を包み込む、鋼の鎧ぃー! ぬほぉぉぉ!! ほほぉぉぉうっ! おおおおおーうっ!!』

 牙を折られたにも関わらず、ガンドールはすごく楽しそうというか……妙に興奮している様子だった 

 対するノルンは感覚を戦士のソレへ切り替え、ラングを旋回させた。
そして両手で斬空龍牙剣を高く掲げた。

「愛の力を源に! 邪悪な空間を断ち斬る!」
『ノルゥーン! ノルゥーン! オレと! オレと! 激しくぅー!!』
『ら、雷ッ! 斬空龍牙剣ッ!」

 ノルンはガンドールへ目掛けて、激しい稲妻を帯びた剣を振り落とそうとする。

「ぐっ! やはり、物凄い力だっ……!」

しかし、激しい力の流れが身体を硬直をさせた。
龍牙剣を振り落とそうとしても、なかなか身体が言うことを効いてくれない。
いくら肉体強化効果のあるシャピロアーマーを装備していても、今の彼では、デルタのようにこの剣を上手く扱えないらしい。

「くっ……それでも――やってるさ!! おおおお――っ!!」

 しかしそこは気合と根性と大絶叫で乗り切った。
 稲妻によって刃が何倍にも膨れ上がった斬空龍牙剣が、勢いよくガンドールの頭を目掛けて振り落とされる。

『ノルン! 良いぞぉ! 愛しているぞぉ! ガアァァァァァ――っ!!』

 同時にガンドールも、大気中の水分さえ蒸発させる激しい光のブレスを吐き出した。

 強大な二つの力がぶつかり合い、激しい閃光が黒雲を明るく照らし出す。
 衝撃は黒雲を一瞬で霧散させ、真っ青な青空が周囲に広がる。

(やはりシャピロアーマー程度では耐えられんか……)

 ノルンは技を放った影響で真っ黒に焼け焦げたシャピロアーマーの籠手を見てそう思った。
もしも、装備をしていなかったならば両手は一瞬で消し炭になっていただろう。
これではリゼルに怒られるどころか、悲しませてしまう。

『ぬほぉぉぉ! ノルンっ! ノォォォルゥゥゥ――ン! ハァー! ハァー! もっとぉぉぉぉ!! もっとぉぉぉ!!』

 ガンドールは気味の悪い言葉を叫び、大気を引き裂きながら向かってきている。

「お、落ち着け! ガンドール! 少し落ち着いてくれ!!」
「ギャーギャーギャー!!(いやいやー! こっちこないでー! もうやめてぇぇぇ!!)

 ノルンはラングを巧みに操作し、ガンドールから逃げ回る。
 ラングも怯えてはいるものの、どんなに酷い軌道でもきちんと対処して空を飛び続けている。

「もうこれ以上は無理だ! 鎮まれ! 頼むから鎮まってくれぇっ!」
『はぁ、はぁ! 愛しいノルンにオレの魂(こころ)はバァァァニンラァァァーブゥ!!』

『ブゥ!!』の発音で窄まったガンドールの口先から収束された光線が放たれた。
 圧縮された神の力が、ものすごいスピードで突き進んでくる。

「ギャッ……!」

 辛くも直撃は免れた。
 しかし閃光から迸った電撃がラングの翼の膜を焦がした。
翼膜を焦がされラングのバランスが崩れだす。
ノルンもろとも落下をし始める。

「くそっ! やりすぎたか!!」

 ノルンはそう反省しつつ、雑嚢からエクスポーションを取り出し、ラングへ投与しようとする。
しかし落下の影響で、栓を開けた途端液体であるエクスポーションは全て上に飛び散ってしまった。

だんだんと雪で真っ白に染まった険しいスィートウォーター山脈が見えてくる。
このままではラングどころか、自分もお陀仏。
必死に打開策を模索するも、妙案は浮かばない。

「ガァァァァ!」

 その時、風切音に混じって激しい咆哮が聞こえてきた。
 ノルンとラングの脇を、巨大な影がよぎってゆく。
 あっという間に下方に達した、黄土色の雄飛龍:オッゴが翼を開く。
 
 ノルンは無我夢中で耳を塞いだ。

「ガオォォォォーーン!!」

 オッゴの逞しい咆哮が険しい山脈に響き渡った。
圧力を持った咆哮が山に被った雪を震わせ、雪崩を引き起こす。
そしてその音圧は、ラングにぶつけられ、落下速度を僅かに減退させる。

 オッゴのおかげで落下速度は多少弱まった。
しかしそれでも地上へ激突すれば、即死になる状況は変わらない。。
するとオッゴは翼で空を打ち、ノルンとラングへ突進してくる。

「ガアァァァァ!!」

 オッゴはラングを抱き留め、必死に翼を羽ばたかせ続ける。
どうやら少しでも落下速度を弱めたいらしい。

「よ、よせオッゴ! もう良い! もう十分だ! このままではお前まで!」
「ガァァァ! ガガァァァ!(嫌だ! 勇者様とラングを見捨てることなんでできるかぁぁぁぁ!!)」
「オッゴ、お前……」
「ンガァァァァ!!(俺は伊達じゃなぁぁぁい!!)」


 もうすぐそこには山の頂上が迫ってきている。
 もはやこれまでか。
 と、思ったその時、唐突に周囲の光景がぴたりと止まった。
よく見てみれば、周囲が薄い灰色の膜に覆われている。
そして落ちてくる、巨大な黒い影。

『おおう、すまなんだ……少しやりすぎてしまった……』

 どうやらガンドールが偉大な神の力を使って、落下を食い止めてくれたらしい。

「キャー! キャー!」

次いで姉飛龍のビグが降りてきた。
ぐったりしていたラングの顔をぺろぺろと舐める。
すると、ラングは弱々しいが、しかしはっきりと息を吐き出す。

「ギャハ―……(お姉ちゃん……?)」
「キャキャ!(もう大丈夫だよ!)」
「ギャフー……(死ぬかと思ったぁ……)」

 どうやら間一髪だったらしい。

『の、のぉ……ノルンよ……』

 なんとも弱々しい神の声が降ってくる。
 いつもは鋭い眼光を宿しているガンドールの目が、やや不安そうな色を浮かべている。

『すまなんだ、すまなんだ……許してくれるか? こんな乱暴なオレを嫌いにはならないでくれるか……?』
「いや、謝るのはこちらの方だ。俺こそお前の気持ちに火をつけてしまったんだ。申し訳ない」

 ノルンがそう謝罪をすると、ガンドールは嬉々とした表情を浮かべる。
そして巨大な体をクネクネと動かし始める。

『ぐぅ……ノルンよ、やはりお前は最高の人間の雄……いや、もう、オレを超える神なる存在よ!』

「そ、それは少し言い過ぎだと思うが……」

『とても迷惑をかけたのだ。オレにできることならなんでもしてやる! 魔族を滅ぼしたり、戦いを終わらせたりすること以外で、だが……どうするか? 何を願ってくれるか?』

「ならば俺たちをヨーツンヘイムまで戻して欲しい」

『承った! すぐに準備をする!』 

 ラングがこんな状態では飛行訓練を続けるわけにも行かず、今日はここで終了となった。

『な、なぁ、ノルンよ……』

「なんだ?」

『また遊びに来てくれるか? 本当に、本当に、オレのことを嫌いになっていないか?』

「案ずるな。また来るし、嫌いにはなっていない。俺はお前が大好きだ! 友人として……」

『あ、ふぅ……ふおぉぉぉ! ぬおぉぉぉ!! バーニングラァァァブ!!』

 “友人”と付け加えておいたが、ガンドールが聞いていたかは定かではない。

 かくしてノルン達はガンドールの力に包まれ、ヨーツンヘイムを目指す。

「ギャァ……」

 ガンドールの輝きの中で、ラングがオッゴへ熱い視線を送っていた。
しかしノルンもビグも、視線を浴びているオッゴでさえ、ラングの熱視線に気づいていなかったのだった。
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