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三姫士
しおりを挟む「構わないが……今日の主役の一角が揃いも揃ってこんなところにやってきて良いのか?」
「そりゃノルン、アンタもだろ?」
「う、むぅ……」
アンのいうことは最もなので、何も言い返せない俺だった。
「我ら、ノルンに聞きたいことある! とっても聞きたいこと!」
そういえば、超巨大ゴーレムとの戦闘前に、この三人は何か俺に聞きたがっていたな。
「良いぞ。なんだ? 俺の何が知りたい?」
俺は端的にそう告げた。
しかし三人は、何故かモジモジし始めて、なかなか口を開こうとはしない。
「お、おい! くそエルフ、黙ってんじゃねぇよ! 聞けよ!」
「ど、どうしてこんな時ばかり私を指名するんだちんちくりんドワーフ!」
「こんな時喧嘩よくない! だったらみんなで一緒に……!」
何故か六つの瞳が、こちらをギロリと睨んできた。
そんな目で見られると、さすがの俺でもとても怖いのだが……
「ど、どうしたんだお前達……?」
シェスタ、アン、デルパの三人はゆっくりとこちらへ歩みを進めてくる。
「い、行くぞ! 逃げるなよ、ちんちくりん!」
「い、いちいちうっせぇな、クソエルフ! わぁってるって!」
「我呼吸とる! せーのぉー……」
「「「貴方はもしや、黒の勇者ノワールではありませんか!?」」」
三人の大音声が夜空へ響き渡る。
やはりその件だったか……さてどうしたものか。
俺と、そしてグスタフは、あえて過去のことを語らないようにしていた。
無用な混乱を避ける意図があった。
それに俺自身も、立場を奪われた側なので、今更過去の自分のことを語りたくはないと考えている。
しかし……
「……正解、だが……」
彼女達を直視できず、やや視線を逸らしてしてそう答えた。
途端、肌が熱気の様な、暖かいような不思議な感覚を得る。
「お、おい!? お前達、なにを……!?」
なぜか、俺は四方八方から三人に抱きしめられてしまっていた。
「うっ……うっ……生きてた……本当にっ……!」
シェスタはこちらの胸を涙で濡らしながら、そう言った。
「なんだよ、こんなに早く再会できんのかよ、ちくしょう……!」
脇の辺りにくっついているアンもまた、涙を流し続けてくれている。
「ノワール、良かった、また会えて……我、嬉しい! とっても嬉しいぃ……!」
背中の方からデルパの弱々しい声が聞こえてきている。
「お前達はまさか、俺のことを……?」
「そうさ! 貴方のような素晴らしい方が急に勇者を辞めたって聞かされて、死んだかもしれないなんて言われて! でも、そんなはずないって! 絶対にまだどこかで元気にしてるはずだって! だから私たちは……」
シェスタの言葉に、胸が熱く焦がれた。
アンもデルパも、まるで同意するかのように、より身を寄せてくる。
誰かが自分の身を案じ、立場を捨ててでも必死に行動をしてくれた。
そのことが嬉しくてたまらなかった。
「ありがとう、お前達。素直に嬉しいとお礼を言っておく……しかし、これで早々に君たちの目的は達成されてしまった訳で……」
「帰るつもりなんて無いよ!」
アンははっきりと、そう言い切った。
「我も同じ。元々、我はお前と共闘してから、いつか一緒に戦いたいと思っていた。だから我らは立場を捨ててでも、ここへやってきた!」
デルパも淀みなくそう言う。
……どうやらこの三人は本気で冒険者として生きてゆくつもりらしい。
「それで良いんだな?」
改めて問いかけると、三人は迷わず首肯をしてみせた。
「分かった。ならばもはや何も言うまい。もしも困ったときは、遠慮なく声をかけろ。助っ人冒険者として必ず手助けをしよう。正規ルートでの依頼としてだがな」
「ありがとう、ノワール……いや、ノルン」
「……これでノルンとの話は着いたって、ことで良いよなくそエルフ?」
急にアンがいつもの喧嘩腰になったような……?
「我、準備はできている」
なんだなんだ……?
背後のデルパから強い闘気のようなものを感じるのは……。
「元より私もそのつもりだ! ちんちくりんと食いしん坊め!」
シェスタは華麗に宙を舞い、俺から離れた。
どうしてこの娘はナイジェル・ギャレットを抜刀している!?
「ノルン! そこ退きな! アンタを巻き込むわけにはいかねぇんだ!」
アンも杖を構え、先端の宝玉へ魔力を集中させている。
こいつら……まさか!?
「ノワール……じゃなかった、ノルンは見つけた! ならば彼の嫁の座は我のもの!」
既に竜牙刀を形成し終えているデルパは一際強い、闘気をはなっていた。
「なにをいうか食いしん坊! ノルンのような素晴らしいお方には、私のような冷静沈着、頭脳明晰、美貌にすぐれた女性こそふさわしい!」
「汚部屋のメッキ姫が何言ってんだターコ! ノルンの愛してやまない妹さんは結構チッパイだ! なら僕のようなチッパイまな板娘が大好きなはずなんだよ!」
アンよ……レンは大事な妹だが、だからといって俺はチッパイ好きでは無いわけで。
むしろ俺はリディア様や、リゼさんのような巨乳……いかん! 今、考えるべきことは、こんなくだらないことではない!
「ノルンと添い遂げるのはこの私だ!」
「いんや! 永遠の相棒は僕に決まってる!」
「我こそ伴侶にふさわしい! ンガァァァァァァ!!」
「良い加減にしないかぁぁぁぁーっ!」
怒号と共に拳でレンガの床を打った。
同時に魔力を流し込み、俺を中心に睨み合っていた三人を吹き飛ばす。
突然、吹っ飛ばされたものだから、三人は唖然とした表情を浮かべている。
「全員集合!……しないと、もう二度と口をきかないぞ……?」
おっかなびっくり、敢えてそう言ってみた。
すると三人はものすごく慌てた様子で、こちらへ集まってくる。
まさか、ここまで上手くいってしまうとは……
「た、頼むノルン! それだけはぁ!!」
「ごめん、ほんとごめん!」
「がう……騒いで申し訳ない……」
根は良い連中なのだよな、こうして……
しかし皆、なんだかんだで今まで不自由のなかった"お嬢様育ち"だ。
だから今のように、我先にとわがままな行動に出てしまうのだろう。
「お前達三人がその……そうして慕ってくれているのは正直に嬉しいと言える。だが申し訳ないが、俺が君たちへそうした感情を抱けているかと言えば否だ。なにせ一度共闘や旅をしたとはいえ、それでも君達に関して俺はまだまだ知らないことが多すぎるからだ」
三人はシュンとした様子で、静かに話を聞いてくれていた。
凄く申し訳ないことをしている自覚はある。
だが、言うべきことはきちんと言うべきだ。
リディア様だったらきっと、同じことをしていたはずだ。
「だが……なんだ、その……嫁だ、伴侶だ、パートナーだということは置いていて、俺は君たちと仲良くやって行きたいという気持ちはある……同業者として、背中を預け合う仲間として、これからもよろしく頼むとお願いしたいが……どうだ……?」
「まった……やっぱり貴方は本物の黒の勇者ノワールだと納得しましたよ」
シェスタはそう言って苦笑いのようなものを浮かべた。
「確かになぁ……男ってこういう状況になったら上手く利用してやろうとか思うはずなのになぁ……」
アンよ、それは世の中の男性に対して少々失礼な発言だと思うぞ……
「がうぅ……我、ノルンの考えに賛同する。我の1番の願いは、これからもノルンと共にあること。それだけ……お前達はどうか?」
デルパは他の二人へ目配せをした。
すると二人は、頷いてみせる。
「ノルン。貴方の気持ちはよく分かった。その上で、これからも共にあることをお願いできれば嬉しい」
「理解をしてくれてありがとう……」
「じゃあさ、今日の記念ってことで、ノルンが僕らのパーティー名を決めてよ!」
突然のアンからの無茶振り発言だった。
他の二人も期待の眼差しを送り始めている。
こういった行為は非常に苦手なのだが……しかし、突き放してしまった手前もあるわけで……
「……三姫士《さんきし》というのはどうだろうか……? 三人の姫君のように美しい戦士達という意味だが……」
まずい……三人が顔を真っ赤にしている……やはり、直球すぎるネーミングだからだろうか……
「私は三姫士で賛成だ。アンとデルパはどうだ?」
「ああ、ちきしょう! また一番槍取られた! でも、僕も賛成!」
「ノルンが我らのために与えてくれたもの。大事にする……!」
どうやら納得? してくれたらしい。
これで一安心だろう。
「よし、今夜はこれにて終了! 各自、宴会を思う存分楽しむように! あと……俺が黒の勇者ノワールだったことは、ここだけの秘密としておいてほしい。良いな!?」
「「「はいっ!!!」」」
「では、俺はこれで!」
俺はエダマメとビールを手に持ち、移動を開始する。
むぅ……ビールはすっかり温くなり、白い泡が綺麗さっぱりなくなってしまっている……
●●●
「なぁなぁ、三人の美しい姫だってよ! これってもしや……?」
「ちんちくりんの癖によく分かっているじゃないか。私もそう思う」
「ノルンは我らを良い女だとは思ってくれている。これ絶対チャンスある!」
「だな。しかし、今回のように争うと、余計に嫌われてしまう可能性がある。よってしばらくは大人しく活動をするとしよう」
「仕方ねぇなぁ、くそエルフの考えにのってやんよ。でも、抜け駆けすんなのてめぇら! 分かったな!」
「がうっ! 我ら三姫士《さんきし》! いつかノルンの嫁になるために頑張るっ!」
●●●
……正直なところ、三姫士に抱きつかれた時、邪な感情が沸き起こった。
これは生物として正常な反応なのだろう。
だからこそ、勇者は性欲を嫌悪するようになる。
そうした感情に流されないために……全くもって、勇者の祝福は戦士にとっては、戦うことだけに集中できる、便利なシステムだと感じる。
しかし、今回はそのシステムなしで、なんとか乗り越えることができた。
なぜならば……
「お、お疲れ様だ……リゼさん……」
「あ! お疲れ様ですノルンさん! ようやくお酌も終わって、ゆっくりタイムですよぉ……」
ようやく仕事から解放されたリゼさんは、事務室で一人お酒を楽しんでいた。
ヨトンヘイム冒険者ギルドの職員であるリゼさん。
俺のこの世界へ引き込んでくれた恩人で……
「どうかしました?」
「い、一緒に飲んでも構わないだろうか……?」
「え? あ、あ、良いですよ! ど、どうぞこちらへ!」
リゼさんは何故か耳を真っ赤に染めて、ソファーの隣を叩く。
むぅ……俺は正面の席でも良かったのだが……彼女がそうしたいならば、いざ!
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