上 下
2 / 86

若返った!? 魔術師トーガ

しおりを挟む
「死後の世界は、こういう姿で過ごすのか……!?」

 実際、誰も死後の世界へ行き、戻ってきたことなどないのだから、わかるはずが無い。

「とりあえず元いた場所へ戻ってみるか……?」

 泉から出て、元のところへ戻ると、そこには俺がおろしたザックや、荷物が散乱していた。
岩壁には俺のと思しき乾いた血がべっとりと付いている。
更に地面には、刃を真っ赤に染めた短剣ーーアゾットが転がっていた

「たしか俺はこの短剣で腹を突いて自害を……」

 俺は自分の腹も確認してみた。 
 腹は相変わらず、自分でも見惚れてしまうほどのシックスパックがあるだけ。
アゾットでの刺し傷は一切見当たらない。

(あのアゾットという短剣は、なにか回復作用のある呪具だったのだろうか? どれ、解析してみるか……)

 アゾットを手に取り、己の魔力経路を解放した。
そしてそこへ、光の精霊の降臨を願う。

「光の精霊よ、我に真を読み解く力を与えーーっ!?」」

 完全に詠唱を終える前に、驚くべき速さで、魔術が発動し、解析結果が脳裏へ浮かんだ。

 なんとなく、俺の魔力経路に降臨した光の精霊が、今笑っていたような……?

 とりあえず、精霊のことは隅に置いておき、俺は脳裏に浮かんだ解析結果を読み込んでゆく。
 解析結果……アゾットにはなんら魔力の痕跡は無く、ありふれた短剣だとわかった。
しかし、驚くのはそこではなく、

「なんだったんだ、今の速度は……?」

 俺程度の実力では、少なくとしばらくの間対象へ集中しなければ、解析結果がでないはずだ。
しかもこんなに早く、こんな精度で解析が成幸したことなどない。
ならば次の実験と思い、ザックから小瓶に入ったポーションを取り出す。

(これは武器類とは違って複数の薬品を組み合わせた、複雑なものだ。これでどうなるか……)

「光の精霊……ーーんんっ!?」

 詠唱の途中で、ポーションの複雑な解析結果が脳裏へ瞬時に表示された。
相変わらず光の精霊は、朗らかな雰囲気で、俺に魔術の力を貸し与えてくれていた。

(一部の才能に溢れた魔術師はある程度の術であれば、その存在を意識するだけで、精霊が意を汲んで術を発動させてくれる……無詠唱発動が可能なのだと聞いたことがあるが……)

 更にアゾットの時に比べ、魔術発動が早まったのは、俺の身体にある魔力経路が解析魔法自体を瞬時に覚えたかららしい。
確かに、天才的で、"生まれつき上等な魔力経路"を持つものは、そうなる傾向があると論文で読んでことはあったが……
 ちなみにいくら若い頃に将来を有望視されていた俺でも、ここまでの才能はなかった。

「なぜ急にこんなことに……ふーむ……」

何故か俺には圧倒的に上等な魔力経路が備わっていた。
それに、先ほどから魔術のことよりも気になることが……

「あー、あー、いー! 俺はトーガ! おお、やはり……!」

 懐かしい声が岩壁に反響する。
数十年に及ぶヤケ酒のせいで、ガラガラになっていた俺の声が、昔の透き通るようなものへ戻っていたのだ。
更に嬉しいことに……!

「右足が……! 俺の足が動くぞっ……!」

 数十年の間、ずっと不自由だった右足がしっかりと地面を踏みしめていた。
飛んでも、跳ねても痛みはなく、足が怪我を負わされる前のように自由自在に動く。
これほど嬉しいことはなかった。

 圧倒的な魔力、若返った体、そして自由を取り戻した右足。
これが夢なのか、現実なのかは、正直分からない。
しかし、心が、体が湧き立っている。そのことだけははっきりわかった。

 まずはこの沸き立ちに身を委ねたい。
これが夢だろうと、死後の世界だろうと、現実だろうと関係ない。
 俺は今、魔術を撃ちたくてウズウズしている!

「試してみるか……!」

 俺はひょいと荷物を担いだ。
そしてアゾットを腰の鞘に収めて、自由に動くようになった右足で最初の一歩を踏み出す。

 最適化・最強化され感覚が鋭くなった魔力経路が、魔術の試し撃ちにはお誂え向きな魔物の存在を知らせてくれていたからだ!
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【物真似(モノマネ)】の力を嫉妬され仲間を外された俺が一人旅を始めたら……頼られるし、可愛い女の子たちとも仲良くなれて前より幸せなんですが?

シトラス=ライス
ファンタジー
銀髪の冒険者アルビスの持つ「物真似士(ものまねし)」という能力はとても優秀な能力だ。直前に他人が発動させた行動や技をそっくりそのまま真似て放つことができる……しかし先行して行動することが出来ず、誰かの後追いばかりになってしまうのが唯一の欠点だった。それでも優秀な能力であることは変わりがない。そんな能力を持つアルビスへリーダーで同郷出身のノワルは、パーティーからの離脱を宣告してくる。ノワル達は後追い行動ばかりで、更に自然とではあるが、トドメなどの美味しいところを全て持っていってしまうアルビスに不満を抱いていたからだった。 半ば強引にパーティーから外されてしまったアルビス。一人にされこの先どうしようとか途方に暮れる。 しかし自分の授かった能力を、世のため人のために使いたいという意志が変わることは無かったのだ。 こうして彼は広大なる大陸へ新たな一歩を踏み出してゆく――アルビス、16歳の決断だった。 それから2年後……東の山の都で、“なんでもできる凄い奴”と皆に引っ張りだこな、冒険者アルビスの姿があった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...