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助っ人冒険者"ノルン"としての新たな人生
しおりを挟む……とりあえず、詳しい話は別の場所で聞こう。
せっかくのミーちゃんオムライスが冷めてしまう。
俺がそう告げると、リゼさんは食べ終わるまで大人しく待ってくれた。
「ここプリンも美味しいんですよ! 名付けて"トロリ美味しいミーちゃんプリン"!」
「なんと!? ミーちゃんプリンとな!」
「奢っちゃいます! オムライス分もギルドの経費にしますので領収書もらってください!」
ここまでしてもらって"助っ人冒険者"とやらの話を聞かないわけには行かない。
そういう訳で、俺はリゼさんに連れられてヨトンヘイム冒険者ギルドの集会場を訪れる。
相変わらず賑わっているな、ここは。
そしていつものように"アイツ"は、ホール中を歩き回って、色々な冒険者たちとの交流を図っている。
「マスター! 良さげな助っ人さんをスカウトしてきましたぁー!」
「ん……てぇ!?」
俺の姿を見るなり、ヨトンヘイム冒険者ギルドのマスターである【グスタフ】は、急いでこちらへ駆け寄ってくる。
そして俺をリゼさんから引き剥がし、物陰へ連れ込んだ。
「お、お前こんなとこで何してんだよ!?」
「リゼさんに来てほしいと頼まれた」
「はぁ!? お前、勇者の旅はどうしたんだよ!?」
ちなみにグスタフは俺が"勇者"であることを知っている。
そして俺の数少ない気の置けない無二の友人でもある。
「クビになった」
「ク、クビ? 勇者ってクビになるもんなのか……?」
「そうらしい。俺も初めて知った。ちなみに後任はブランシュ殿下だ。近く、何かしらの方法で国中に知れ渡ることだろう」
「なんだよそれ……お前、それで良いのかよ!?」
「良いも何も、証と聖剣を失っているのだ。どうにもならん……」
グスタフは明らかに不満そうな表情をした。
彼は誰よりも俺の実力を認めてくれていたし、彼のそういう気持ちは俺が一番よく理解している。
「マスターと貴方ってお知り合いだったんですか?」
「「!!??」」
俺たちの間へひょっこりリゼさんが割って入ってくる。
「念のために聞いておくけど、リゼさんは?」
「おそらく理解はしていない。俺の正体を」
グスタフは俺が"勇者"だったということを気にしているのだろう。
確かにこんなところに勇者がいれば大騒ぎになる。
もっとも、勇者時代の俺は常に全身甲冑《フルプレートアーマー》を頭から装備していたから、俺の素顔を知っている人間は非常に限られるがな。
「まぁ、コイツとは古い付き合いでさ、あはは!」
「そうなんですね! じゃあこれは必然的な運命なんですね! では早速あちらでお話をしましょう!」
「う、むぅ……」
リゼさんはさっさと1人で歩いてゆき、それに続いてゆく。
ついでにギルドマスターであるグスタフも。
そうして俺は、受付カウンターの向こう側にある、応接室へ通された。
「ではマスター、助っ人冒険者に関してご案内を!」
「お、俺が?」
「だって私のような下っ端よりも、制度そのものを作ったマスターからの説明が一番わかりやすいと思いますけど?」
「そりゃそうか」
「ですです。私、資料持ってくるんで、サクッと始めててくださいね!」
「了解した!」
なんとなく普段からのリゼさんとグスタフの力関係がわかった気がした瞬間だった。
グスタフはイケメンでモテるくせに、リゼさんのようなハキハキした女性弱いからな。
【助っ人冒険者】ーーこれは近年、グスタフを中心にヨトンヘイム冒険者ギルドが設けた新たなサービスだった。
ようは、既存のパーティーへ、文字通り助っ人として参加をする制度のようだ
「メンバー足らずで受注が受けられないパーティーへの補填メンバーとして加わることが多いな」
「ふむ」
「あと、受注状況を見て、危うそうなパーティーへギルド側から斡旋して随行してもらうこともある。最近、無茶をして死傷者が多いんだよ」
「なるほど」
「更にたまにだけど、ギルド主催のイベントなんかにも参加をしてもらう」
「イベント?」
「お祭りとかです! 昨年は皆さんに、子供剣術道場で指南役をお願いしたり、屋台の運営をお願いしたりしてました!」
リゼさんはいつの間にか、昨年の収穫祭の資料を用意していて、俺へ見せてくれた。
なんだかとても楽しそうに見えた。
昨年の屋台はクラウドシュガー、アップルキャンディに、ソースフライヌードルと……どれも美味そうだった。
ワクワクした。
そういえば生前のリディア様も麓の村で、積極的にこういうイベントには参加していたな……。
リディア様とリゼさんのお胸のような丸いアップルキャンディ……うむ、腹が減ってきた! 祭の際はアップルキャンディの屋台を担当するとしよう!
「報酬は月々一定額で支払うし、受注と成功件数に応じて追加金を支払う。助っ人で使ったり、購入したアイテムは経費としてギルドへ申請してもらっても構わない。更に住まいは、集会場に併設されている寄宿舎として提供する」
「……つまりはヨトンヘイム冒険者ギルドの私兵ということだな?」
「まぁ、平たく言えばそんな感じだ」
制度自体は理解できた。内容も魅力的に感じる。
しかしそもそもの疑問がある。
「リゼさん、何故俺をスカウトした? ご覧の通り、俺は流れ者でどこの馬の骨ともわからん人物だぞ?」
俺は余さず疑問を口にする。
「貴方がとてもお強い、良い方だと思ったからです」
答えたのはリゼさんだった。
「幼地竜との戦いや、私をここまで連れ帰ってくれた時に思ったんです。強くて、いい人だなぁって。で、さっきの壁外でのオークとの戦闘を見て確信しました。貴方のように自己利益よりも、公共のために尽くせる方こそ、私たちが求めている"助っ人冒険者"に相応しいと!」
「実はさっき衛兵団から直々に依頼があったんだ。さっき助けてくれた"黒衣の冒険者"を探してほしいってね」
グスタフはできたてホヤホヤの依頼書を見せてきた。
なんとなく、お尋ね者になったような気がして、少々複雑な気分となった。
「説明は以上です! 是非是非、当ギルドの助って冒険者へのご登録をよろしくお願いします! ほら、マスターも頭を下げて!」
「お、おう……つーわけで宜しく! 友達のよしみってことで!」
リゼさんとグスタフは揃って頭を下げてくる。
……元々、俺がヨトンヘイムへ訪れたのは、グスタフへ今後の身の振りを相談するためだった。
リディア様と別れて山を降りてから、俺はずっと勇者として戦ってきた。
だから勇者以外の生き方を知らない。"祝福"の影響もあり、浮世離れしている自覚もある。
故に、何をしたら良いのか、俺には判断がつかない。
ならば、
「……良いだろう。その助っ人冒険者とやら、承る」
「ありがとうございます!」
この選択が正しいかどうかなんてわからない。
だけど少なくとも、近くには友人のグスタフが居てくれるし、悪い話ではないと思った。
なんとなしに、リゼさんも信用しても良いのだろう。
胸が大きな方はきっとリディア様のような素晴らしい女性に違いないからだ。
「ではさっそくこちらの書類へサインを!」
リゼさんは契約書と羽ペンを差し出してくる。
ふむ、規約内容にも問題はない。
ならば……と、ペンを握った途端、どうサインをしようかと思った。
まさか、勇者ノワールと書くわけに行かないし、どうしたものか……
『お前は今日から私の家族だ。もうなにも恐れる必要はない。私が守ってやる。だから安心するんだ"ノルン"……』
幼い日に母であり姉であり最愛の人だった師が掛けてくれた言葉が蘇った。
黒の勇者ノワール。
これはニルアガマ国が、勇者である俺へ与えた名だ。
しかし俺の本当の名は……
「ノルンさん……素敵なお名前ですね! これからよろしくお願いしますね、ノルンさん!」
俺のサインを見て、リゼさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
まるで俺が初めて魔法を使えた時リディア様が見せてくれた、笑顔と同じだと思った。
この笑顔に応えられるよう"助っ人冒険者"とやらを頑張ってみるとしよう。
ーーこうして俺のヨトンヘイムでの助っ人冒険者"ノルン"としての生活が始まったのだった。
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