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商談会
しおりを挟む「隊長、僭越ながら申し上げますが……俺たちの目は厳しいんで、そこの辺ご理解を……」
「少し良いか、マイク」
「ん?」
「やっぱり君からのそういう態度はちょっと……今は時間外だから、前みたく接してくれるとうれしい」
王国魔術師マイク・サンダー。
俺が務める隊随一の雷魔法の使い手である。そして俺にとってはーー
「い、良いんすか……?」
「ああ、頼む。だって俺にとってマイクは……友達なのだから……!」
かつての俺……つまり、若返る前のうだつのあがらなかった冒険者だった時は、その時の人生も相待って友と呼べる人が全く存在していなかった。しかし、若返り、力を手にし、やり直す機会を得た俺にとって、マイクは"人生初の友達"と呼べる人物である。
「……んったく……しょうがねぇなぁ! でもありがとよ、へへ!」
マイクは嬉しはずかしと言った具合の笑みを浮かべてくれた。
それでも今の俺の"立場"というのも理解をしてくれ、こうして友人として振る舞うのは「2人きりの時だけだからな!」と付け加えてくれる。
「ほほ、マイク様とトーガ様は誠の契りを交わしたご友人なのですね。いやはや、素晴らしい!」
と、マイクの隣で声をかけたでっぷりした人物こそ今日のターゲット。
ケイキ王国で【モンブラン商会】を運営し、幅広い商売を行なっているクリ・モンブラン氏。
「ちゅーわけで、こっからは友人や隊長と部下じゃなく、売り手と買い手だからな! はっきり言うが、ろくなもん出さなかったトーガでも承知しねぇからな!」
マイクは、サンダー家という魔法大家の御曹司であり、さまざまなつながりを持っている。
故にそのつながりから、今回クリ氏を呼んで頂き、こうして商談の席を設けてもらった。
マイク自身も、御曹司であるため、選美眼や舌には自信があるとのこと。
「ではさっそく……パル、ピル!」
「失礼致します」
「もってきましたぁー!」
俺の声に従って、パルとピルが銀の輝きを放つクロッシュに覆われた皿を持って入室してくる。
そしてまずはパルの方からクロッシュを取ると、
「ニンジンとイモ?」
「ですな。しかも温めておりますな。では早速……」
クリ氏は用意された銀器でまずは温めただけのニンジンへナイフを通し、フォークを使って口へ放り込む。
「むっ……むむむむっ! んんんっ!」
「どうなんだよ、クリ?」
「マイク殿! いますぐに!」
クリ氏に言われるがまま、マイクもニンジンを口へ運ぶ。
途端、みるみるうちに顔が幸せに染まってゆく。
「あ、甘い……! このニンジン、すごく甘いぞ!」
「芋の方も……ほほ! なんという凝縮された旨味が!」
「ちなみに生食でも、また違った味わいが楽しめますよ」
ピルに目配せをして、もう一つのクロッシュを開いてもらう。
そこには一口サイズに切り分けたニンジンと、白色が美しい根菜類。
「この白いニンジンみたいなもんは?」
もはや興味津々と言った具合に、マイクが前のめりで聞いてくる。
「ラビッシュという、冷涼な我が領地のみで栽培できる根菜類です」
「どれどれ……ほほ! これも甘い! そして旨みもっ! これは温めたら、よりこの旨味が増しますな!」
「おい、トーガ! これ普通の野菜じゃないだろ! 早く種明かししろよ!」
「こちらは……越冬野菜……我が領地にて、シフォン人の言語で【ウパ・ア】と呼ばれるものです」
越冬野菜・ウパ・アーー収穫期に収穫せず、あえて雪に埋もれされせた野菜。
豪雪地帯であるパウンド地域において、農業をすることが厳しいシフォン人にとって、冬の食糧事情に対応するための生活の知恵である。
同時に越冬させることで野菜自体の甘味や旨味が凝縮されるのだ。
「確かにこれは良いものですな。しかし、トーガ殿の領地はまだ小さいと存じております。需要に応えられますかな?」
「そうですね。クリ殿の疑念は理解できます。また種蒔き後、越冬中に私が領地を拝領しましたので、今期は一気に生産量を増加させるのは難しいと思います。ですので、これを"高級食材"として、主に"裕福層"へご提案いただきたい」
「ふふ……さすがはトーガ殿。昨今の裕福層の間での流行をご存知なようで」
現在、ケイキ王国の裕福層の間では"野菜"が流行していた。
肉食の多い我が国において、少々健康問題が騒がれているからである。
特に裕福層はこぞって、野菜を好んだり、目新しい調理方法に乗っかりがちだ。
ーーどんなに品質が良いものであっても、市場が求めていなければ、売ることは難しい。
ただ淘汰され消えゆくのみである。
おそらく、この商談が野菜流行が始まっていない去年に行なっていたら、破談していたことだろう。
「では早速、ウパ・アの商談会を開くといたしましょう! 代わりに……ウパ・アの流通は、我が【モンブラン商会】が仕切るということでよろしいですな?」
「構いません。あと、その商談会とやらを、盛大なパーティー形式にしていただきたいかと」
「それは構いませんが、なぜ?」
「実はもう一つご提案したものがあります。ジェシカ、頼む!」
そう声を上げると、扉の向こうから救国の英雄となったジェシカ・フランソワーズは、美しい金髪を靡かせながら入室きてきて、
「ジェ、ジェ、ジェシカさんっ! おおおお、お久しぶりですっ! っていうか、めっちゃ綺麗いですっ!!」
ジェシカの大ファンである、マイクはもうデレデレで……
「ジェシカ殿、ご無沙汰をしております。あなたと同じく美しいお召し物ですね」
紳士でもあるクリ氏はジェシカと同時に、彼女の纏っているのは、独特が綺麗な模様の描かれた暖かそうな外套を褒め称える。
「お二人ともこんにちは! 今、私が纏っているのは【アミ・アモ】という、トーガ殿の領地で手作りされているものですわ」
「ふむ……良いて仕事ですな。素材も暖かそうで、なるほど、なるほど……」
ここ最近のケイキ王国では冬に冷たい空っ風が吹き込むようになり、寒さが厳しい。
だが雪国の民であるシフォン人の外套は、ケイキの冷たい冷気から、体を守ってくれるだろう。
「例の商談会にはこちらの代表としてジェシカ・フランソワーズに出席していただきます。こちらのアミ・アモを身につけて」
「ほほ! それはいいアイディアですな! 我が国のファッションリーダーであるジェシカ殿が、そちらを纏って!」
「私がリーダーだなんて恥ずかしいですわ。でもこのアミ・アモは本当に素敵ですので、この冬は特に愛用したいですわ!」
ジェシカは笑みでそう返すが、内心はものすごく複雑なのだろう。
俺だってそう思う。
でも、今この国において、ジェシカが救国の英雄と言われるのと同時に、同性異性問わず人気が高いのは確かだ。
金髪の女性は皆こぞって、髪を後ろで結ぶ"ジェシカスタイル"という髪型さえしている。
他にもジェシカが身につけているものが、急に売れ出したりなどしている。
そんな彼女が華々しい商談会の場で、このアミ・アモを身につけて登場すれば、少なくとも販路は開拓できる。
「では、こちらも?」
「もちろん、販売に関しては【モンブラン商会】に一任します。必要あらば、本職に影響がでないことを条件に、ジェシカをキャラクターとしてお使いください」
「どうぞよろしくお願いしますわ」
ジェシカは笑顔でクリ氏に握手を求め、彼は応じる。
その間、ジェシカがチラッとこちらへ視線を向けてくる。
本来、ジェシカがそういうキャラではないことは承知している。
彼女自身もそうだとわかっている。
でも、彼女は俺や俺の夢のために協力する考え、心を砕いてくれているのだ。
だから近々、ジェシカとはゆっくりと過ごすべきだろう。
●●●
ーー商談はうまく行き、手応えは感じられた。
あとはただまっすぐと進んでゆくのみ。
でも、その前に、この案を一緒に考えてくれた人の元へお礼を言いにゆこうと考えた。
いつも彼女の家へゆく時は、昔のように胸が高鳴り、強い高揚感を覚える。
そして小高い丘の上に建つ、彼女の家の呼び鈴を鳴らすと
「あら、いらっしゃいトーガくん。商談の方はどうだった?」
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