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これからは本気で生きてゆく!

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「ありがと! 命を救ってくれて!」

「んふぅ!?」

 ジェシカさんは俺のことを突然、ぎゅっと抱きしめて来た。
もしも白銀の胸甲がなければ、俺の顔は彼女の立派な胸へすっかり埋まっていたことだろう。惜しいっ!!

「ジェ、ジェシカさん! いきなりなにをぉ……!」

「あら? 私の名前を覚えてくれたのね! 嬉しいわ! 是非、貴方のお名前も教えてくれる?」

 ジェシカさんは熱い吐息と共に、甘い声でそう囁いてきた。
胸甲越しにも、彼女の興奮による鼓動が伝わってきている。

「ト、トーガ。トーガ・ヒューズって言います……」

 若返っても俺は俺のままなので、そう名乗った。
するとジェシカさんは、とても嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。

「トーガ君……素敵な名前ね。改めて……私はジェシカ・フランソワーズ! これでも一応この隊の副隊長で、いつもはフルツっていう街の騎士団の詰所に勤務しているわ」

 フルツは俺の住まいもある、大都市だ。
しかしいきなり、自分の所在などを明かしてくるとは。
やはり、この現象は……

「もしまた会えたら、その時はデートしましょ?」

「あ、あ、いや……でもジェシカさんにはフォードさんが……!」

 思わず俺はそう叫んだ。
なにせ、近くにはあれだけジェシカさんの怪我を嘆いていたフォードさんの姿があるのだ。
そう易々と提案を易々受けるわけには行かないと思う……?

「安心して! フォードさんは私の叔父さんで、保護者みたいなものだから! 今の私はフリーだし! だから全然問題なしよ! ちゅっ!」

「ーーっ!!」

 そういって、ジェシカさんは俺の頬へキスをしてくれる。
娼婦以外から始めて受けたキスに、俺の心臓は激しく跳ねあがり、膝から力が抜けてしまう。

「あ、あわ……!」

「うふ、かわいい反応ね。もしかしてこういうの初めてだった?」

「あ、えっと、まぁ……」

「次もし会えたら、これよりいいことしましょ? それじゃあ気をつけてね、可愛い英雄さん!」

 ようやく抱擁から解放され、ヘナヘナと地面へ蹲った。

 フォードさんからジェシカさんは「また若者を揶揄って!」などと叱られながら、闇の奥へと消えてゆく。

 そんな中であっても、ジェシカさんは何度もこちらを振り向いては、名残惜しそうに手を振り続けてくれる。たぶん、これは揶揄われているわけではなそうだ。

 どうやらジェシカさんは、一瞬で俺に"堕ちて"しまったらしい……?

(上等は魔力経路は才能の継承のために、異性を問答無用で引き寄せることがある……という魔術学の論文を読んだことがあるが……あの論文は事実だったんだな……)

……それにしても、ジェシカさんの感触は、たとえ鎧ごしだろうともすごく柔らかかった。
そして若い女性独特のとてもいい匂いがした。

 素人童貞の俺にはものすごく刺激的な瞬間だった。
そういう刺激に由来する、"肉体的な興奮"を抱くのも、本当に久々のことだった。
おそらくこれは体が若返ったのが原因と思われる。まさに若さ万歳だ。

「行ける……行けるぞ……!」

 若い肉体、圧倒的な魔術の力、そして大金。
一瞬で、何もかもが手に入った気がした。

 何故このような状況になったのか、原因は未だに不明。
しかし原因はどうであれ、俺は様々な、そして有力なカードを多数手にしている。

 原因はおいおい考察するということで、今は……!

(せっかくやり直す機会を得たんだ。手段も持っている。なら……やりたいようにやってゆくんだ……!)

 自己肯定感や、怪我、様々な要因が重なり、クソになりかけていた俺の人生。
もう俺の人生はおしまいで、好転などしないと思っていた。
しかし……!

(二度目の人生を本気で、好きに生きてゆく! 絶対に! もう二度と後悔なんてするものか!!)

ーーならば、こんな薄暗いダンジョンからはさっさとおさらばすべきだ。
そう判断した俺は、ダンジョン専門の脱出魔法を発動させた。
 圧倒的な魔術の才能は100層にも及ぶ、このダンジョンから一気に入り口まで跳躍させるといった、恐ろしい力を発揮する。

 時は夜。
ダンジョンの入り口がある森は静けさの包まれて……はいなかった。

 聞こえてきたのは夜の静けさに相応しくない阿鼻叫喚。
うっすらと漂ってくる血の匂い。
そのせいで、せっかく余韻に浸っていた、ジェシカさんの匂いがあっという間にかき消されてしまう。

「おら~死ねぇ~!」

「ぎやぁー!!」

 木々の間ででっぷりとした男が、蛮刀で男を切りつけた。
首を刎ねられた男は血飛沫をあげながら、地面へ倒れ込む。

月明かりが蛮刀を煌めかせ、でっぷりした男の陰影を明確にする。

 そいつの顔を見た瞬間、俺の若返った心臓は、あの日のことを思い出しぎゅっと締め付けられる。

 オークのような見た目の醜悪な巨漢。
その癖力は強く、今では我が国ケイキでも悪漢と恐れられるタルトン人。
そして俺の右足の腱を切り、目の前でエマを犯し、壊した憎き相手が今目の前に!

「おらぁ~うばぇ~! 泣く子も黙るボン・ボン盗賊団の恐ろしさをみせてやれぇ~! でゅふふふふ!」

 悪漢は明らかに悪そうな手下へ指示を出し、次々と虐殺を行なっている。

「ボン・ボン……まさか、こんなところで会えるとはな……!」

 俺は冷や汗を浮かべながらも、笑みを浮かべる。
まさに僥倖だった。
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