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モニカへのプレゼント

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「くれぐれも気をつけてくれよ」

「ありがと! 気をつけるね! それじゃ行ってくるね!」

 モニカは光の障壁で全身を覆いつつ、コインの嵐の中へ飛び込んでゆく。

 途端、無数のコインが障壁にぶち当たり、無数の甲高い衝撃音と紫電を浮かべ始める。

「お、おい、あれ大丈夫なのかよ……?」

 さすがのマイクも、この状況に驚きを隠せないでいる。

「大丈夫だ。問題ない」

 なにせモニカは昨晩からずっと、俺の恩恵を受け続けているのだ。
彼女の中に蓄積された魔力は相当な量なので、障壁が簡単に破られることはない。
そして、こうして危険を冒してでも、コインの中へ飛び込んだ最大の理由はーー

「……」

 モニカはコインの嵐に屈せず、静かに息を吐き、意識を集中させ始めた。

 どうやら物質念写《サイコメトリー》を開始したらしい。


『フライングコインって、操ってる本体を探し出せば良いんだよね? だったら、あたしがあの中に飛び込んで、物質念写をするのが良いんじゃないかな? なにせここのコインは、みんなの願いのこもったものだからさ!』


 この状況が始まる前、モニカは自らそう提案してきた。

 確かにこの大量のコインの中から、コインに擬態した魔物を探し出すのは容易ではないというか、全てを吹っ飛ばす以外ほぼ不可能だ。
しかし、モニカの物質念写の力を使えば、本物のコインであれば誰かの想い願いが刻まれていて、逆にそれを一切感じないものは本体になるという寸法だ。

 本来、こんなに一気に物質念写をしてしまえば、能力者の精神はあっという間に崩壊してしまう。

 だがモニカは、先ほど自らが進言した通り、天空神の加護を受けている。
故に、情報量は多いものの、精神が崩壊することはない……と、モニカ本人は言っていたが、それでも少々心配しているのは否めなかった。

「これだぁー!」

 と、俺の心配を裏腹に、モニカは元気な声を上げつつ、腕を振り一枚のコインをキャッチ。

 そのコインはまるで生き物のように、モニカの手の中で蠢いている。

「大人しくしなさあーいっ!」

 モニカは掴んだコイン型の魔物へ、魔力を流し込んだ。

 魔物がモニカの手の中で粉々に砕けると、コインの嵐が、雨に変わって、石畳へ一斉に降り注ぐ。

「ト、トーガくん! 今だよっ!」

「行くぞ、マイクっ!」

「お、おうっ!」

 俺はマイクと共に枝道のあるトレバの泉へ接近を試みる。

 すると水中の枝道から、ケルベロスが飛び出してきた。

「邪魔だぁ!」

 発生したケルベロスの首を風の刃で跳ね、それを足蹴にして一気に飛び上がり、泉の中に浮かぶ黒い渦ーー魔空の枝道を視界に収める。

「冥府神之黒衣《ハーディアスマント》!」

『ウケタマワルゥ!』

 現出したハーディアスが泉へ飛び込み、黒衣を翻す。
黒衣は泉の水のみを弾き飛ばし、底に開く枝道を露わにした。

「いまだ、マイクっ!」

「ぶっ飛べぇ! マグマダートぉー!」

 マイクの手から、火炎を凌ぐ熱を秘めた、赤い矢が放たれた。
それは見事、渦の中心を射抜き、枝道のみを消滅させる。

 俺たち王国魔術師の目的は民の平和維持。
といって、トレバの泉のような貴重な文化遺産を傷つけるわけには行かない。
だからこそ、俺は泉の水をハーディアスに弾いてもらい、マイクに枝道のみを狙って貰ったというわけだ。

「さすがの判断だったな、トーガ・ヒューズ!」

「マイクが察してくれたからこそだ。こちらこそありがとう!」

 俺とマイクはお互いを称え、拳をぶつけ合う。
そんな俺たちへ、周囲の人々は興奮とそして感謝の歓声を送るのだった。

「はぁ……はぁ……トーガくん、さっすがぁ……!」

 ヘロヘロな様子のモニカが、錫杖を杖に寄ってきていた。
そんな彼女へ近づき、そっと抱き留める。

「大丈夫か?」

「……やっぱ、あの量を物質念写《サイコメトリー》するのはきっついねぇ……!」

 体力と魔力は相応に消費をしているが、精神崩壊の兆候はなし。
しかしモニカをどこかで休ませた方が良さそうだと判断し、モニカをお姫様抱っこで抱える。

「わぁ! この抱っこ嬉しい! ありがと!」

 モニカは疲れていながらも、俺の腕の中で満足そうな笑みを浮かべてくれた。
ほんと、この子は昨夜から垢抜けたことで、素直になり、すごく可愛いと思えてならない。

「それではな、マイク」

「んったく、またデートかよ! この色ぼけめ!」

「なら、お前もすれば良いじゃないか、デートを」

「ぐっ……お、俺だって、これから!」

 たぶん、マイクの今の発言は強がりの嘘だと思った。
しかしそのことはあえて指摘せず、再度マイクへ頷きを送って、俺はモニカを抱えたまま、ベネテタを覆う青空へ風の魔術を使って飛び出してゆくのだった。

●●●

「少し落ち着いたか?」

「うん、だいぶ……ありがと……」

 モニカは甘えた声でそう囁きながら、俺の肩に寄りかかり、キュッと手を結んで来る。
そんな彼女を俺はより身近に抱き寄せる。

 モニカの休憩のために訪れた森はとても静かで、俺自身も眠気を覚えてくる。

「眠い?」

 モニカはまるで若い頃のエマのように、優しい声で問いかけてくる。

「少しな」

「そ、そっか……眠いんだ……やっぱし……」

「なにか問題でも?」

「ちょっと、そのぉ……欲しいなって……トーガくんの魔力……さっき使いすぎちゃって……」

 アッシュグレーの髪の間から除くモニカの耳が、先っぽまで真っ赤に染まっていた。
股の間をもモジモジさせて、何を求められているのかは容易に察しがつく。

 俺とて、眠気を感じてはいるが、こうしてモニカと触れ合っていると、そうした気分になってくる。

 ならば、昨夜は夢中ですっかり失念していた"あの行為"をモニカにしてもらうことにしようと思い、彼女のそのことを伝える。

「え、ええ!? そ、そんなことしたいの……?」

「むしろモニカにしかできないと思うのだが……嫌か?」

「あ、えっとぉ……そんなにそれしてほしい……?」

「ああ、すごく」

「わ、わかった……! トーガくんがして欲しいっていうのなら! が、頑張りますっ!」

 モニカはいそいそと横から離れて、俺の正面へ座り直す。

 そして上着を脱いで、立派な胸の谷間を俺へ見せつけてくる。
やはり、モニカの胸は、俺の知りうる限りの女性の中で最も立派で、大きい。
昨晩から、モニカにしかできないそれを、ぜひ味わってみたいと考えていた。

「じゃ、じゃあ、始めるね……?」

 モニカはおずおずと俺へ立派な胸を押し当てて、願いを叶え始める。

 最初こそ、辿々しさが目立ったモニカだったが、だんだんと慣れて、逆に楽しくなってきたのか、次第に俺を弄ぶようになってゆくのだった。

ーーそして、ことを終えた後、俺はずっと隠し持っていたモニカへのプレゼントを差し出す。

「わぁ! 指輪! 素敵っ!」

 モニカは渡された銀の指輪をはめて、とても嬉しそうに陽の下へとかざし、それを煌めかせる。

 この時のモニカの表情も、かつて本当に若かった頃の俺が、エマに同じものを渡した時と、同じような表情をしている。

「喜んでくれたのならよかった」

「うん、すっごく嬉しい! こ、これで名実ともに、あたしは、トーガくんだけのものなんだよね……?」

 そう問いかけてくるモニカがあまりに可愛く、そのまま抱き寄せる。

 モニカもまた、それに素直に応じ、俺たちはしばし、森の中で互いの体温を確かめ合うのだった。
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