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【二章:樹海の守護者と襲来する勇者パーティー】
冒険者殲滅戦――<仕置き4 魔法剣士>
しおりを挟む「お嬢様、ご無事ですか!? ああ、お痛わしや!」
「だ、大丈夫よマタンゴ、この程度……!」
ボロボロにやられていたラフレシアは樹木の間から飛び出してきたマタンゴに抱き起される。
「さぁ、クルス! 一気にやっつけるのだぁ! しゅこー!」
「ああ!」
ベラは双剣を構え、クルスは弓を握り直す。
そして動揺するフォーミュラを睨みつけた。
「あっ……! あひゅ――!? ひゅー……!」
フォーミュラは何度も声を出そうと口を動かしている。しかし出て来るのは憤怒の表情とはかけ離れた情けないかすれ声のみ。
高速詠唱を行えば確かに唇は震える。しかし出てくるのは声とは言えない、音のみで、魔法は発動できそうもない。
「どうだ! 我が“沈黙胞子弾(サイレンスシュート)”を浴びた感想は! 声が出ぬであろう! それではもはや魔法は紡げまい!」
「マタンゴ、ノリノリねぇ……でも、そういうの嫌いじゃないわ!」
「ひゅっ――!?」
マタンゴはサーベルを抜き、フォーミュラへ突進を仕掛けた。
フォーミュラは寸でのところで聖剣を掲げ、マタンゴのサーベルを受け止める。
膂力は圧倒的で、マタンゴの踵が地面へ僅かにめり込む。
しかしそれでもマタンゴは涼やかな表情を崩さない。
なぜならば、フォーミュラの背後へはラフレシアが回り込み、袖を振り抜いていたからである。
「ぐ、があああっ!!」
ラフレシアの放った刃の付いた種子がフォーミュラ背中を、鎧ごと盛大に切り裂いた。
“聖光壁”は対間接攻撃には完全防御を誇るが、その効果は基本的に1詠唱に付き1回。つまり一巡(ワンターン)限り。
声を失い、詠唱ができなくなったフォーミュラを守るのは、見た目は立派で派手だが、さほど防御力の無い黄金の儀礼用鎧のみである。
「覚悟ッ!」
「が――ひゅ!?」
マタンゴはフォーミュラの腹をサーベルで鋭く貫く。
彼女が飛びのくと、フォーミュラの股下では、二振りの刃物が冷たい輝きを放った。
「人間の雄の象徴いただきなのだ。どっせい! しゅこぉー!」
「がっ!? あが――――っ!!」
すでにフォーミュラの懐へ潜り込んでいたベラは、逆手に持った双剣で、彼の股下を激しく切りつける。
フォーミュラは苦悶で顔を歪め、股下から血を垂れ流しながら、力なく地面へ膝を着く。
その隙をクルスは見逃さない。
「ロナ! 蔓をくれ!」
クルスの叫びを受けて、地面を割ってロナの蔦が生えた。
「はぁーい! ちゅかってくだしゃい!」
ついでに現れたちびロナは他の蔓で、生えた蔓を切断する。
クルスは長く切断されたロナの蔓を手に、満身創痍のフォーミュラへ接近した。
「久しぶりだな、フォーミュラ。会いたかったぞ」
「――ひゅッ!?」
「ビギナを傷つけ、樹海を荒らした罪――お前だけは許さん! その罪、お前の命をもって償えっ!」
クルスはフォーミュラの耳元でそう囁き、彼の首を狙ってロナの蔓を投げる。
「離しましぇんよ!」
クルスに応じ、ちびロナはくるりと指を回した。
「うぐっ!?」
切断されても尚ロナの意思が残る蔓は、フォーミュラの首に巻き付き、強く締め上げる。
クルスは膝を曲げて飛ぶ。ベストなタイミングでロナの蔦が靴底を弾く。
蔓を持った彼は驚異的で、常人離れをした跳躍をし、目の前のの太い枝を軽々飛び越えた。
「がぁ――ッ!?」
同時に蔓を首に巻き付けられたフォーミュラが地面から離れてゆく。
硬く丈夫なロナの蔓は枝と摩擦で、わずかに白い煙を上げている。
「あがっ! か……ひぎゃっ!! ぎゃはっ! がっ!!」
まるでフォーミュラは絞首刑に処せられた罪人のように吊るし上げられた。
勇者は全身の穴という穴から体液を零しながら、無様にもがき苦しむ。
しかし首へしっかりと食い込んだロナの蔦は決して外れることは無い。
「あひゅ――っ!! ああああ!!」
「いずれ地獄で会おう――勇者殿!」
「あ――――っ……!」
クルスが蔓を引きちぎりると、フォーミュラは地面へ落ちて倒れた。呼吸の兆候は見られず、地面へ落下したことで、手足があらぬ方向へ曲がってしまっていた。
フォーミュラが動かなくなったのは“状態異常”での行動不能ではなかった。
命の火が消えた“戦闘不能”になったのである。
自分を辱め、大事なものを壊し襲い、そして後輩をも苦しめた最悪の男。
フォーミュラには相応しい、無様な幕切れであった。
「な、なに、これ……?」
怯えた少女の声が聞こえ、クルスの心臓が跳ね上がる。
おそるおそる視線を上げてみる。
そこには金の錫杖を抱きかかえて立ち竦む“ビギナ”の姿があった。
どうやらそこら中に転がる、勇者パーティーの面々と、クルスを含む不気味な怪人たちを前にして怯えているらしい。
「見たわね?」
後ろからそんなラフレシアの声が響き、つま先を蹴りだす気配を感じ取る。
しかしクルスは手をかざして、静止を促した。
そして血に染まった短刀を逆手に持って立ち上がり、目の前に佇むビギナへ迫る。
本当は仮面を脱いで、自分がクルスであるということを伝えたい。
だがここで“今は樹海の敵に属するビギナ”へ、何かしらのアクションを加えねば、ここまで良好だったラフレシアとマタンゴとの関係に水を差してしまうことになる。
これからも樹海でロナと共にありたい。だからこそ人と戦うことを選んだ。
ならばその態度は最後まで貫き通さねばならない。
(安心しろビギナ。少し眠ってもらうだけだ。君は俺が責任をもってこの森から……)
クルスはそう心の中で呟きながらビギナへ迫る。
ふと、目の前にいる彼女の肩から震えが抜けた。
「あ、あの……もしかして貴方は……」
「……」
「貴方は、クルス先輩、なんですか……?」
刹那、クルスの背中を荘厳な輝きが照らし出す。
炎のような熱を感じ取り、クルスは踵を返す。
「あはは……くははは……!」
絞殺したはずのフォーミュラが、輝きに包まれながらゆらりと起き上がる。
輝きは数多の傷を、時間を戻すかのように回復させてゆく。
(再生(リジェネレイト)だと!?)
光属性魔法の至高の一つ。
僅かな生命力さえあれば、傷を完治させて立ち上がる――それこそ超級光属性魔法“再生(リジェネレイト)”
「さぁこっからが本番だ! てめぇらまとめて地獄へ落としてやるぜぇ!!」
*次回、前後編でクライマックスです。
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