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王国騎士団付属魔術師を目標に!

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「おはようございますトーガ様。本日のご予定は?」

「冒険者ギルドへ向かい、依頼を受けようと考えている」

 宿屋を出た俺は、そう今日の予定をパルとピルへ伝えた。
そして街の中心にある冒険者ギルドケイキ支局を目指して、賑やかな大通りを歩き始める。

 今の俺はおそらく使いきれないほどの資産を所持している。
この金を使って一生、パルとピルを養いながら、自由気ままに遊んで暮らすことも可能だ。
だが、人生をやり直す機会を得た俺にとって、その道は選ぶべきものではない。

「2人には最初に話しておく。俺はこれから王国騎士団付属魔術師ーー略して【王国魔術師】になるために行動をしてゆく」

 と言ったものの、シフォン人で、この間まだ奴隷生活を強いられていたパルとピルにはよくわからない話だろう。
現に2人は首を傾げている。

「まず騎士……これはケイキの戦闘職の中では国が唯一認めた資格で、国の治安維持や兵役などを受け持っている、非常に名誉ある職だ。士官を目指すならば専門の大学校で5年間学ぶ。下士官並びに兵卒の場合は試験を受ければ良いが、どんなに頑張り年齢を重ねても、副長になれるかどうかといったところだ」

「では昨日お会いしたジェシカさんは大学校卒業の、優秀な方なのですね」

 賢いパルはすぐに俺の話した内容を理解してくれたようだ。
 ジェシカさんはあの若さですでに副隊長の地位にあることから、ここ数年で大学校を卒業した人物だと判断したのだろう。

「でも、トーガ様はどうして大学校へ入らないのですか? 騎士団を目指すには、良い道筋だと思いますけど?」

「先ほども話した通り、大学校へ行くと少なくとも5年は学業で拘束されてしまう。その時間が惜しい」

ーー前の人生で、時間の使い方次第で人生が大きく変わってしまうと痛感していた。
 特に今の俺は若い肉体を得ている。その若さを1秒たりとも無駄にはできない。

「だが俺の目指す【王国魔術師】は大学校へ入ることなく、士官かそれ以上の資格が得られるものだ。これになるためには"戦闘現場での高い実績"、"現役騎士による推薦"、"難解な魔術試験の突破"、以上の三つの条件が必要となってくる」

「ジェシカさんと仲良しで、すっごく魔術が使えるとーがさまは、もうすでに条件を二つパスしているってことだね~」

 いつものほほんとしているピルだが、俺の話を正確に理解してくれているらしい。
さすがはパルの妹といったところか。

「と、なるとトーガ様に足りないのは"戦闘現場での高い実績"……だから、これから冒険者ギルドへ向かい、これから戦闘における高い実績を上げてゆく……そういうことですね?」

「その通りだ」

「さしでがましいようですが、トーガ様はどうして【王国魔術師】に?」

「……いつの日か、俺は【魔空】を潰し、みんなが平和で穏やかに暮らせる世界を作りたいからだ」

 ケイキ領土の東北、かつてシフォン人の国パウンドも接しているモーブラン山脈。
その向こうに、魔物の発生源である【魔空】というものが存在している。
 いつの時代から、これがその場にあるのかはよくわかっていない。
しかし、ここから危険な"魔物"という存在が発生し、人々の脅威になっているのは確かだ。

「たしか、ケイキがパウンドを侵略したのって……」

「魔空からの魔物の流れを全てパウンドへ背負わせるためだ」

 パルが言おうとしたことを、自分の言葉によって遮る。
 ケイキを構成するタルトン人の俺が絶対に避けて語ってはいけない歴史的事実だからだ。

「元々、俺は魔空の存在が許せなかった。だから【王国魔術師】を志した。今でもその気持ちは変わらない。でも、この思いに新しい目的が加わったんだ……パルとピルに出会ったことによって……!」

 俺は両隣にいるパルとピルの手を強く握りしめる。

「俺は魔空を潰し、そして2人の故郷を取り戻したい。そのための第一歩が【王国魔術師】になることなんだ!」

 俺の言葉を受けた当初こそ、パルとピルは驚きの表情を浮かべていた。
しかし、やがてパルが俺の手を握り返してきてくれる。

「ありがとうございますトーガ様……素晴らしい目標だと思います。不肖ながら、このパルもお手伝いできればと思っています」

「ありがとう、パル」

「……」

 対してピルは、どこか寂しげに俯いたままだった。
もしかすると、ピルはなにか思うところがあるのかもしれない。
 それも仕方のないことだ。
なにせ俺はシフォン人から、全てを奪ったタルトン人なのだから……

 そうして会話を交えていると、目の前に立派な城砦が現れる。
こここそ、冒険者ギルドケイキ支局。
俺の新しい人生とその目標はここからまた始まる!

「いくぞ、パル・ピル!」

「はいっ!」

「……」

 相変わらず、冒険者ギルドは一攫千金を狙った荒くれ者でごった返していた。
そんな人々をかき分けて、俺は受付カウンターへと向かう。

「できるだけ大きな依頼を請け負いたです! なにか斡旋してください!」

 俺は銀色に光る冒険者ライセンスを叩きつけるようにして、そう言い放った。
しかし、受付の人が動じないのは、さすが日々荒くれ者を手早く裁いているが故か。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 受付は早速、提示されたライセンスを受け取り、認証用の魔法陣へかざす。
そこにきてようやく、受付の鉄面皮が崩れた。
そして訝しげな視線をこちらへ向けてくる。

「あの、このライセンスはどちらで拾得なさいましたか? もしかして貴方はご遺族の方でしょうか?」

「こちらのライセンスはトーガ・ヒューズ様が死亡したことにより抹消をされております」

「し、死亡!?」

「はい。あと、こちらのライセンスはご本人様のみが使用可能なものです。たとえご遺族の方であろうとも、譲渡使用は不可能となっております。冒険者ギルドをご利用になりたい場合は、ライセンスの新規取得をお願いいたします。こちらが取得資格認定試験の日程表になります」

 受付は事務的にそう言い放つと紙を差し出してきた。
そして"早く退け"といった視線を向けてくる。
確かに俺の後ろには、斡旋を受けたい荒くれ者が苛立たしげに並んでいる。

 仕方なく、俺は列から離れ、待合のソファーで待っているパルとピルの元へ戻ってゆく。

「お帰りなさいトーガ様! いいお仕事みつかりましたか?」

 パルは俺のことを開花した花のような笑顔で迎えてくれたが、俺は曖昧な笑顔しか返せない。

「いや、それが……そういえば俺、冒険者ライセンスを持っていないなって思い出して! だから取得からがスタートだった! うっかりしてたぁ~!」

 何者かに死亡届が出され、ライセンスが抹消されていたーーそんなことを真面目に語っても、無用な説明が生じるだけと考えた結果、思いついた言葉であった。

「うふふ、うっかりって……トーガ様にも、意外とそういうところがあるのですね?」

「面目次第もない……道中でかっこいいことばかり言ってたくせに、こんなので……」

「いえいえ。むしろ完璧人間よりも、少しそういう可愛いところがある方が私は……す、好きですっ……!」

 まぁでも、恥ずかしがりながらもパルに"好き"と言ってもらえたから良いとしよう。
 それにライセンスが無いなら、取り直せば良いだけなのだから!
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