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【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】

冒険者殲滅戦――<ラストバトル>【前編】

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「おっと……やっぱ、ちっとキツイかぁ……」

 "再生(リジェネレイト)"によって起き上がったばかりのフォーミュラは足元を僅かに震わせる。
 丁度、彼の足元にはクルスの麻痺毒を受けて、僅かに息のある弓使いのマリーが転がっていた。
そんな彼女をみて、フォーミュラはにやりと笑みを浮かべる。そして片手でマリーの無造作に頭を掴んで持ち上げた。

「フォ、フォーミュラ……?」
「いやぁ、さすがの俺も半殺し状態からの再生(リジェネレイト)だとちょーっと足りなくてさ……もうアンタ、明らかに戦力外だよね?」
「――ッ!?」
「ってわけで、アンタの命いただきまーす!」
「なっ!? ぐ……ああああ!!」

 フォーミュラを腕を伝って、掴み上げられたマリーから輝きが吸い取られてゆく。マリーは体を激しく痙攣させつつも、成されるがままだった。次第に切れ長の彼女の瞳から輝きが失せてゆく。

「マリーさんのことは忘れないよ。体の相性が良かっただけに、残念だけど……」
「お、おのれ、貴様……!」
「まぁ、俺のような最強の勇者の一部になれるから逆に幸せか! あはは!!」
「こ、こんなところで……申し訳ございません、トリア様、フラン様……! 後はよろしくお願いいたします。どうか我らの悲願をぉ……!!」

 マリーは訳の分からない言葉さけび、こと切れた。フォーミュラはマリーの死骸をゴミのように投げ捨てる。
瞬間、フォーミュラの身体から荘厳な輝きが発せられ、そして弾けた。
 圧倒的な気迫と、輝きが周囲の空気を熱する。

「おっし! 準備万端だ! 始めようぜ、化け物ども!」
「どっちが化け物よ。アンタ、仲間の命をなんだと思ってるの!?」

 ラフレシアの怒りの声を浴びても、フォーミュラ一切動た素振りを見せなかった。むしろ正義感に燃えるラフレシアをあざ笑っているかのように見える。

「その腐った性根を叩きなおしてやるわ! 行くわよマンタゴ!」
「承知しました!――カハッ!!」

 マタンゴはフォーミュラの脇へ素早く回り込み、青みかかった胞子の塊“沈黙胞子弾(サイレンスシュート)”を放つ。

「この数、撃ち落とせるかしら!」

 マタンゴの反対側に回ったラフレシアは袖を振り抜いて、数え切れないほどの刃の着いた種子を発射する。

「僕も手伝うのだ! どっせぇぇぇーい!! しゅこー!」

 ベラも力いっぱいバインドボイスを放った。

 三方向からの同時攻撃がフォーミュラへ迫る。しかし彼は余裕の表情で佇んだまま、身体から眩しいほどの輝きを発した。光属性の輝きは一瞬で、三方向からの攻撃を、まるで無かったかのように消し飛ばす。

「ちなみにッ本気モードの俺の“聖光壁(ホーリーウォール)”はさっきみたいに一回限りじゃないから気を付けてね! あとはこんなこともできるよ!」

 フォーミュラから再び輝きが迸り、そして爆ぜた。

「ぬっ!?」
「きゃっ!」
「なのだー!? しゅこー!」

 衝撃波はラフレシア達を枯葉のように吹き飛ばす

 生半可な攻撃では太刀打ちができないのは明白だった。これが勇者の実力と一瞬で思い知らされた。
 状態異常耐性と状態異常攻撃がある以外は、ただのEランク冒険者でしかないクルス。彼のみでは、戦列に加わったところで邪魔になるだけなのは本人が重々承知していた。

 だがここでフォーミュラを仕留めなければ、これまでの戦いがすべて水泡に帰す。

 ならば目には目を、歯には歯を。至高のSランク勇者へは、同程度の危険度とされる味方を――

「ロナ、少し話せるか?」

 クルスがそう呟くと、太い蔦が生えた。その先から、小さな体をしたアルラウネのロナが花開く。

「はい! なんでしゅか?」
「おそらく、今の俺たちが束になっても奴にはかなわん。君にお願いをしたいが頼めるか?」
「わかりました! 任しぇてくだしゃい! 代わりに彼を私のところまで連れてきてくだしゃい!」

 小さいながらもロナは頼もしい返事をしてくれた。そして道しるべである色鮮やかな花が、背後の木で開花する。

「よろしく頼む!」

 クルスはニタニタとした表情でラフレシアへにじり寄るフォーミュラへ迷わず矢を放った。
当然、間接攻撃である矢は、聖光壁で焼き尽くされるのだが、気を引くことはできた。

「そういやアンタもいたね。そんなに俺に相手してほしいのかい? 格下さんよぉっ!」

 フォーミュラは光輝く聖剣を適当に振った。すると輝きが衝撃波となって地面を疾駆する。

「――ッ!?」
「きゃっ!」

 クルスは後ろにいたビギナを突き飛ばし、自らも横へ飛んだ。
衝撃波は地面を抉りながら進み、幹の太い木を木端微塵にふっ飛ばす。

 圧倒的な力を見せつけられ、クルスは仮面の裏で冷や汗を浮かべる。
それでも勝利の可能性に掛けて、フォーミュラに背を向けて走り出した。

「ビギナ! ここは危険だ! 今度こそ逃げてくれ! 頼む!」
「先輩ッ!!」
「はは! 追い駆けっこか。良いぜ、付き合ってやるよ」

 フォーミュラは聖剣を引きずりながら、ぶらぶらとクルスを追って歩き出す。
その目は楽しみで狩りをする人間のソレの色をしていた。

「私たちも行くわよ!」
「はっ!」
「了解なのだ―! しゅこー!」

 ラフレシアと共に、マタンゴとベラもそれぞれ木々の中へ飛び込んで行く。

 そんな嵐のような状況を、ビギナは一人茫然と眺めていたのだった。


 クルスを追うフォーミュラは目の前に木が現れれば聖剣でなぎ倒し、大岩が現れれば光属性魔法を放って、粉砕して強引に道を開く。

 そんな圧倒的な勇者の力を、クルスは辛うじて回避しつつ、目印の花を追って森の中を駆け抜けてゆく。

 一発貰ってしまえばそこまで。背後から死が迫る緊張感の中、それでも“花”を目印に、樹海への奥へと進む。
やがて、“彼女”を感じさせる花の匂いをかぎ取った。遮二無二クルスはそこへ向けて体を飛び込ませる。

 刹那、背後からフォーミュラの放った黄金の衝撃波がクルスを狙う。
すると、地面を割って無数の蔓が生え、クルスの代わりに犠牲になるのだった。

「待っていましたよ、愚かな人間さん!」

 アルラウネのロナは、普段の様子からは決して想像できない、恐ろしい声音をフォーミュラへぶつけた。
威嚇のためか、既に地面からは無数の蔓が生え、炎のように揺らめいていた。

「アルラウネか。君がここの親玉(ボス)なのかな? 随分と綺麗で可愛いね!」

 対するフォーミュラはまるで町娘を口説くかのような軽口を叩いた。

「樹海を荒らし、我が同胞を傷つけた罪、その身をもって償ってもらいます!」

 ロナの一声と共に、無数の蔓が縦横無尽にフォーミュラ目掛けて駆けてゆく。
 フォーミュラは全身から光属性の荘厳な輝きを放つ。
目前に迫ったロナの蔓が一瞬で焼き尽くされた。しかし別の角度から、先端が鏃のように鋭い無数の蔓が迫る。

「ちっ!」

 フォーミュラは不愉快そうに舌打ちをし飛び上がった。地面を鋭く穿った蔓を聖剣で切り裂く。
そして足元に輝きを宿し、それを爆発させて、空高く上昇した。
 茜色の夕日を背景にフォーミュラは聖剣を高く掲げる。

「君のように可愛い子を殺すのは惜しいけどしょうがない! だって君は魔物だからねっ!」
「――ッ!!」

 フォーミュラの聖剣が太陽のような輝きを放ち、ロナは急いで蔓を編み始める。

「死に晒せぇ! ゴールデンスラッシュッ!」

 聖剣が振り落とされるのと同時に、三日月のような巨大な衝撃波がロナへ突き進む。
丁度、蔓を巨大な盾のように編み終えたロナは、衝撃波を辛うじて受け止めた。

「ほらほらどうした! ちゃんと防がないと焼け死ぬぜ!」
「くっ……んんっ!!」

 ロナは必死に盾で抑え込むも、蔓で編んだ盾は次第に焼け焦げ、ほどけて行く。代わりにフォーミュラの脇はがら空きだった。
 
 クルスは鏃を自分の血で赤く染めた矢を放つ。
 矢は当然、フォーミュラを覆う聖光壁によって、一瞬で灰に代わった。同時に蔓の盾を焦がしていた三日月型の衝撃波が砕けて消える。
 どうやら高い攻撃力と防御力は同時に発せられないらしい。

「邪魔すんじゃねぇ! 雑魚はは引っ込んでな!」
「っ!?」

 フォーミュラの怒りの叫びと同時に、クルスへ向けて光弾が降り注ぐ。
あまりに大きく、あまりに眩しい光属性の力は逃げる暇を与えてはくれない。
落下した光弾がクルスの目の前で弾ける。

 狙いが僅かに逸れたために、直撃は免れた。しかし、膨大な熱量と衝撃はクルスを紙人形のように吹き飛ばす。
地面へ激突し、その衝撃で身体が痺れて起き上がれそうもない。

 そんなクルスを見て、ロナは怒りに満ちた視線をフォーミュラへ向けた。

「許しません……貴方だけは絶対に! 死んで頂きますっ!!」

 ロナは先ほどの倍以上の蔓を地中から呼び起こし、フォーミュラへ差し向けた。
 最初こそは聖光壁で、蔓は灰となった。しかし鉄壁の防御は無限の力では無い。次第に輝きが弱まり出す。

「糞っ……ウザいな!」

さすがのフォーミュラも表情を強張らせて、聖剣での物理攻撃で対処を始めた。しかし対処で精一杯なのか、余裕の表情は消えている。

「なっ!?」

 突然フォーミュラの腕を、棘の鞭が絡め取った。

「今よ!」

 鞭を持ったラフレシアが叫ぶと、茂みからマタンゴとベラが飛び出してフォーミュラへ飛びつく。
 フォーミュラは三人の魔物に取りつかれ、身動きが取れないでいる。

「ロナ! 早くっ!」
「ありがとうございます、ラフレシアさん!」

 ロナの左右に彼女と同じくらいの大きさの蔓が生えた。先端がすぐさまふくらみ、すぼんだ先から紫の煙が僅かに漏れ出ている。

「お逝きなさいっ!!」
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