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仇敵ボン・ボンとシフォン人の奴隷姉妹

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 周囲には夥しいほどの死体が転がっていた。

 どうやらボン・ボンと総勢十数名の手下たちは、通りがかりの行商団を襲撃していたらしい。
――しかし全滅ではなかった。

「あ、あ……お姉ちゃん……!」

 白い肌に、青い目をした、“幼い印象の少女”が、闇の中で怯えている。

「だ、大丈夫よ、大丈夫……!」

 そんな少女を、もう一人の生き残りである、“大人びた雰囲気の少女”が抱きしめ、必死になだめている。
彼女もまた同じ銀の髪、白い肌、そして特徴的な青い目を有していた。

 おそらくこの子らは姉妹で、身体的な特徴から、俺たちタルトン人が滅ぼした魔導民族の"シフォン人"。更にまとっているぼろきれや、手かせ足かせの存在から、この二人が壊滅した行商団の商品である、奴隷だと判断できた。

「がはは! まさかシフォン人の女奴隷がいるたぁなぁ! しかも二人も!」

 ボン・ボンはいたくご機嫌にそう言葉を吐いた。

 シフォン人は元々美男・美女ばかりの民族だ。
その中であっても、今目の前にいるシフォン人姉妹は群を抜いて、美人で愛らしいと俺でさえ思った。

 当然、ボン・ボンもそう感じているらしく、奴はすっかり膨張した欲望を見せつけつつ、姉妹のシフォン人奴隷へにじり寄ってゆく。

「ぐふふ……さぁて、どちらから……」

「いやぁあぁぁー!」

 ボン・ボンは幼い印象のシフォン人少女を選び、首根っこを掴んだ。
相変わらずこの阿呆でオークにそっくりなこの男は、小さい方が好みの変態らしい。

「ピルっ!!」

 もう一方の大人びたシフォン人少女は、幼いシフォン人少女を取り戻そうと、ボン・ボンの足へすがりつく。
しかしあっさり蹴り飛ばされ、ボン・ボンの醜悪な手下どもに取り押さえられてしまった。

「お、お願いします……私の方がやります……私がご奉仕させていただきますっ……だから、どうかその子は……! ピルだけは……!」

 大人びた方のシフォン人奴隷は、男たちに取り押さえられつつも、必死な様子訴えかけている。
そんな彼女を見下ろしつつ、ボン・ボンは邪悪な笑みを浮かべた。

「なぁに勘違いしてんだぁ? 早いか遅いかだけの差だってのぉ! お前だって、このチビのあとに……でゅふふふ!」

「い、いやぁ……ひっく……! お姉ちゃん……助けてぇ……お姉ちゃぁーん……!」

 ボン・ボンは小さい方のシフォン人奴隷ーーピルーーを地面へ思い切り叩きつける。そして蹲る少女を押さえつけ、自身は片手で器用にズボンのベルトを外しだす。

「ケツちいせぇなぁ! 裂けて死んじまうんじゃねぇか? がははは!」

「いやぁぁぁぁぁーーーー!!!」

ーー怒りが湧いた。しかし同時に、それ以上の恐れが俺を包み込んだ。
目の前の光景が、まるで二十数年前に受けた、俺の屈辱の記憶と酷似していたからだ。

 10代だった頃の俺は、仲間で幼馴染だったエマと共に、ボン・ボン一行の襲撃を受けた。
 その時俺は、右足の腱を切られて自由を奪われ、殴る蹴るといった酷い暴行を受けて……そんな俺の目の前で、こいつらは泣き叫ぶエマを一晩中、嬲り、犯し、彼女の体と心をめちゃくちゃにして……

 エマは俺にとって仲間で、幼馴染だったのと同時に初恋の相手でもあった。そしてたぶん、当時のエマも俺へ強い好意を寄せていただろうと思う。
でも、俺とエマはお互いに想いを伝え合う前に、ボン・ボンに襲われ、引き裂かれた。

 その時の俺は勇気も、力も、何もなく、彼女が壊れてゆく様を、ただ指をくわえてみているだけしかできなかった。

ーーきっと、そんな過去の壮絶な記憶と、今目の前の状況が重なって見え、治ったはずの右足に、震えと痛みを呼び起こしているのだろう。

「だ、大丈夫だ……」

 だが、俺は自らへそう言い聞かせ、恐怖心をグッと抑えっつけえる。

 暴行を受け、右足の自由を失った痛み。
大事な人を守れなかった絶望感。
それらがずっと俺の心の中に根付いていて、これまでの人生を狂わせ続けていたのかもしれない。

 でも今こそ、そんな過去の記憶と向き合い、乗り越えるべき時!

 今の俺は、未だに原因不明だが、こうして人生をやり直す機会を得た。
更に自分でも驚くほどの、強大な力を手にしている。

「大丈夫……今の俺ならば……必ずできる!」

 恐怖の震えを言葉で抑え込み、代わりに怒りを燃やす。
今の俺は、二十数年前のように、指を咥えて見ているだけの男ではない!
女の子が目の前で無惨にも犯されるのは、もう懲り懲りだ!

 右腕の魔力経路を解放する。
祝詞を出さずとも、こちらの意思を汲み、凍てつく氷の精霊が祝福を授けてくれる。
そして俺の拳は一瞬で鋼よりも硬い氷に包まれた。

「だぁぁぁぁー!!」

「なっ!? ごふぅぅぅーーーーっ!?」

 俺は勢いよく飛び出し、氷結魔法によって硬氷で覆われ硬度の増した右の拳を、迷わずボン・ボンの頬へ叩きつけた。
 ボン・ボンは、ズボンを下ろしたままという、とても情けない格好で地面の上を転がってゆく。

「ふえぇ……?」

「もう大丈夫だ。安心しろ。君と君のお姉さんは俺が守る! 絶対に!」

 小さなシフォン人奴隷へそう語りかけつつ、腰まで捲られたボロ切れをそっと元の位置に戻してやるのだった。いつまでもお尻丸出しじゃ、寒いし、かわいそうだからな!

「あなたは……!?」

 突然の闖入者である俺へ、押さえつけられていたお姉さんの方のシフォン人がそうつぶやく。ボン・ボンの手下たちでさえ唖然とした視線をこちらへむけている。

 しかし俺はそれらの言葉や視線を一切無視して、起きあがろうとしていた鼻血まみれのボン・ボンへ近づき、そして見下ろした。

「久しぶりだな、ボン・ボン。俺のことを覚えているか?」

「だ、誰だてめぇは!」

「……やはり、そうか……」

 念のために聞いてみたが、やはり無駄だった。
なにせ俺がコイツらに襲われたのは二十数年も昔のことだ。
顔なんて覚えていなくて当然だろう。特に若返った俺の顔など……

 更にこの男にとって盗み・殺人・強姦は、人が息をし、水を飲んで、飯を食うのと同意で、相手のことなどいちいち覚えていないと聞いたことがある。
ならば、こんな男を生かしておく価値なんてどこにもない!

(こんなゴミクズ野郎は、この世から消え去るべきだ! ぶっ潰してやるっ!)

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