7 / 34
助っ人冒険者ノルンvs生意気上位パーティーのロック&ガンツ
しおりを挟む「おはようございますノルンさん!」
「おはよう」
「今日から初日です! がんばりましょう!」
「ああ」
今日から俺はヨトンヘイム冒険者ギルド所属の"助っ人冒険者"としての生活をスタートさせる。
正直、何から始めたらよいかよくわかってはいない。
しかし契約した以上、がむしゃらに一生懸命に働くだけだ。
ご覧くださいリディア様、俺の新しい人生を!
「本日ノルンさんに請け負っていただきたいのはこちらです」
「ふむ……ベノムフラミンゴの討伐支援と……」
ベノムフラミンゴは主に中級者向けの危険度Cクラスの魔物だ。
飛ぶことはできない大型恐鳥類の一種で、動きが素早く、口から吐き出す毒液が厄介な相手だ。
「参加パーティーは銀翼騎士団になります」
「ふむ、ここでも上位クラスのパーティーだな?」
「はい! しっかり勉強してくださってありがとうございます!」
リゼさんに褒められ、割と嬉しい俺だった。
優しそうだがどこか芯のある声で、さらに胸が大きな女性に褒められるとまるでリディア様を思い出す。
「しかし、彼らはこのギルでも1位、2位を争うパーティーのはずだ。ベノムフラミンゴ程度で俺の支援がいるのか?」
「……実はノルンさんに警戒していただきたいのは、こっちの方なんです」
リゼさんは周りにわからないように、俺へ魔物の手配書を見せてくる。
「デスドラゴン……なんだこいつは?」
おそらく地龍と大地の覇者を二分する恐竜に属する個体なのだろう。
さしずめ、体表が黒く染まったティガザウルスの亜種といったところか。
「ティガザウルスとよく似ていますけど、危険度は段違いです。先日、村が一つこの魔物に滅ぼされたとか……」
「だから死竜(デスドラゴン)か」
「はい。マスターの命令で"古代の岩場"へ行くパーティーにはこの騒動が落ち着くまで最低5名以上のパーティーにするか、足りない場合は必ず助っ人冒険者を付けるよう通達しているんです」
「なるほど。ならば、俺は参加という体で、デスドラゴンから銀翼騎士団を守れば良いんだな?」
「はい。ただ一つ問題が……」
リゼさんはデスドラゴンの時以上に、言いにくそうな顔をした。
「"銀翼の騎士団"の方々は助っ人冒険者の参加が不要っておっしゃってるんです。今回の施作は冒険者ギルドマスター委員会での決定事項ですし、あの人達、受注最低人数を満たしていないのに"自分達は強いからなんとかしろ"の一点張りで……」
銀翼の騎士団は自分たちの実力に相当な自信があるのだろう。
その気持ちはなんとなくわかる。
俺もリディア様から、初めて1本を取れた日には自分が"最強"と思い込んだものだ。
……翌日、あっさりとコテンパンに叩きのめされ、散々泣かされたのだが……
「わかった。なんとか説得をして参加するとしよう」
「あ、ありがとうございます! いきなり厄介なお仕事を振っちゃってごめんなさい……」
「いや、構わん。それでは」
リゼさんに見送られ、ホールへ踏み出す。
そしてすぐさま、お揃いの白銀の装備をした目立つ男女のパーティーを発見する。
「君達が噂の"銀翼の騎士団"だな?」
「あんたは?」
……確か、彼は銀翼の騎士団の頭目【アルブス】
剣士職でランクはB +。
他に男性戦士2名、女性魔法使い1名で、それぞれBランク。
やや攻撃に偏った陣容ではあるが、悪くはない。
ベノムフラミンゴの討伐ならば、楽勝であろう。
「ギルドより君たちへ随行するよう依頼を受けた助っ人冒険者のノルンだ。よろしく頼む」
……誰も挨拶を返してきてはくれない。
最も予想通りではあったが。
「だから、俺らに助っ人冒険者なんていらないっての! そうだよな、みんな!」
リーダーのアルブスのいうことにメンバーは一斉に頷く。
そして俺へ、訝しげな視線が寄せられた。
「だいたいあんた、助っ人冒険者なんてできるのかい? そんな初期装備でさ」
現在、俺はヨトンヘイムギルドから支給された、革《レザー》装備一式で身を固めている。
本当はもう少し上等な装備で固めたいのだが、グスタフが"周りと合わせてくれ!"と頼まれ、今に至っている。
「問題ない」
俺はキッパリとそう言い放つ。
するとアルブスたちは失笑を上げるのだった。
全く、いきなり人のことを笑いものにするだなんて失礼な連中だ。
リディア様ならきっと、おしりぺんぺんの刑に処していた筈だ。
「まぁ、いいや。じゃあ、あんたがその装備でコイツに勝てたたら話ぐらいきいてやんよ」
アルブスはそういうと、鋼の重厚な鎧を装備した2人の戦士が前に出る。
ふむ……アロンダイト装備一式か。彼らは実力の分、相当儲けているのだろう。
「表へ出な」
「鋼の兄弟愛で結ばれた俺達!」
「「ロック&ガンツがお前を捻り潰す!」」
どうやら、この2人の戦士はとても仲の良い兄弟らしい。
兄弟の仲が良いのはとても好ましいことだ。
俺にも冒険者をしている妹がいるから、彼らの気持ちがよくわかる。
そういえば【レン】は俺が勇者をクビになったことを知っているのだろうか……ちゃんとご飯は食べているだろうか……あったかいところで眠れているだろうか……変な男に引っかかっては……いないか、レンのことだし……
所在がわかれば文の一つでも出せるが、あの子はいつも元気よく大陸中を飛びわまっている。
どうしたものか……
と、そんなことを考えながら歩いていると、俺はいつに間にか集会場に併設されている訓練場の広場に達していた。
いつの間にやら周囲にギャラリーが集まっている。
あまり大勢に見られていると恥ずかしいのだが……
「おい、なにやってんだよ?」
音もなく現れ、俺の肩を肩を叩いてきたのは、ヨトンヘイム冒険者ギルドのマスターで、友人のグスタフ。
「お前の作った制度に従って、彼らへ声をかけたところ喧嘩を申し込まれた。俺が勝てば、素直に随行を認めるらしい」
「あのなぁお前……」
「やはり出しゃばりすぎたか……」
「やり過ぎんないよ?」
グスタフはそう耳打ちをしてくる。
「承知している。武器を使うつもりはない」
俺が構えを取ると目の前のロック&ガンツ兄弟が失笑を上げた。
ギャラリーもざわつき始める。
「にいちゃん、みろよアイツ! 俺らと素手でやり合うつもりらしいぜ!」
「舐めやがって……おい、【ティナ】! さっさと開始の合図をしろ!」
兄のロックがそう叫ぶと、銀翼の騎士団での紅一点である女魔法使いが俺たちの間に立った。
銀色の髪を左右で2本に結った、割と可愛らしい娘だ。歳はレンと同じぐらいだろうか?
「じゃ、じゃあ、始めるよ! レディ…ゴォー!」」
「「ぬおおぉぉぉーー!!」」
ロック&ガンツ兄弟が、スパイク付きの肩アーマーを突き出しながら、突進を仕掛けてくる。
覇気も良し、戦士らしいパワーと良いスピードだ。
悪くはない。しかし!
「「ーーッ!!??」」
ロック&ガンツ兄弟が砂塵を巻き上げながら急制動をする。
目の前から突然、俺の姿を消したからだ。
俺は衝突の寸前、スパイクを掴んでその反動で飛び上がる。
そして戦士兄弟の背後を取った。
「ふんっ!」
「「アガッーー!!??」」
魔力を溜めた両腕を突き出し、戦士兄弟の背中へ叩きつけた。
俺が体躯で勝る戦士兄弟をあっさり突き飛ばしことに、ギャラリーはどよめきをあげている。
「くそっ、舐めやがっーーッ!?」
「に、にいちゃん! 体うごかねぇよ! 俺の身体、どうかしちゃったの!?」
「案ずるな。お前達の魔力経路を一時的に麻痺させただけだ」
「「なぁーにぃー!?」」
「そのうち動けるようにはなる。今後の冒険者活動にも支障はない……多分。これぞ、我が師より賜った秘技! 経路麻痺拳(パラライズスマッシュ)っ!」
俺の宣言に、周囲の一同は相変わらず唖然としていた。
一撃必殺をしたのだから、拍手の一つも欲しいところなのだが……いや、まさかこれではまだ足りないと!?
俺は急いで号令役をしていた銀翼の騎士団所属の女魔法使いティナへ向けて構えを取る。
「次鋒は貴様か!?」
「うえっ!? わ、私!?」
「女性だからと言って手加減はせんぞ! これは真剣勝負だ!」
「ちょ、ちょっと! 誰かこのお兄さんとめてぇー!!」
「はいはいはーい! そこまでですっ!」
俺とティナの間へ割って入ってきたのは、リゼさんだった。
30
お気に入りに追加
1,226
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる