勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス

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メンバーの裏切り行為

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「なんだ……これは一体なんなのだ……!」

 宿屋で白の勇者ブランシュは、悔しさのあまり肩を震わせている。
原因は彼が今手にしている、ビラが原因であった。

"役立たずの勇者は不要! 勇者制度の改正を求む!"

 名前は伏せられている。
しかし、霊樹の森の消失とそれにともなくエポクの町の崩壊。
そして辛くも防衛には成功したものの、多大な犠牲を払ってしまった北の神殿の防衛線など、明らかにこれまでのブランシュの行いを記しているようである。

(まずいぞ、こんなものが父上や親族に知られては……!)

 早急に対処しなければならない。
だがそれ以上に、今のブランシュ一向にはしなければならないことがある。

「はぁ、はぁ……も、戻りましたぁ……!」

 ボロ戸の向こうからやってきたのは、魔法の杖を支えにして戻ってきたクラリスだった。
続いて同じく、かなり消耗をしているアリシアとラインハルトが続く。

 ブランシュが指先で机の上を叩く。
ラインハルトは慌てた様子で、机の上へ報奨金の入った皮袋を置くのだった。

「なんだ、たったこれだけか……貴様らはお遊戯にでもでかけていたのか!?」

「す、すんません殿下。今日はその、あまり良い依頼《クエスト》がなくて……」

 北の神殿の一件以降、白の勇者一行は財政難に陥っていた。
勇者としての旅よりも、今日明日の食い扶持を繋ぐことしか考えられない程にまで落ちぶれてしまっている。

 だがやはり、妙に稼ぎが少ない気がしてならない。
幾ら依頼が少ないとはいえ、彼らは黒の勇者ノワールに育てられた精鋭。
もっと良い依頼をこなせても良いような……

 ふと、アリシアとクラリスの二人がずっとこちらへ視線を寄せていないことに気がつく。

 ブランシュは徐に二人を見遣った。

「アリシア、クラリス。貴様ら、脱げ」

「えっ? い、今ですか……!?」

「で、殿下! いつものお戯れなら、後にいたしましょう! まずは水浴びを……」

「良いから脱げ! これは勇者の命令ぞ! この場で首を刎ねられたいか!!」

ーー勇者の権限の一つ。
勇者の言には絶対服従し、意義は申し立てらない。
もしも反した場合は国家反逆罪に相当する。

 さすがのアリシアとクラリスも観念したらしい。
二人は嫌々ながら、その場で衣服を脱ぎ始める。

「ラインハルト、この二人の体を改めよ。余は衣服を改める」

「ういっす! わりぃな。殿下のご命令だ。あと幾ら恥ずかしいからって、ゲロ吐くんじゃねぇぞクラリス」

「や、やめろよ、ラインハルト! そこは……あくっ!」

 ラインハルトは鼻の下を伸ばしつつ、ほとんど裸同然のアリシアとクラリスの身体を改めてゆく。

 その間にブランシュは脱ぎたての衣服を探り、そして見つけてしまった。
アリシアの隠し持っていた、希少金属で作られた細いネックレスを。
しかも一本ではなく、何本もだった。

「ちょ、だ、め……そこは……ライン、ハルト……お願いだからっ……!」

「なんだこれは……? 殿下、お宝見つけましたぜ!」

 ラインハルトがクラリスの胸の谷間から発見したのは、豆粒程度の大きさだが、それ一つでかなりの額となる青く光る魔法石であった。

「二人とも、これは一体なんなのだ?」

 ブランシュが冷たくそう言い放った。
アリシアとクラリスは霰もない格好のまま、慌てた様子で平伏して見せる。

「その石は、その……いざという時の貯金と言いますか……」

「ならば何故、余に報告せず、そのような破廉恥な場所へ隠していたのだ?」

「そ、それは……」

「で、殿下! お許しを! 私はこのゲロ女に無理やり誘われて、報奨金の一部をネックレスに変換しただけです! だからお許しを! どうか! どうか!」

 アリシアはブランシュの足に縋って、泣き出した。

「お、お前ふざけんな! 金をちょろまかして、贅沢しようってのはお前の魂胆だったじゃないか!」

「そ、そんなの言いがかりよ! ねぇ、殿下! 私の方を信じてくださいまし! ねえ、殿下!!」

「クラリス、貴様が主犯か?」

 ブランシュはぎろりとした目で、クラリスを睨みつけた。
 クラリスの顔色がより一層青ざめ、腹を抱え始める。

「やめて、殿下……そんな目で見ないで……」

「余の問いに答えぬか! この大馬鹿ものが!」

「やだ、そういう目は……私を虐めないで……ああ……ああああ! うっ……げぼぉぉぉぉーー……」

 部屋中がクラリスの吐瀉物の匂いに席巻されてゆく。
 ラインハルトは素早い動作で窓を開けるのだった。

「殿下! お許しを! 殿下ぁ!!」

 相変わらず、アリシアも必死にブランシュの下半身へ頬を擦り付け愛想を振りまいている。
が、もはやこの女に何をされようとも、全く反応を示さない。
ブランシュは軽く足をふり、アリシアを振り解いた。
そしてペタリと尻餅をついている彼女の膝の上へ、道具袋の中から取り出した粗末な麻の服を投げおく。

「着ろ淫乱女。出かけるぞ」

「え……?」

「早くせぬか!」

「は、はいぃ!!」

「ラインハルト! その不快な臭いを放つ小娘にも同じものを着せよ!」

「う、ういっす! ってぇ……おら、さっさと吐くの止めろよ。このクソゲロ女」


ーーなんとか、アリシアとクラリスの二人に麻の服を着せ、ブランシュは夜の街へと繰り出してゆく。

 そして街の奥深く、人の欲が詰まった一角へ辿り着く。

 妖艶な明かりのもとには、怪しげな風態の男が佇んでいる。

「いらっしゃいませ、殿下……いや、今は勇者殿でしたかな?」

「久しいな。今日は客として来たわけではない

 ブランシュがそう言い放つと、男は察した様に笑顔を浮かべる。
するとクラリスとアリシアは顔を引き攣らせた。

「こ、ここって……」

「殿下、まさか!?」

 ブランシュは驚くクラリスとアリシアへ歩み寄ってゆく。
そして二人の首元にぶら下がっている"勇者一行の証"をもぎ取った。

「貴様らはクビだ!」

「そ、そんな!」

「殿下!!」

「そして着服の罰を与える。ここで一生、人や魔物の慰み者となり、金銭面で余へ奉仕するのだ!」

 ブランシュは二人を突き放す。
すると怪しい男の服が膨張する。
そして湧き出た何本もの触手がクラリスとアリシアを拘束する。

「こ、こいつ魔物……ふぐっ!」

「お許しを殿下! これだけはお許し……んんーっ!!」

「よろしいのですな、殿下?」

「構わん。くれぐれも、厳しく頼む」

「かしこまりました、ケケ……! では前金といたしまして、こちらをどうぞお納めください」

 ブランシュは二人と引き換えに、金貨がたんまりと入った袋を受け取る。

「殿下、助けてぇ!!」

「お慈悲を殿下! どうかお慈悲をぉー!!」

そして必死にもがくクラリスとアリシアを一瞥もせず、背を向けて歩き出すのだった。

「だ、旦那! 今のって魔物じゃ……」

「魔物の中にも奴のように、人に害をなさぬ、むしろ共生を望むものもいる。これで当面資金で苦労することはないだろう」

「そ、そうっすか……」

「ラインハルト、貴様もよく肝へ銘じておけ。余は不正行為は一切許さん! 我らは誉高き勇者一向なのだから!」

「も、もちろんですよ! 俺はいつまでも殿下について行きます! ええ!」

「よし! では今夜は新たな我らの門出を祝って、盛大に飲み食いをするとしよう!」

「ういっす! お供しますぜ、旦那!」

 こうしてブランシュはラインハルトと伴って、夜の街へと繰り出してゆく。
しかし、この時まだ彼は気がついていなかった。
自分の自身の体へ大きな変化が訪れていたことに。

●●●

(まさかブランシュ殿下の変化は、ここまでだったとはな……こりゃ、こっちに付いて失敗しちまったか……)

 ラインハルトは先を行くブランシュの背中を見つつ、そう思った。

 これではまだ、ノワールの方がマシだった。

 彼は堅物に見えて、意外と話がわかるところがあったからだ。
 悪を憎む気持ちはあれど、慈悲の気持ちも持ち合わせていた

 今思えば、彼の寛大さにラインハルトも、クラリスも、アリシアもだいぶ助けられていた。
だから、彼は"勇者の祝福"を受けても、ここまで"悪"に対して、厳罰を下すことはなかった。

 勇者として、悪を憎み、悪を罰するのは当然のこと。
しかし、仲間であったアリシアとクラリスを、魔物へ売り渡すブランシュの行為は、幾ら罰と言ってもあまりにも厳しすぎる。

「どうしたラインハルトよ?」

「あ、いえ! 明日には早速新しいメンバーを探さなきゃなぁって思いまして」

「うむ! 心機一転、新生白の勇者一行を結成しようではないか!」

「いいっすね、それ!」

「やはりラインハルト、貴様は良いやつだ! そうだ! 次の余のパーティーは女人禁制としよう! いいぞ、これは! くふふ……」

 タイミングをみて、トンズラしよう。
善悪、義理人情よりも、損得で動くラインハルトという男は、そう考えるのだった。
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