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【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】

冒険者殲滅戦――<ラストバトル>【後編】

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 圧縮された紫の煙が、大砲のような轟音を伴いながら放たれる。
ロナの最終兵器――“猛毒弾” ちびロナの時に見せてもらったものよりも遥かに巨大な煙の弾がフォーミュラへ迫る。

「やらせるかぁぁぁ――!!」

 フォーミュラは身体から壮絶な輝き発する。
 取りついてマタンゴとベラが輝きの嵐に飲まれて突き飛ばされた。
ラフレシアの棘の鞭を一瞬で焼き切り、彼女さえも木の葉のように吹き飛ばされる。
更に輝きはロナの放った猛毒弾さえも、光属性の力によって燃やし、かき消した。

「そ、そんな……!」
「ひゅー、危なかったぁ。さすがに貰ってたら死んでたぜ。さぁて!」

 フォーミュラはサディスティックな笑みを浮かべてロナへ腕を翳す。
すかさずロナは蔓の盾を形作ろうとするも、フォーミュラが光弾を放つ方が早かった。

「きゃっ!!」
「ロナーっ!!」

 彼女の悲鳴とクルスの声が重なり、爆音でかき消される。
 煙の向こうでは、ぼんやりと力なく首を落とす、哀れなロナの姿が映った。

「く、クソッ……!」

 クルスは突っ伏したまま、無力な自分へ憤りを感じる。
これが勇者とEランクの圧倒的な差なのだろうか。

 大切な場所を、仲間を、愛する者さえも守れないのか。
 
 戦う意思はある。ロナや樹海を守りたいという決意は微塵も揺らいではいない。
しかしこれまでの連戦で、クルスの身体は悲鳴を上げ、起き上がることすら満足にできそうもない。

「ぐああああ――っ!!」

 そんなクルスの手を、フォーミュラは聖剣で突き刺してきた。
更にフォーミュラは顔に邪悪な笑みを浮かべつつ、クルスの頭を靴底で踏みつける。

「クルス、ここまでよくもまぁ好き勝手にやってくれたな。ええ? おい!」
「くっ……つぁ……!」
「おい、おっさん! 俺の名前を呼んでみろよ。“フォーミュラ様、助けてください。お願いします”て、命乞いしてみろよ! 俺は寛大な勇者だ。だからそうすりゃお前ぐらいは助けてやる。どうよ?」
「だ、誰が、そんなことを……こ、殺す! フォーミュラ、お前は必ず、俺の手で……!」
「なぁにぃ!? フォーミュラだとぉ!?」
「ぐああああ!!」

 フォーミュラは眉間にしわを寄せて思い切り、クルスの手から剣を抜く。
そして聖剣を高く掲げた。その顔は勇者とは思えない、邪悪な笑みを浮かべていた。

「ならまずはお前から殺す。次に俺をコケにしたビギナを殺す。魔物共はゆっくりバラバラに解体して、素材にしてカロッゾへ売り払ってやる!」
「ッ……!!」
「勇者であるこの俺を怒らせたことを後悔して死ねぇぇぇ!」

 無力のクルスへ輝く聖剣が振り落される。諦めを感じる暇は皆無。すると聖剣はクルスの頭を叩き割る直前で止まった。

「こ、これは……!?」

 驚愕するフォーミュラの声が聞こえ、クルスは咄嗟に顔を上げた。
 フォーミュラの腕は、青白い輝きを纏った魔法の帯で拘束されている。

 魔法の帯を放っていたのは、災厄の勇者の背後で勇ましく金の錫杖を掲げ、憤怒の表情を浮かべた、小さな体に大きな力を宿した彼女。

「ビギナ! てめぇ、なにしやがる!」

 魔法の帯で拘束されたフォーミュラはビギナへ怒りの視線を向けた。しかし、ビギナは小さな足で精一杯踏ん張り、フォーミュラを拘束し続けていた。

「先輩っ! 今です、お願いしますっ!!」
「こ、この女(あま)ぁ……!」
「フォーミュラ=シールエット! どんなに強い力が有ろうと、お前がどんなに名家出身であろうとも! お前のようなワガママで最低な人は勇者失格! いえ、人間失格です!!」

 ビギナの叫びは、諦めかけたクルスの胸へ再び闘志を宿らせる。
 クルスは最後の力を振り絞り、矢筒から矢を抜いた。

「うおぉぉぉっ!!」
「――ッ!? ぐああ――っ!!」

 渾身の力を込めて、手にした矢をフォーミュラのつま先を突き刺した。
矢はフォーミュラのつま先を貫通し、彼をその場へ釘づける。

「この、てめ……は、離せ! 離せぇぇぇ!!」

 どんなにフォーミュラに踏みつけられようと、たとえ無様に地面へ突っ伏したままだろうと、クルスは決して矢を手放そうとはしない。

「うぐっ、あ、脚がっ……!?」

 やがて、彼を蹴ったぐるフォーミュラの動きが鈍り始めた。
ようやくクルスの血に染みこませた“麻痺毒”が効果を示しだしたらしい。

「ロナッ! 殺(や)れっ!!」

 クルスの声が周囲に響き渡る。フォーミュラの背後、そこには既に傷を癒し、蔓からいつでも“猛毒弾”を発射できる体勢を取った、ロナの姿が。

「人の姿をした悪魔よ! お逝きなさいっ!!」

 猛毒が圧縮された煙の弾が、フォーミュラの背中へぶつかり、爆音と共に弾けた。
フォーミュラの顔から一気に血の気が引き、身体から力が抜けてゆく。

「っ……ああ……!」
「今度こそ終わりだフォーミュラ。最後は苦しみながら、地獄へ行け」

 起き上がったクルスは満身創痍のフォーミュラを、思い切り蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたフォーミュラはふらふらと膝をついた。

「かはっ! げほっ! ごほっ!! こ、これは……!?」

 フォーミュラは血反吐を吐きだした。髪が抜け落ち、肌が溶け出し、瞳が輝きを失ってゆく。
しかし彼の持つ最大の力“再生(リジェネレイト)”が発動し、傷を修復する。
その直後、ロナの猛毒は再びフォーミュラの身体を乱暴に食い荒らす。

「か、髪が! お、俺の、髪……! なんだ、これっ……げほっ!」

 死と再生の繰り返し。それは終わらぬ拷問の如く、フォーミュラを苛む。

 しかし共に猛毒弾を浴びたクルスは当然無事である。
“状態異常耐性”様々だった。

「こ、こんなところで、俺は……俺は勇者! 勇者なんだぞっ!」
「……」
「あ、ああ! かはっ! ごほっ! た、助けて……! オレを……!」
「……」
「謝ル! いママでの、こと、全部! ダから……!」
「……」
「お、お願イダ! 頼ム……! ホシイモノ、カネ、オンナ、メイよ、やる……! ダカラぁ……!」

 今さら命乞いをするフォーミュラへ、クルスは冷たい視線で睨んだ。

「勇者らしく潔く眠りに就け、フォーミュラ。最期くらいは見届けてやる」

 崩れたフォーミュラの顔が、絶望に染まった瞬間だった。

「イヤだ……こんナ……コンナ、サイゴ、ナンテ……!」
「……」
「オレハ、ユウシャ……オレハユウシャナンダ……オレハ……」
「……」
「……タスケテ クレェェェェ―――っ!」

 断末魔の叫びと共に、フォーミュラの身体の至る所から血が噴き出した。
彼はそのまま倒れ、自らの血の池に沈む。

 魔力が完全に底を尽き、再生ができなくなったフォーミュラはドロドロに溶け、もう二度と起き上がることは無かったのだった。


*あと2話で二章終了です。
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