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あなたの真意を知りたい
しおりを挟む「ちょっと、みんなー! わたしがちっちゃいからって無視しないでよぉー!」
「お、おお! ピル姫様まで! しかしこれは一体……?」
シフォン人たちは、ふたたびどよめき始めた。
しかしパルがもう一歩踏み出ると、皆さんは一斉にパルへ注目を集める。
「こうして亡き私たちの故郷"パ・ラムゥ"の民の皆さんにお集まり頂きましたのは、我が主であり、この地の領主であるトーガ・ヒューズ様が立ち上げた事業を、私たちと一緒に支えて欲しいんです!」
「ウパ・アでの栽培と、アミ・アモの作成と普及がみんなにお手伝いしてもらいたいお仕事なんだよぉ~!」
パルの言葉に、ピルが補足を加える。
「ですが、この地では皆さんに無理強いはしません。もし、他にやりたいことがある方は、遠慮なくそちらの方なさってください! だって、この地では、皆さんは奴隷のシフォン人ではなく、"いち市民としてのシフォン人"なのですから!」
集会場に今日1番の動揺が走った。いきなり、奴隷ではなく、一市民と言われたことが原因なのは明白。
そしてそんな中でも、元王族のパルは果敢にも言葉を続ける。
「私の主、トーガ・ヒューズ様は私とピルに"名誉タルトン人"の資格と自由を与えてくださいました。そしてトーガ様は、皆さんにも同じ資格の取得を目指して、今励んでくださっている最中です!」
「なんで資格取得を目指してるかってね、みんなにはわたしたちの商売の都合上、国境を行き来することが多いんだ! 今の身分だと、国境を越えられないからね!」
パルが象徴的な言葉を口にし、ピルが噛み砕いた口調で細く説明をする。
それぞれのキャラクターを生かした、良い話し方だと思った。
「もちろん、みなさん全員をすぐに名誉タルトン人にすることは、トーガ様であっても難しいです。ですが、この地の中でしたら、資格がなくとも、皆さんは元のシフォン人として生活をして構いません! むしろそうして欲しいと、我が主は望んでおります!」
こちらへパルが視線を向けてくる。
俺はその意を汲み、未だに半信半疑といった様子のシフォン人たちの前へ出た。
「はじめまして、皆さん領主のトーガ・ヒューズです。今、パルの今の言葉は全て自分の真意の代弁です。自分はパルやピル、そしてシフォン人の方々に救われ、今でもとても感謝をしています。その想いから、この地を皆さんが自由に暮らせる地を作ろうと決意し今に至ってます」
かつてエマと共にこの地を訪れシフォン人の方々に良くしてもらったこと、そしてパルとピルにで会えたからこそ、今の俺がある……そんな熱い思いを胸に抱きつつ、俺は言葉を続ける。
「こんな若輩者で、しかもタルトン人の領主の言葉など信じられないかもしれません。それは構いません。ですが、どうかパルとピルの言葉だけは信じてあげてください。自分のことは嫌いでも構いません。でも、パルとピルには国があった頃のような愛を注いであげてください。どうか、よろしくお願いします!」
俺は深々と頭を下げて、言葉を終えるのだった。
「お、俺は……やるぞぉー! 領主様と姫様方を信じるぞぉー!」
1人の若いシフォン人がそう声を張り上げた。
そしてその声がきっかけとなって、広がり……やがて全員が賛同の声を上げ始める。
「皆さん、ありがとうございます! 私も皆さんと一緒にお仕事頑張りますっ!」
「わたしもいっしょだよー!」
「「「「「ええっ!!??」」」」
っと、パル・ピルの言葉を聞いて、これもまた一斉に驚きの声を上げるシフォン人たち。
「姫様にそんなことまで!」
「私たちが頑張りますから、姫様たちは!」
「どうかお考え直しを、姫様方!」
どうやらパルとピルは俺が思っていた以上に、愛されていた王族のようだ。
現に目の前のシフォン人たちは、口々にパルとピルへ"働かないよう"叫んでいる。
「す、すごく熱狂的だな、これは……」
「今回は特にパルさんとピルちゃんの大ファンの人を厳選してきたからね。でも、ここまでとはあたしも想定外だったよ」
モニカもまた目の前の光景に驚きつつ、そういった。
「良い仕事だったぞ、モニカありがとう。やっぱり君に頼んで正解だったな」
「結構大変だったけど、物質念写《サイコメトリー》ができるあたしにしかできないことだったしね。でも、あの時の悪徳奴隷商人め……トーガ君しか触っちゃダメな、あたしのおっぱいをさわろとして……! ああ、今思い出しただけでもむかつくぅー!」
「そ、そうか。大変だったな……?」
モニカの旅は、俺の想像以上に大変だったようだ。
なら昨晩の激しさに合点がゆく。
ーーモニカは物質念写《サイコメトリー》という、物に宿った記憶や思い出を読み取る能力がある。
そのため彼女には、今興している事業の開始と同時に、国中を回って"パルやピルに縁の深いシフォン人"を探してくるよう依頼をかけていた。
パルとピルを深く愛する民ならば、彼女たちの言葉を素直に受け入れてくれると考えたからだ。
しかしこれはまだきっかけでしかない。今回は"俺の考え"を軌道に乗せるべく、多くのシフォン人には申し訳ないと思いつつも、"厳選"とという手法を取らせてもらった。しかし、このままうまく行けば、いずれは……
「と、いうわけで! 今晩は村をあげての皆さんの歓迎会にしましょう!」
「わたしたちとお料理手伝ってくれる人、募集中ー!」
いつの間にやら、宴会を開くことにしただろうパルとピルは集会場を出てゆく。
そして続々と彼女たちに続いて出てゆく、シフォン人たち。
今夜は長い夜になりそうだ。
●●●
ーー夜半を過ぎても、外からは宴会の明るい騒ぎごえが聞こえてきている。
そんな中、俺は、宴席から早々に撤退し、村に設けた別荘で資料に目を通している。
この資料はモニカが奴隷として購入したシフォン人の記録が記されたもの。
ここからまずは今の事業に必要そうな人を選んで"名誉タルトン人"の申請を出そうと考えている。
気持ちの上では、今すぐに全員を対象に申請を出したい。
だが出すためには多数の資料が必要で、かなり手間がかかる。
それにあまり数が多過ぎても、国から不要な嫌疑をかけられかねない。
だから少しずつ、段々と、やってゆくつもりだ。
「今夜はこんなものか……」
若い体であっても、さすがに疲れが降りてきた。
今日はこのまま寝てしまおうと思った時のことーー
「わっ!?」
「うふ、びっくりしました?」
気がつくと、パルが後ろから抱きついていて、綺麗な横顔が間近にあった。
「最近、隠密のスキルを獲得したんです」
「だから気づかなかったのか……で、なにかようか?」
「あ、これ、名誉タルトン人の申請書類ですね。こんな夜更けまでお疲れ様です」
「今、できることは今しておきたいんだ。できる時にね……」
おじさん時代の俺は、人生に絶望していたためか、色々と言い訳をしてやるべきことを先延ばしにする生き方をしていた。
でも、若返り、やり直したからこそこういえる……今日できることを明日やろうとしていた俺はバカやろう! だったと。
「ほんと、トーガ様は素晴らしいお方です。そしてあなたの考えも理解しています。ですが……」
「なにか?」
「さすがの私でも、未だにトーガ様の真意がみえません。もしよかったら、お聞かせ願えませんか? タルトン人のあなたが、どうしてここまで私たちシフォン人によくしてくれるのかを……」
今更語るのは、とても恥ずかしいのだが……しかし、パルが知りたがっているのだったら……
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