8 / 34
毒袋の摘出と魔法使いのティナ
しおりを挟む「よぉーし、今日も探索頑張るぞぉ! 銀翼の騎士団ファイトぉー!」
「「「おーっ!!」」」
ふむ、俺も掛け声には参加すべきか……と、思って近づくと、銀翼の騎士団は俺など目もくれず、古代の岩場へ踏み込んでゆく。
とりあえず、随行は許可されたが、彼らに取ってはあくまで"とりあえず"なのだろう。
少し寂しい気はするが仕方がない。俺は仕事と割り切って、古代の遺跡へ踏み込んでゆく。
『銀翼の騎士団の皆さんをよろしくお願いしますね。無事に帰ってきたら、ご褒美を差し上げます!』
銀翼の騎士団との喧嘩を仲裁してくれたリゼさんは、そう言ってくれた。
あの人からのご褒美か。何をくれるのだろうか。とても楽しみだ。
ならば、寂しさなど何するものぞ! 立派に役目を果たして見せよう!
「むっーー?」
その時、鬼指導者リディア様に散々鍛えられた勘が、俺へ"魔物"の到来を告げてくる。
銀翼の騎士団は……まだ気づいていないのか。
ならば……
『あとあくまでノルンさんは"助っ人冒険者"なので、その時に加わっているリーダーの指示には従ってくださいね。出過ぎた真似は厳禁です。一応、彼らにもプライドがあるんで……まぁ、私としてはくだらないプライドだなぁとは思っているんですけど、それがクレームになって、不要な残業が云々……』
そうリゼさんから"厳命"を受けているので仕方がない。
しかし明らかに魔物が近づいているのにも関わらず、のんびり構えているのもモヤモヤするな。
そこで俺は石を拾った。
よぉーく狙いを定めて……そこだっ!
『kyuiii~!』
木々の間から悲鳴が聞こえた。
そして毒々しい紫色の羽毛に包まれた、ベノムフラミンゴが木々を薙ぎ倒しながら姿を表す。
よし、これでモヤっとは解消!
「さぁ出たぞ! アルブス、指示を!」
「行くぞ、ティナ、ロック、ガッツ! 銀翼の騎士団!」
「「「ファイトぉー!!!」」」
銀翼の騎士団の4人は、相変わらず俺を無視して、ベノムフラミンゴとの戦闘を始めた。
むぅ……やはり俺は仲間はずれか……勝手に動くとリゼさんに迷惑をかけることになるので、ここは大人しく見ているとしよう。
…………意外に手際が悪いな?
皆でまとまって行動するよりも、ロックとガッツをしっかり防御へ回し、牽制はアルブスが行って、その間にティナが魔力を貯めるのが良い気がするのだが。
モヤモヤして仕方がなかった。こんな手際だったら、リディア様はきっと大変お怒りになったことだろう。
軽くておしりぺんぺん……最悪の場合は一日リディア様の"お椅子の刑"だ。
まずい……昔のことを考え出したら余計にモヤモヤし始めた……。
「ふぃー……まずは1匹目っと。みんな、お疲れさん!」
どうやら銀翼の騎士団は、ようやく1匹目のベノムフラミンゴを討伐したらしい。
俺からすれば明らかに"遅すぎる"
「おい、ボォーッと突っ立ってないで解体ぐらい手伝えよ! 気が利かねぇ助っ人冒険者だな!」
「や、止めなよアル君! あの人、すっごい目つきでこっち睨んでるよ……」
別に睨んだ訳ではないのだが……とはいえ、ようやくリーダーのアルブスから命が降った。
俺は足取り軽くベノムフラミンゴの遺体へかけてゆく。
ふむ、この個体は優良種か。
ならば久々にアレが獲得できるかもしれない。
さっきのモヤモヤを解消するため、解体速度の記録更新に挑んでみるか。
「ちょ、ちょっと! お兄さん、どこ切ってんの!? 危ないよ!」
気持ちよく解体を進めていた俺へ声をかけてきたのは魔法使いのティナだった。
「毒袋を獲得しようと思ってな」
「ど、毒袋を!? ベノムフラミンゴの!?」
ベノムフラミンゴの毒袋は喉の下方にある。
これを取り出すにはまず毒管を切除しなければならない。
しかしこの毒管には奴が吐き出す猛毒で満たされているので、適当に切ってしまうとそれに触れることとなる。
だから安全性を考慮して、ベノムフラミンゴの毒袋の切除は基本的に禁じられている。
「せっかくの機会だ。ベノムフラミンゴの毒袋の取り出し方を教えよう」
「だからぁ!!」
「案ずるな。何度も経験がある。よく見てろ。毒袋はお前たちにとっても良い資金源になるだろ?」
「そりゃ、まぁ……」
俺は解体用ナイフを握りなおした。
そして毒管の脇にある細い筋へナイフを通した。
すると、そこから"プシュー"という音を伴って、空気だけが抜けて行き、パンパンに膨らんでいた毒袋がしぼみ始めた。
「ベノムフラミンゴの毒液はコイツが吸い込んだ空気によって行なわれる。だから、先に空気を抜いて仕舞えば、毒管から毒袋へ毒液が下がって行き、飛び散ることはない」
「そうなんだ。知らなかった……」
「それでも危険性がない訳ではないからな!」
すっかり萎んだ毒管へ刃を過らせ切除した。
丁度、逆止弁の上から切除できたようで、毒液は一滴もこぼれ落ちてこない。
「ここに逆止弁がある。大体俺の指で2本。ティナなら3本程度を添えて切ると、うまく逆止弁の上を切ることができる」
「ふむふむ」
先ほどまで訝しげだったティナは一転、興味深そうにメモを取り出していた。
この娘は意外と素直なようだ。
「質問!」
「なんだ?」
「ぶっちゃけこのまんま道具袋へ入れるの嫌なんですけど……臭そうだし……」
確かに切除したての毒袋は、そのままでは腐敗してしまう。
それに毒液が溢れ出るリスクもあるので、気持ちはよく分かる。
「そこでこうするんだ……氷結《フリーズ》!」
摘出した毒袋へ氷属性魔法を施し、凍結させた。
「なるほど! 確かにそうすれば、毒液がこぼれる心配も、腐敗のリスクも防げるってことですね!」
「その通りだ。理解が早く、その頭の回転の速さは素晴らしいと思う」
「そ、そうですか? えへへ!」
「ティナ! なにやってんだよ! こっち手伝えよ!」
ティナの後ろでアルブスが叫ぶ。
特に彼女が手伝うようなことはないような気がするが。
「ごめんね、お兄さん。またあとで色々と教えてね!」
ティナはそういうと、アルブスのところへ駆けてゆく。
彼女とはうまくやれそうだ。さすがの俺でも、仲間はずれにされ続けるのは少し寂しいからな。
ーーそれから銀翼の騎士団は調子良く、ベノムフラミンゴの討伐を続けてゆく。
相変わらずアルブスの指示が悪く、時間は非常に遅く、しかも仲間はずれなのでモヤモヤするが……
「さぁて、毒袋の回収を……」
「お兄さん! 今度は私にやらせてください!」
ナイフを持ったティナが駆け寄って来た。
俺は彼女の場所を開けるために、横へ動く。
「よし、やってみろ」
「はーい。ご指導、よろしくお願いします!」
ティナは俺の指示を受けながら、慎重に毒袋の摘出を行ってゆく。
すごく手際が良いように思った。
「上手いな」
「実は実家が猟師でして。村にいた頃はこうして解体のお手伝いをしていたんです」
「なるほど……ッ!?」
俺は咄嗟にティナの前へ皮の籠手を装備した腕をかざす。
毒液が噴出し、皮の籠手に降りかかる。皮が蒸気をあげて、焼け爛れ始めた。
どうやらティナは切り方を誤ってしまったらしい。
「あ、ありがとうございます」
「君の美しい顔が台無しにならなくてよかったと思っている」
「なっーー!!」
どうしてティナは顔を真っ赤に染めているのだ?
「お、お兄さん、堅物に見えて、結構冗談とか言うんだね……」
「冗談? 素直に君は美しいと思っているが? いや……可愛いの方が正しいだろうか?」
「も、もう! そういうことポンポン言わないでよぉ! ハズいってぇ!!」
どうしてティナはポカポカ俺の肩を叩いてくるんだ?
よくわからん……とはいえ、ティナとは打ち解けられたようだ。
「改めて伝えるが、いくら狩猟経験が豊富といえど、油断をするな。毒袋の摘出の時は特にな」
「助言、ありがとうございます。あと、ついでになっちゃうんだけど……ここまで色々ごめんなさい」
「何の謝罪だ?」
「私たち、アル君……リーダーのアルブスに言われて、敢えてお兄さんとの距離を置いていたんですよ。なんか、あのバカ、お兄さんのことが気に入らないみたいで……」
ティナは申し訳なさそうにそういった。
「だからティナ! お前さっきから何やってんだよ!」
と、噂のアルブス君の登場か。
随分怒っている様子だな。これは……
「良いじゃん、もう別に! 無視するなんてやることガキすぎるよ!? ノルンさん、すっごい人だから色々教わった方が良いよぉ!」
「ティナ、てめぇ……!」
「アル君は昔っからそう! 自分が一番じゃないと気が済まなくて、誰の教えも乞おうとしない! そんなんだから今でもB +ランクのまんまなんだよ!?」
「お前なぁ!」
「待て。すまなかった。出過ぎた真似をした」
俺は2人の間に割って入り、謝罪を述べる。
アルブスはフンと鼻を鳴らし、ティナの方はひどく狼狽えている。
「お、お兄さん……」
「ただティナは真剣に学びたいという意志を示してくれている。その気持ちは彼女の将来を考えて、汲んでいただけるとありがたい」
「……勝手にしろ!」
アルブスはそう捨て台詞を吐いて、離れてゆく。
「すまないが、フォローをよろしく頼む」
俺はティナの背中を押してやる。
「ごめんね、お兄さん。また後でね!」
彼女はペコリと一礼をすると、アルブスのところへ駆けてゆく。
きっとアルブスとティナは小さな頃からの仲良しさんなのだろう。
分かるぞアルブス、お前の気持ちが。
俺もリディア様が、戦災孤児だったレンを拾ってきた時は、あの子にあのお方を捕られてしまうのではないかと戦々恐々としたものだ。
しかしティナには色々と教えてあげたい気持ちもある。
さてこれからどうしたものか……
「ーーッ!!」
突然、肌の上をビリビリとした感覚が走った。
この圧倒的な気配は、まさか!?
「ひやぁぁぁ!!」
悲鳴が聞こえ、そちらへ視線を飛ばす。
尻餅を付いているアルブスと、呆然と立ち尽くしているティナを、黒い大きなが影が覆っている。
黒く毒々しい鱗、丸太のように太い脚に、突き出た凶暴そうな大顎。
この黒色のティガザウルスこそ、リゼさんから伺った"デスドラゴン"に間違いない!
38
お気に入りに追加
1,226
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる