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最終話
しおりを挟む「ああ……うう……ああ……あははは……けほ、ごほっ……うう……」
「ほらアリシア、お水だよ。ゆっくり飲んで……」
クラリスは自分よりも遥に身も心もボロボロとなったアリシアへ水を飲ませていた。
一流の魔法使いであるクラリスにはわかる。
もはやアリシアは薬と呪いのせいで、このまま一生壊れた人形のような状態であることを。
それでも見捨てられなかったのは、クラリスにとってアリシアは唯一の友達だったからだ。
周りからどんなに見捨てられようとも、こんな状況のアリシアを一人にはできない。
クラリスはそう思い、今でもアリシアの傍にい続けている。
「ああ……うあぁ……」
「どうかしたの?」
急にアリシアは目を瞬かせ、ブルブルと震え出す。
「にげ……」
「……?」
「逃げて……クらりす……」
アリシアは胡乱げな表情のまま、ボロ屋の入り口戸を差しし示す。
ふいに外から複数の足音や、物を壊す激しい音のようなものが聞こえた。
クラリスは扉の隙間から外の様子を確認する。
ーー野党が滅びた村の家屋を荒らしまわっていた。
早くこの場から逃げねばならない。
しかし重体のアリシアを連れては、こっそりと抜け出すことも不可能な状況だ。
(早くいなくなりますように……早く……!)
クラリスはアリシアを抱きしめ、繰り返しそう願う。
しかし、
「おっと! こりゃ今日1番の宝もんを発見だぁ!」
扉が蹴破られ、熊のような野党がクラリスとアリシアを見下ろしていた。
やがてボロ小屋の中へ、続々と野党が押し入ってくる。
「おいおい、こいつってこの村の娼館にいた殴り放題の女じゃん!」
「しかもナンバーワンだったアリシアちゃんまで! こりゃ着いてるぜ、うひひ!」
彼らが何をしようとしているのか。
店で男たちから散々酷い仕打ちをうけたクラリスにはわかった。
「うぐっ……んっ……!」
クラリスの腹がうなりを上げ、いつもの吐き気が押し寄せてきた。
しかし彼女は、沸き起こった吐き気をグッと飲み込み、野党共を睨み上げる。
おそらく、一人ならばこの場を脱することはできるだろう。
「逃げて……」
アリシアもそう言っている。
しかし、
「おい、なんだよてめぇ。どうつもりだ?」
「あ、アリシアに触れるな……! そ、そんなこと私が許さない……!」
クラリスはアリシアを守るように、野党の前へ立ち塞がる。
すると野党共はニヤついた笑みを浮かべて、ボロボロの二人へにじり寄ってゆく。
「アリシア、いつまでも私たちだけは一緒だよ……」
「クラ……リス……」
今更遅いのはクラリス自身もわかっていた。
しかし、それでも彼女は立ち上がる。
ノワールとの最後の約束をきちんと果たすために……。
この日を境に歴史の表舞台から、ラインハルト、クラリス、アリシアは姿を消す。
この三人がその後、どうなったのか、知るものは数少ない。
●●●
「な、何をするか貴様ら!? ええい、離せ!!」
一人で街道を歩いていたブランシュは突然現れた魔法使いの面々に拘束される。
あまりの魔力の強さに、ブランシュは身動きひとつ取れずにいた。
「久しいな、ブランシュ」
「あ、兄上! これは一体……?」
ブランシュの目の前に現れたのは第二王子のホワイト・ニルアガマだった。
「親父殿の命令だ。ここでお前を処刑する」
「な、なんですと!?」
「元々、親父がお前は勇者にしたのはこうするためだったんだよ。出来の悪いお前をこの世から消すためにな!」
「っ……!」
「あとはお前の失態を理由に勇者制度を廃止する意図もあった。こんな平和な世に勇者なんていらねぇからな!」
「よ、余は、そのための生贄……」
「そういうこった! じゃあな、ブランシュ!」
「お、おのれぇぇぇーー!!」
魔法使いの斬撃が、ブランシュの首をあっさりと跳ね飛ばす。
白の勇者のあっけない最後であった。
ブランシュの死を契機に、国は勇者制度を廃止にする。
しかしこれは魔物が王になりかわり、邪魔な勇者を排除するための計略だった。
現王の正体が魔物ーーしかし、その事実にいち早く気がついたものがいた。
ヨトンヘイム冒険者ギルドマスター・グスタフである。
そして彼の正体は、王位第三十位継承者、グスタフ・ニルアガマだったのだ。
彼は、友人のノルンとその仲間たちへ、現王が魔物であると知らせ、その打倒を願い出る。
ヨトンヘイム冒険者ギルド共同寮の寮長に就任し、寮母のリゼと共に、ティナ、ジェイ&トーカ、三姫士、なぜか屋根裏部屋に住み着き始めた義妹のレンとドタバタ劇を繰り広げてていたノルンだったが
国の一大事ということで、仲間たちを引き連れ旅をすることに。
その過程で死霊と化したブランシュとその分身を倒したり、ティナの故郷を救って彼女との距離を縮めたり、動揺する民を沈めたり、大臣ら国家運営の幹部を味方につけたりなどをして、次第に魔物である現王を追い詰めてゆく。
やがて、魔物であった現王はノルン一派倒された。
そして混乱を収めるべくグスタフが新たな王となる。
グスタフ新王は平和維持のためにノルンを筆頭とした戦士たちを近衛兵団として徴用する。
勇者は要らず。しかしニルアガマにはノルンを筆頭とする最強の近衛団あり!
こうしてニルアガマ国は平穏を取り戻すのだった。
●●●
グスタフが新たな王となり、新生ニルアガマ国が建国され、平和が訪れた。
俺は久々にヨトンヘイムへ訪れ、冒険者ギルドの前でリゼさんの業務終了を待ち侘びている。
「お疲れ様でしたー」
やがてリゼさんが裏口から姿を現す。
今が絶好のチャンス!
「リゼさん!」
「ノ、ノルンさん!? どうしたんですか急に!?」
「は、話があってきた……国も落ち着き、俺の身分も落ち着いたので……ようやく伝えられる!」
「そ、それって……」
「リゼさん、俺と結婚をしてくれ!」
「え、ええ!? い、いきなりなんですか!?」
「頼む、この通りだ! 国が平和になったらと決めていたのだ! これが王との決戦の前に伝えたかったことなのだ!」
俺は頭をさげ、リゼさんからの回答を待つ。
すると……
「よ、喜んで……!」
嬉しい回答に胸の内が華やいだ。
しかし彼女は突然クスクスと笑い出した。
「ど、どうかしたか?」
「私は良いんですけど、皆さんはどうなんでしょうね?」
背後に複数の気配。
振り返るとそこにはティナが、三姫士が、そして何故かレンまでが鬼のような形相でこちらを見ている。
「みんな、ノルンさんのことが大好きみたいですよ。どうするんですか?」
「ど、どうするも、俺は君と結婚したいだけで……」
「別に私だけじゃなくたって良いじゃないですか」
「は?」
「とりあえず私は第一婦人になれたので、それで満足です!」
そうだ……スェイブ州は一夫多妻制だ。
だから重婚は全く問題がない。
「ほら、行ってください! 男らしく! 特にティナさんは鈍感なノルンさんのせいで泣いてたことあるんですから! ちゃんと責任取らなきゃだめです! 三姫士の皆さんも! レンちゃんのぶんも!」
リゼさんへ背中を押され、彼女たちの元へ歩んでゆく。
正直、これからどうしていいのかさっぱりわからない。
しかしどうやら俺の妻は、皆を幸せにすることを望んでいるらしい。
彼女がそう思うなら俺は……!
おわり
超駆け足で申し訳ありません。
力尽きましたので打ち切りです。
現状かなり忙しいというのもあり、続きを書くのが困難な状況です。
そんな状態で頑張って書いたとしても、これ以上大きな伸びは期待できないと判断したところもあります。
実は前の方が自分的に好きです。
本来ブランシュはホワイトに処刑されず、ノルンたちへ倒される方向で進めておりました。
それでは。
またなにか出しましたらよろしくお願いいたします。
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m(_ _;)m
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そうですか……
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