32 / 86
王国魔術師への最後の一手
しおりを挟む
「トーガ・ヒューズ、其方を栄えある、Sランク冒険者と認め、その称号として金の首飾りを授与する!」
「はっ! 謹んで、その名誉、そしてその証を拝領いたします!」
多くの冒険者が見守る中、俺は壇上でフルツ冒険者ギルドのマスターから"Sランク冒険者"の称号を受け取る。
こうやって、多くの人に注目されたことなど、前の人生では一切なかったため、内心はとても恥ずかしい。
だが、それを表に出すことは、隙をみせることに他ならない。
(舐められたら、それで人生が決まってしまうのは、もうわかっている。だから堂々と振る舞うんだ! 俺はもう冒険者の最高位Sランクなのだから!)
駆け出し冒険者がすぐさま、功績を上げてSランクに認定された。
これはこの国始まっての偉業らしいし、俺自身もそんな冒険者の存在を認知していない。
つまり俺は、このフルツの歴史、果てや冒険者の歴史に名前を刻み込んだのだ。
だから当然、俺へ嫉妬する同業者も現れるだろうし、実際今この場でも、そうした視線を感じる。
(だけど、これは俺にとってきっかけにすぎない。俺の目標はあくまで王国魔術師! こんな雑多な冒険者の世界とは別次元のエリート集団の中なのだから!)
俺に次いで、パルとピル、そして物凄くオドオドしつつも、モニカもSランクの称号を受け取り、授与式は万来の拍手の中終了する。
すると、囲み取材をしようとしていた記者を押し除けて、待望の人物が俺の目の前へ現れてくれた。
「久しぶりね! Sランクへの昇段おめでとう、トーガ・ヒューズ君!」
「ありがとうございます、ジェシカさん!」
「少し話があるのだけれど、お時間いいかしら?」
「もちろんです!」
俺は期待を胸にジェシカさんへ付き従い、ギルドの奥にある"騎士団専用の応接室"に通される。
ここに通されるということは、やはり!
「時間がないから要件から入るわね。トーガ・ヒューズさん、私はあなたを"王国騎士団付属魔術師"に推薦しようと考えてます。この存在はご存知で?」
上等なソファーに腰を据え、香高い高級紅茶に一切手を付けず、ジェシカさんは話を切り出してくる。
「はい、存じております。それが俺の目標でありましたし!」
臆せずはっきりとそう告げる。
だが不思議なことに、ジェシカさんは硬い表情のままだった。
「だと思っていたわ。私としては、すぐに貴方のことを推薦したいと思っているわ。でもね、今のままだと、正直騎士団の審査を通るかどうか怪しいのよ」
「やはり、Sランク冒険者の称号程度では足りないのでしょうか?」
俺に問いに、ジェシカさんは首を縦に振る。
「はっきりいうとそうね。たしかに評価の一つにはなるけど、決定打とはなりえないわ」
やはり王国魔術師というのはそれほどの名誉と実力を備えた集団なのだろう。
確かに王国魔術師といえば、魔術学会の異端児、代々続く魔術名家の子息、幼い頃より魔術が行使できたという神童、更に異界から来たかもしれないといわれる謎の魔術師などなど、恐ろしいほどの肩書きを持った連中がゴロゴロとしている場所だ。
そして皆、魔空の枝道の破壊やライゼン討伐など"普通のこと"と言われてしまうぐらいの、輝かしい実績を上げている。
だから無頼漢の集まりでしかない冒険者の最高位Sランクなど、この連中の実績に比べれば、評価の一つといわれても仕方がない。
だけど、それがわかった上で、ジェシカさんはこうして俺を呼び出してくれたということは……?
「そこで君の実績になりそうな、案件を持ってきたのよ」
やはりジェシカさんは俺の味方なようだ。
俺は、ジェシカさんが差し出した巻物を紐解き、内容へ視線を落とす。
「人の魔物化現象……こんなことが起こっていただなんて……」
「市民には不要な心配をかけないよう、騎士団が秘匿しつつ、捜査をしている案件よ。これの捜査協力を、トーガ君にお願いしたいのよ」
「つまり、この事件の解決に貢献できれば、これが俺の実績になるということですね?」
「ええ。極秘ではあるけれど、国が主導している案件だからね。これは騎士団から正式にギルドへ依頼し、それをトーガ君が受注したということにするから、公的な証明になるはずよ」
「ありがとうございます! 謹んで、ご依頼をお受けいたします!」
騎士団でも難儀する事件なようだが、これが王国魔術師への最後の足がかりになるのならばと、判断した上での回答だった。
それにジェシカさんが俺のことを思って、こうして話を持ちかけてくれたのだから、むげにできようもない。
「快諾ありがとうトーガ君。成果を期待しているわ!」
「ご期待に添えられるよう頑張ります!」
「そこで、君に紹介したい方がいるの」
「紹介ですか?」
「ええ、本件に関しては魔術学の観点からも調べてもらっていてね。君の場合は、その方から話を聞いた方が、捜査方針を固められるだろうと思って……」
「なるほど、確かに」
「"エマ教授"、こちらへ!」
ジェシカさんの言った名前に、俺は一瞬我が耳を疑った。
「お、お母さん!?」
扉が開き、そこから出てきた人物に真っ先に反応したはモニカだった。
「あら! モニカ! 最近、貴方が加入したっていうパーティーはこちらだったのね!」
モニカと同じくアッシュグレーの髪で赤い瞳の、"エマ"という名を持つ女性が目に前に現れ、俺は激しい動揺に見舞われている。
「こちら魔術大学校より本件に関してアドバイザーとして協力してくれている"エマ・レイ教授"よ。本件に関する詳しい話は、彼女から聞いてね」
「エマ・レイです。どうぞよろしくお願いします」
エマ・レイ教授は凄く気品のある態度で、頭を下げてくる。
ーー間違いないと思った。
今、目の前にいるのは、二十数年前、一緒に故郷の村を飛び出し、そして悲惨な目にあった"あのエマ"なのだと。
「はっ! 謹んで、その名誉、そしてその証を拝領いたします!」
多くの冒険者が見守る中、俺は壇上でフルツ冒険者ギルドのマスターから"Sランク冒険者"の称号を受け取る。
こうやって、多くの人に注目されたことなど、前の人生では一切なかったため、内心はとても恥ずかしい。
だが、それを表に出すことは、隙をみせることに他ならない。
(舐められたら、それで人生が決まってしまうのは、もうわかっている。だから堂々と振る舞うんだ! 俺はもう冒険者の最高位Sランクなのだから!)
駆け出し冒険者がすぐさま、功績を上げてSランクに認定された。
これはこの国始まっての偉業らしいし、俺自身もそんな冒険者の存在を認知していない。
つまり俺は、このフルツの歴史、果てや冒険者の歴史に名前を刻み込んだのだ。
だから当然、俺へ嫉妬する同業者も現れるだろうし、実際今この場でも、そうした視線を感じる。
(だけど、これは俺にとってきっかけにすぎない。俺の目標はあくまで王国魔術師! こんな雑多な冒険者の世界とは別次元のエリート集団の中なのだから!)
俺に次いで、パルとピル、そして物凄くオドオドしつつも、モニカもSランクの称号を受け取り、授与式は万来の拍手の中終了する。
すると、囲み取材をしようとしていた記者を押し除けて、待望の人物が俺の目の前へ現れてくれた。
「久しぶりね! Sランクへの昇段おめでとう、トーガ・ヒューズ君!」
「ありがとうございます、ジェシカさん!」
「少し話があるのだけれど、お時間いいかしら?」
「もちろんです!」
俺は期待を胸にジェシカさんへ付き従い、ギルドの奥にある"騎士団専用の応接室"に通される。
ここに通されるということは、やはり!
「時間がないから要件から入るわね。トーガ・ヒューズさん、私はあなたを"王国騎士団付属魔術師"に推薦しようと考えてます。この存在はご存知で?」
上等なソファーに腰を据え、香高い高級紅茶に一切手を付けず、ジェシカさんは話を切り出してくる。
「はい、存じております。それが俺の目標でありましたし!」
臆せずはっきりとそう告げる。
だが不思議なことに、ジェシカさんは硬い表情のままだった。
「だと思っていたわ。私としては、すぐに貴方のことを推薦したいと思っているわ。でもね、今のままだと、正直騎士団の審査を通るかどうか怪しいのよ」
「やはり、Sランク冒険者の称号程度では足りないのでしょうか?」
俺に問いに、ジェシカさんは首を縦に振る。
「はっきりいうとそうね。たしかに評価の一つにはなるけど、決定打とはなりえないわ」
やはり王国魔術師というのはそれほどの名誉と実力を備えた集団なのだろう。
確かに王国魔術師といえば、魔術学会の異端児、代々続く魔術名家の子息、幼い頃より魔術が行使できたという神童、更に異界から来たかもしれないといわれる謎の魔術師などなど、恐ろしいほどの肩書きを持った連中がゴロゴロとしている場所だ。
そして皆、魔空の枝道の破壊やライゼン討伐など"普通のこと"と言われてしまうぐらいの、輝かしい実績を上げている。
だから無頼漢の集まりでしかない冒険者の最高位Sランクなど、この連中の実績に比べれば、評価の一つといわれても仕方がない。
だけど、それがわかった上で、ジェシカさんはこうして俺を呼び出してくれたということは……?
「そこで君の実績になりそうな、案件を持ってきたのよ」
やはりジェシカさんは俺の味方なようだ。
俺は、ジェシカさんが差し出した巻物を紐解き、内容へ視線を落とす。
「人の魔物化現象……こんなことが起こっていただなんて……」
「市民には不要な心配をかけないよう、騎士団が秘匿しつつ、捜査をしている案件よ。これの捜査協力を、トーガ君にお願いしたいのよ」
「つまり、この事件の解決に貢献できれば、これが俺の実績になるということですね?」
「ええ。極秘ではあるけれど、国が主導している案件だからね。これは騎士団から正式にギルドへ依頼し、それをトーガ君が受注したということにするから、公的な証明になるはずよ」
「ありがとうございます! 謹んで、ご依頼をお受けいたします!」
騎士団でも難儀する事件なようだが、これが王国魔術師への最後の足がかりになるのならばと、判断した上での回答だった。
それにジェシカさんが俺のことを思って、こうして話を持ちかけてくれたのだから、むげにできようもない。
「快諾ありがとうトーガ君。成果を期待しているわ!」
「ご期待に添えられるよう頑張ります!」
「そこで、君に紹介したい方がいるの」
「紹介ですか?」
「ええ、本件に関しては魔術学の観点からも調べてもらっていてね。君の場合は、その方から話を聞いた方が、捜査方針を固められるだろうと思って……」
「なるほど、確かに」
「"エマ教授"、こちらへ!」
ジェシカさんの言った名前に、俺は一瞬我が耳を疑った。
「お、お母さん!?」
扉が開き、そこから出てきた人物に真っ先に反応したはモニカだった。
「あら! モニカ! 最近、貴方が加入したっていうパーティーはこちらだったのね!」
モニカと同じくアッシュグレーの髪で赤い瞳の、"エマ"という名を持つ女性が目に前に現れ、俺は激しい動揺に見舞われている。
「こちら魔術大学校より本件に関してアドバイザーとして協力してくれている"エマ・レイ教授"よ。本件に関する詳しい話は、彼女から聞いてね」
「エマ・レイです。どうぞよろしくお願いします」
エマ・レイ教授は凄く気品のある態度で、頭を下げてくる。
ーー間違いないと思った。
今、目の前にいるのは、二十数年前、一緒に故郷の村を飛び出し、そして悲惨な目にあった"あのエマ"なのだと。
297
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで
あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる