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異常な状態のローレンス

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「大成功ですよ! 先程報奨金の手形も受け取って参りました!」

ーー今回の事件の捜査は徒党を組んでは、少々動きずらいところがあった。

 そこで事件の捜査自体は俺1人で行い、パル・ピル・モニカの3人には、Sランク冒険者として依頼を受けつつ、情報収集をお願いする、といった布陣で事にあたっている。

「ですけどモニカさんが……」

 パルが苦笑いを浮かべていたので、彼女の後ろを覗き見てみる。

「モニモニだいじょうぶー? はい、ポーション!」

「んぐ……んぐ……んぐっ……ぷはぁ……ありがとう、ピルちゃん。いつまでもへっぽこでごめんね……」

 やはりモニカにはまだ、Sランク冒険者の依頼は難儀なものらしい。

 まぁ、本来の実力はEランクなのにも関わらず、俺たちについてきてしまったがために、Sランクになってしまったのだから、仕方のないことなのだが……もし俺のからの直接注入ができればこの問題はクリアできるも、モニカはエマの大事な一人娘であって、おいそれと手をつけるわけには……

「トーガ様、今回の依頼中に、一緒にいた冒険者の方から気になる情報をいただきまして」

と、パルの気になる一言で、俺は頭を再び事件のことへ切り替える。

「どんな情報だ?」

「ここ最近、異様に活躍しているBランク冒険者がいるそうです。みなさま、一様に"人が変わったようだと"仰っておりまして」

 人が変わったように、活躍をする……パルのその言葉は、行き詰まりかけていて事件の捜査に、一つの光明をもたらす。

 俺自身もアゾットで若がり、強大な力を手にしたように、そのBランク冒険者もまた……?

「パル、そのBランク冒険者の名前は?」

「はい、もちろん! そのBランク冒険者とは先日トーガ様に絡んできた、ロー……」

 その時、バタンと冒険者ギルドの扉が開け放たれた。
すぐさま女性冒険者の悲鳴が上がり、集会場へは異様な"血の匂い"が流れ込んでくる。
そして、その原因たる剣士の冒険者はまだ幾らか肉片のこびりついている巨大な牙を集会場の床へ投げ置いた。

「そらよ! ダーナドラゴンの奥歯だ。これで俺は、俺様は晴れてAランク冒険者だろ! なぁ!? 早く、俺を認めろってんだ!」

 異様に目が血走ったローレンスは、まだ肉片がこびりついているダーナドラゴンの牙を足げにしつつそう叫んだ。

「彼の方です。あのローレンスというBランク冒険者が、先程お話しさせていただいた者です」

「そうか、奴が……」

 てっきり、先日の村の件で、村人たちに叱られ、田舎へ帰ったものだとばかり思っていたが、まだ冒険者を続けていたとは……

(まぁ、そのことは傍においておくとして……確かに、今のローレンスは妙だな。魔力の波動も、以前より増している……)

 ここで考え続けても埒が開かないので、ローレンスと直接話をすると決め、俺は席を立った。

「おい、ローレンス。いくら討伐の成果物だろうと、こんなところへ置かれては迷惑だ。早く退けろ」

「んー……? ああ、てめぇは、てめぇはぁ、トーガ・ヒュゥゥゥズゥゥゥ!!」

 俺の姿を見た途端、ローレンスは奇声にも似た声を放った。
たったそれだけで、俺はコイツが明らかに"おかしくなっている"と感じる。

「まさかまだお前が冒険者を続けていたとはな」

「そりゃ続けるさ! だって今の俺はダーナドラゴンを1人でも倒せるぐらいつえぇからなぁ!」

「お前が強くなったのは良くわかった。だが、そこに牙を置くのは皆の迷惑だ。すぐにどけろ」

「うっせぇな、このがきゃあぁぁぁぁ!!」

「ーーっ!?」

 ローレンスがいきなり剣を抜くなど予想外だった。

 俺は咄嗟に防御魔法を発動させようと準備をする。
だが、次の瞬間、ローレンスの手から剣が弾き飛ばされ、集会場の屋根に突き刺さる。

「次、同じまねをしたら貴方の頭を吹っ飛ばします。遠慮はしません」

 俺の前に立つパルは、足を下げつつ、冷たい声でそう言い放った。
どうやら彼女は俺を守るために、ローレンスの剣を蹴りで弾いてくれたらしい。

 最近のパルは本当に勇ましくて、今まで以上に頼り甲斐が出てきたように感じる。

「はは! なんだよ、女に守られるってかぁ! 情けねぇな、トーガ・ヒューズぅ!」

 だがパルの怒りを受けても、ローレンスはなぜかヘラヘラしたままだった。

「お黙りなさい! これ以上の狼藉は許しません!」

「そうだ、そうだ! ぶっ飛ばすぞぉ!」

 ピルまでもが、俺の前にたち、ローレンスへ文句を叫んだ。

 パルとピルの勇ましさはありがたいが……そろそろまずい。

 受付カウンターの裏では、ギルドの職員たちがにわかに動きを見せている。
このままでは、俺たちにも、集会場で大暴れをしたという悪評がつきかねない。

(しかし興奮状態のローレンスをどうすれば……)

 そう思っていた時のこと。
突然、ローレンスが剣を落とした。
そして先ほどまで真っ赤だった顔が、一気に血色を失ってゆく。

「ああ……あああっ! 俺、なんにも悪くないのに……どうしてこんな落ちぶれて……あああああっ!」

 ローレンスはそう叫びつつ、集会場から飛び出していった。

 誰もが異様なローレンスの様に唖然としている。

 そんな中、おそらく俺1人だけは、別のことを考えている。
これは事件解決につながる事案かも知れないと思っていたのだ。

「ピル、マスタングくんを頼む」

「あのバカを追えば良いんですよね?」

「ああ。しかしあまり無理はさせるなよ。マスタングくんも大事な仲間なんだからな!」

「はーい!」

 ピルが指笛を鳴らす。
すると窓から眼球に翼のついた魔物イービルアイのマスタングくんが飛んできた。

「マスタング、今飛び出したローレンスの追跡を頼む。しかしくれぐれも気をつけてくれよ」

 俺がそう語りかけると、マスタングくんは、巨眼をぱちりと瞬きさせて了承を伝えてくる。
そしてマスタングくんはローレンスを追って再び飛び去ってゆく。

 
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