若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

シトラス=ライス

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遠い地にて……俺とモニカの初夜

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「モニカ、そっちだ!」

「うんっ!」

 俺が風の刃でオルトロスの首を刎ねつつ叫ぶと、モニカは光波弾で別のオルトロスを消滅させていた。

 残り5匹。これで半分!

 もしも、敵が普通の魔獣であれば、野生の勘で俺たちを脅威と感じ、文字通り尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

 だが、魔空の枝道から発生する魔物は、ただ貪欲に戦いを求める存在。
いくら、仲間がやられようとも、獰猛にこちらへ襲いかかってくる厄介な相手なのだ。

 と、そんな余計なことを考えてしまっていたためか、俺とモニカは背中合わせに立つといった、少々不利な情勢に持ち込まれてしまっている。

「囲まれちゃったね」

 そういうモニカの声色は、これまでの経験と自信と現れなのか、意外に軽やか。
とても頼もしいとさえ思う。

「あのさ、トーガくん……あたしちょっと試してみたいことがあるんだけど、やっても良い?」

「ん? 構わないが?」

「ありがと! そ、それじゃ……!」

 モニカは指先を震わせつつ、背中合わせの状態で俺との手を繋いできた。

 目の前の魔獣よりも、そっちの方で、震えているのだから、どことなく可愛いと思う。

 だが、モニカを可愛いと思うのはそこまで。

 俺が魔力を与えると、モニカの雰囲気が一瞬で荘厳なものへと変わってゆく。

「いと慈悲深き天空神ホルス様……どうか我々へ其の偉大なるお力をお貸しくださいませ……」

 普段よりも丁寧な祝詞は、モニカへ白く、神聖な輝きを宿らせた。

「魔を退け、滅する、奇跡の力ーー神聖大爆《ホーリーノヴァ》!」

 モニカの掲げた錫杖が凛とした音を奏でる。

 それを合図に、俺たちの周囲に白色の激しい爆発が巻き起こった。

「ガアァァァァァ!!!!」

 俺たちを取り囲んでいたオルトロスが、白色の爆発に飲まれ、次々と塵へと変わってゆく。

 上位神聖術・神聖大爆《ホーリーノヴァ》

 俺から魔力をもらってこれを放ったということは、発動方式自体はきちんと認識しているものの、自分の魔力では足りないと計算した結果、俺からの魔力的な支援を受けつつ、それでも放とうと決意したのだろう。
 それほどモニカは計算高く、そして冷静。

 やはりこの子はすでに、Sランク冒険者として相応しい判断力を持ち合わせているようだ。

 もう彼女は立派なSランク冒険者、そうとしか言いようがない。

 白色の爆発が一通り収まり、オルトロスはすっかり姿を消し、岩場は静寂に包まれている。
そんな中、背中へグッとモニカの体重がかかってきた。

「やっぱり上位神聖術はキッツイね……トーガくんから魔力もらったのに、こんなのって……」

「ならなぜぶっ放したんだ?」

「そ、それはそのぉ……せっかくの機会だし、トーガくんもそばにいるから、やってみたかったとか?」

 こういう興味に対して貪欲で、結構ガンガン攻めるところも、エマ……いや、彼女以上に、モニカは勇敢なのだろう。

「少し休もうか?」

「うん、そうするぅ……」

 俺達は手を繋いだまま、背中合わせに地面へ座り込む。

 そしてふと空を見上げてーー

(随分遠くに来たなぁ……しかし、ここしかなかったからなぁ……)

 改めて、デートをしていた街からはかなり遠くの場所へ来てしまったと、思う俺だった。


●●●

「やっぱ、水の都なだけはあるね! ベネテタ料理美味しいぃ!」

 俺の正面に座るモニカは、魚介類をふんだんに使ったパスタを食べ、とても幸せそうな顔をしている。
そんな彼女の顔を眺めつつ俺もまた、名物のイカ墨パスタを口に運んでいる

 俺たちが転移魔術によってやってきたのは、ケイキ王国の最南端、首都フルツから遠く離れた、海浜の街ベネテタであった。
海沿いにある風光明媚な土地で、ここの海鮮中心のベネテタ料理は女性層を中心に人気が高い。

 というわけで、偶然とはいえそんな街に転移したのだから、夕飯でもとのことになり、俺とモニカはベネテタ料理に舌鼓を打っているのだった。

 そうしてベネテタ料理を十分に堪能し店を出ると、水と文化の街には夜の帳が降りていた。
とはいえ、観光地であるため外にはまだ多くの人が行き交い、街中に張り巡らされている水路には周囲の明かりが、まるで宝石のように浮かんでいる。

「綺麗な街だね」

「ああ……そろそろ帰るか?」

 ベネテタの輝きを目に宿したモニカへ、そう問いかける。

「も、もうちょっと……ここにいたいな……」

 少し俯き加減のモニカは、前髪で表情を隠しつつ俺に寄り添い、袖を摘んでくる。

「あんまり遅いとエマが……お母さんが心配するんじゃないか?」

「だ、大丈夫。最近、お母さんもあたしがSランク冒険者だからって、うるさくいってこないし……それに今日は遅くなるっていうか……ト、トーガくんが一緒って、言ってあるから……」

 袖がより強く摘まれれた。

 女の子にここまで言わせておいて、察せない方が大変失礼だと思う。
俺自身、今日はそういう覚悟を持って、この日を過ごしているのだから。

「じゃあ、少し歩こうか?」

 袖を摘んでいたモニカの手を、そっと握りしめた。

「うんっ! そ、そうしよ!」

 俺とモニカは互いに手汗を浮かべつつ、それでもしっかりと手を握り合って、夜のベネテタへ繰り出してゆく。

 さすがに夜となると、観光スポットの拝観時間は過ぎているため、外観を見るにとどまる。
それでも俺達は有名な橋だったり、寺院だったり、広場だったりを巡っていった。
やがて十分に夜のベネテタの街を楽しんだ俺達は、街を一望できる丘のベンチへ2人並んで座ったのだった。

「わがまま、聞いてくれてありがとね。今日は楽しかったよ!」

「俺も楽しかった。こちらこそありがとう」

「……で、でね……ちょっと、その……もう一つ、お願い聞いてくれる……?」

 言葉で返す代わりに、俺はモニカの手をより強く握りしめた。
するとモニカは、こちらの肩へ頭を寄せ、もたれかかってくる。

「トーガくんがどれだけ、パルさんとピルちゃんを大事に思っているかはわかってるよ。あの2人もどれほど、トーガくんのことを慕っているかも知ってるよ……それをわかった上で、聞いてほしいの…………あたしも、そ、そこに入れて、くれない……?」

「もうすでに入っていると思うが?」

 今のモニカの言い振りが、まるで昔のエマを思い起こさせ、俺に意地悪な返しをさせてしまう。

「そ、それはそうだけど……もっと、こう、身近という……ひゃっ!?」

 さすがに意地悪が過ぎたと反省し、俺は自分からモニカを引き寄せた。

「すまん、意地悪が過ぎたな」

「……バカっ……」

 モニカは可愛くそう言い放ち、俺の腕へ絡みついてくる。

ーー本当にわかった頃、俺はエマとこういう雰囲気になったことがあった。
でも、そのときの俺はどうしようもないガキで、ただただ狼狽するだけで、何もできなかった。
彼女の想いを受け止めきれず、曖昧にしてしまった。
だからこそ、今度こそはきちんと……

「モニカ」

「ん……?」

「好きだ」

「あたしも……トーガくんのこと大好きっ……!」

 俺達はより強く身を寄せ合って、互いの体の感触を味わいだす。
やがて、モニカはこちらの方を向き、そっと目を閉じて、こちらへ艶やかな唇を向けてくる。

「ん……ちゅ……」

 初めてであろうモニカへはまずは軽めのキスを。
それを何度か繰り返し、彼女が惚けだしたタイミングで、深いつながりを求める。

「くちゅ……んはぁ………んんっ……んっ……! はぁ……はぁ……やっぱり、トーガくん上手過ぎっ……はぁ、はぁ……」

 密接な粘膜接触を解くと、モニカは熱い吐息を漏らしつつ、潤んだ瞳をこちらへ向けてくる。

「ねぇ、トーガくん……今の続き、お願いしても……?」

「ああ、もちろんだ」

 そう告げるとモニカの顔が恥ずかしそうに、それでいてとても嬉しそうに明るんだ。

 俺達は互いに手を取り合ってベンチから立ち上がる。
そして再び、夜のベネテタの街へと戻ってゆく。

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