上 下
43 / 86

パルと久々のデート

しおりを挟む
「こういう2人きりって、本当に久しぶりですね! 嬉しいですっ!」

 道ゆく最中、パルは俺の腕にギュッと抱きつきつつ、嬉しそうにそうもらす。

 最近はモニカが仲間に加わったということもあり、俺に変わって皆を引っ張る立場にあるパル。
だけど、こうして2人きりの時は、出会った頃のような年相応の表情をみせてくれていた。

「しかし、久々の2人きりなのに、森なんかに行くのでいいのか?」

 王国魔術師となった今の俺であれば、パルに貴族並みの贅沢をさせられる。
そう思ってこのデートに際し、あれやこれやと提案をしたものの……

「いい雰囲気のお店よりも、実は私、こっちの方が好きなんです」

「そうなのか?」

「ここだけの話ですけど……やっぱり、注目されるのって、ちょっと辛いんです。視線が怖いと言いますか……」

 最近は俺が王国魔術師になったり、パル自身もSランク冒険者として様々な成果をあげたりなど、周囲が注目するのは無理からぬこと。だけど、パル自身はいくら強くても、いくら頼り甲斐があっても、内側は繊細な女の子なのだ。

「今の状況は仕方ないけど……でも、たまにはこうして2人きりで静かなところへゆこう」

「はいっ、よろしくお願いします……んっ……んちゅ……」

 人目がないこといいことに、俺とパルはその場で深い口付けを交わした。

 それがあまりに心地よくうっかりパルのそういうスイッチを入れそうになったが、まだデートは始まったばかりなので、グッと堪える。
そういうことはデートの最後のお楽しみにしておきたいらかね。

 そうして俺たちは、パルのたっての願いもあって、山奥にある広大な花畑へ訪れる。

「トーガ様! 見てみて! このお花とっても綺麗いですよぉ!」

 パルはまるでピルみたいに様々な花をみてはしゃいだりしていた。

 俺はそんな彼女を目で愛でつつ、時間を過ごす。
やがて、時がたち、少々腹が空いたので干し芋でも齧ろうとしていた時のことーー

「トーガ様、お腹空いたんですか?」

「ああ、まぁ」

「でしたらさっき、このお花畑の中にシュガーソウを見つけたんですけど、アレが咲いているってことは、この辺りに美味しい果物があるはずなんです!」

「そうなんだ」

「取ってきますね! 少々お待ちを!」

「お、おい!?」

 俺の静止などまるで聞かず、パルは近くの森へと飛び込んでいった。

 まぁパルは格闘術の名手で、Sランク冒険者で、毎晩のように俺の力を浴びているから心配はないと思うが……でも、ちょっと遅すぎやしないか……?

 少々の不安を覚えつつ、俺はパルの入った森の中を進んで行く。

 やがて、木々の中から、薄汚れた連中の声が漏れ聞こえてくる。

「へへ……こんなところでシフォン人奴隷に出会うたぁなぁ!」

「てぇ、ことはこの辺に所有者の貴族か金持ちがいるんだろ?」

「と、その前に、コイツの味見を……うひひ……!」

 相変わらず盗賊という連中は言動だけで不愉快に感じられた。

 しかしパルはどうしてペタリと地面に座り込んで、怯えた風を装っているのだろうか……?

「い、いや……こ、こっちこないでっ……!」

「ひひひ……!」

「た、助けてぇ! トーガ様ぁー!」

 なんだかよく分からないがパルが助け? を求めているので、俺は颯爽とその場へ飛び出す。

「おい、お前たち、その娘は俺のものだ。手を出すな」

 今まさにパルへ迫ろうとしていた盗賊連中の背中へ、そう言い放つ。
すると盗賊連中は侮った視線を向けてくる。

「なんだよガキ、邪魔すんじゃねぇ!」

「コイツがこの奴隷の飼い主ってかぁ?」

「みぐるみ剥がされたいかこらぁ!」

ーーそうか、今日の俺は王国魔術師の証である、マントを羽織っていないので、こいつらは侮った態度を……。
しかも俺の魔力経路さえ感じられないとは、雑魚中の雑魚なのやもしれない。

「だから、邪魔すんじゃねぇっていってるだろうがぁ!」

 突然、1人の盗賊が切り掛かってきた。

 しかしこんな下手くそな斬撃など、風の精霊の力を借りるまでもなく、容易にかわすことができた。

「ごふぅっ!?」

 氷を固めた膝を腹へ叩き込んでやれば、これにて一匹討伐は完了。

「こ、このがきゃぁ!」

「死ねぇ!」

 と、残りの2人も襲いかかってきたので、雷の力を弾のようにして放つサンダーバレットの魔術を叩き込んだ。
2匹目、3匹目の討伐も完了。

 しかし、この盗賊らはみたこともない連中なのでたいした賞金にはなりそうもない。
だけど、盗賊は盗賊だし、このままにしておくのもいかがかと思っていた時のこと……

『ショリニ困っているようだなぁ……なら、モラッテモ良いかぁ……?』

 闇の精霊ハーディアスがぬぅっと現れ、そう囁きかけてくる。
 そういえば、ハーディアスは、そろそろあたらしいおもちゃが欲しいと言っていたっけ。

「お好きになさってください」

『アリガトウ……やはりオマエハ、イトシイナァ……!』

 そうハーディアスは俺に囁きかけて、俺が倒した盗賊連中を闇の中へ引き摺り込んで行くのだった。

 さてと、状況は終了したわけで……

「大丈夫か、パル……?」

「トーガ様っ! 相変わらず、かっこいいですっ!」

 パルはすごい勢いで抱きついてきた。
あまりに彼女の力が強く、俺はそのまま地面の上へ押し倒されてしまう。

「あのさ、ええっと……とりあえず何があったか教えて?」

「私、果物を取っていただけです。そしたいきなりあの盗賊たちが迫ってきて……」

「いや、うん、それはわかるけど……パルだったら、あんな連中なんとかなったような?」

 素直な所感を述べる。
すると、パルは苦笑いを浮かべた。

「あはは……まぁ、そうなんですけど……でも、たまにはトーガ様のかっこいいお姿をみたいなぁ、って思いまして……?」

 なるほど、パルはだからあえて、自分から手を出さず、俺の救援を待って……と、考えた時のこと。

「ーーっ!?」

「んちゅ、んんっ……!」

 俺に馬乗りとなっているパルは自ら唇を寄せ、俺の口の中へ舌を忍ばせてきた。
あまりに情熱的で、あまりに妖艶なそのキスに俺はすっかり骨抜きにされてしまう。
そんな俺をみて、パルは頬を赤く染めながら、小悪魔のような笑顔を浮かべる。

「かっこいいトーガ様とみていたら、スイッチ入っちゃいました♩」

「スイッチって、いきなりだな……」

「でも、トーガ様もご準備万端ですよね?」

 そりゃ、さっきのキスもだし、こうしてパルが馬乗りのなっているわけだから、そうなっても仕方がない。

「今日はこのまましちゃいますね!」

「お手柔らかに頼むぞ」

「はいっ! それじゃ……」

ーー最近のパルは、以前にもましてすごくお盛んで……結局、このお花畑デートは野外でのそういうことで大半の時間を使ってしまうのだった。

(さて、パルにはこれで満足してもらったので、次はピルの番だな)
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【物真似(モノマネ)】の力を嫉妬され仲間を外された俺が一人旅を始めたら……頼られるし、可愛い女の子たちとも仲良くなれて前より幸せなんですが?

シトラス=ライス
ファンタジー
銀髪の冒険者アルビスの持つ「物真似士(ものまねし)」という能力はとても優秀な能力だ。直前に他人が発動させた行動や技をそっくりそのまま真似て放つことができる……しかし先行して行動することが出来ず、誰かの後追いばかりになってしまうのが唯一の欠点だった。それでも優秀な能力であることは変わりがない。そんな能力を持つアルビスへリーダーで同郷出身のノワルは、パーティーからの離脱を宣告してくる。ノワル達は後追い行動ばかりで、更に自然とではあるが、トドメなどの美味しいところを全て持っていってしまうアルビスに不満を抱いていたからだった。 半ば強引にパーティーから外されてしまったアルビス。一人にされこの先どうしようとか途方に暮れる。 しかし自分の授かった能力を、世のため人のために使いたいという意志が変わることは無かったのだ。 こうして彼は広大なる大陸へ新たな一歩を踏み出してゆく――アルビス、16歳の決断だった。 それから2年後……東の山の都で、“なんでもできる凄い奴”と皆に引っ張りだこな、冒険者アルビスの姿があった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...