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四章 臍の街、集うアルビスの女たち

魔物の群れ

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「な、なんでこんなところに魔物の群れが……!?」

 魔列車の先頭車両へ向かうと、手続きをしていた衛兵と乗務員が驚愕している。

 レールの先には黒い瘴気のようなものを放つ、何かの一団が蠢いている。
どうやら魔物らしい。更に魔列車を取り囲むように、次々と虚空が開いて、そこから魔物が溢れ出ている。

「くそっ! 警備の連中は、漆黒の騎士団の連中は何をしているんだ! 総員迎撃準備! 魔列車を防衛せよ!」

 脇の砦からけたたましく鐘が鳴り響いた。
周囲へにわかに緊張が走る。
 車両からも、悲鳴などと言った騒然とした雰囲気が沸き起こる。

「まずは正面よりも周囲の魔物をなんとかしたほうが良さそうだな!」

 俺の言葉にシグリッドとドレは僅かに首肯してみせた。

「それじゃあ私は右側を! ドレは左の方をお願い!」

「わかった!」

「それじゃあ俺は真ん中でどっちも!」

 俺たちは先頭車両から客室方向へ向けて戻って行く。

「いっぱい私の術を真似て活躍してね、お兄ちゃん!」

「アルさん! あたしのも宜しくね!」

 別れ際にシグリッドとドレはそうわざわざ伝えてきてくれた。

 俺、すっげぇ二人に愛されているなぁ。
そう思うと嬉しくなり、気合が入ると言うものだ!

……
……
……

「な、なんだよ、この量は……」
「諦めんな! 俺たちがここを守らにゃ乗客は!」
「うわぁぁぁ!!」

 乗客の中にいた冒険者や兵士は、車両の外に出て臨戦態勢を取っている。
しかし魔物の数があまりに多く、飛び出すのを躊躇っていた。

「皆さーん! もう少し下がってくださーい! 巻き込んじゃいますよー!」

 俺とシグリッドは彼らの前に降り立つ。

「さ、下がるって、君たちは一体……?」

「私、こういうものです!」

 シグリッドは走りながらわざわざ胸の付けた黄金のブローチを見せつける。
瞬間、皆が色めきだった。

「ま、まさか、君があの100年ぶりの聖光の魔術師!?」

「行こう、お兄ちゃん!」

「おうっ!」

 俺とシグリッドは攻め寄せる魔物へ向かって突っ込んでゆく。

「聖光雷(セイクリッドサンダー)!」

 シグリッドの掲げた杖から、白い輝きを帯びた稲妻が地面を穿った。
空陸に発生していた大量の魔物を一気に殲滅する。

「はぁ……やっぱこの魔法きっつ……」

 シグリッドがそうこぼすのも無理は無い。
魔法は術者の消費が激しく、威力は高いが乱発するものじゃない。
いくら聖光の魔術のシグリッドでも魔法使いなら、こうなって当然だ。
多少のインターバルは必要となる。

しかし、その法則は俺の能力には適用されない!

「聖光雷!」

 俺は物真似の能力で、シグリッドの術を真似て放った。
威力も、攻撃範囲も全く同じで、魔物が吹き飛んだ。
それでも一切消費が生じないのは、この能力の便利なところだ。

「よぉーし! 私ももう1発! 聖光雷!」

 シグリッドは再び雷を放って魔物を殲滅した。
俺はまたそれを真似て、間髪入れずに魔法を放つ。

 正面は常に聖光雷によって真っ白に染まっていた。
魔物たちは車両へ一切近づくことができず、ただ一方的にやられ続けている。

 そんな圧倒的な俺たちの力を目にし、冒険者や兵士たちは唖然としていた。

 こっちはこんなものか。
 逆にドレのいる左側の方が俄に騒がしい。

「こっちは宜しく!」

「うん! 任せて! さぁ、皆さん残りのお掃除お願いします!」

 シグリッドの号令に従って、冒険者や兵士達は残った魔物の殲滅に乗り出すのだった。

……
……
……

「これでも喰らいなっ!」

 ドレが引き金を引くと、荘厳な輝きを帯びた長銃身の回転弾倉式中から光が撃ち出された。
 撃ち出された光は地面に衝突すると爆発し、まるでシグリッドの魔法のように魔物をまとめて殲滅する。

「す、凄い……」
「これが西岸事変の英傑ドレの魔弾!」
「くそっ! それでもまだ敵の数がーー!!」

 目下では戦士達がドレの攻撃に興奮しつつも、敵の攻勢に苦戦している様子だった。

「よっ、お待たせ!」

「アルさん! お帰りなさい!」

 ドレは声を弾ませつつも、器用に弾倉の交換をしている。

「今の凄いな! ドレが編み出したのか?」

「うん! でも、威力が高いけどいちいち弾倉を丸ごと交換しなきゃいけないんだよね……割と疲れるし……」

「なるほど。んじゃ、時間は稼がせてもらうよ!」

 俺は先ほど目にしたドレの"魔弾"を回想する。
そのイメージをはっきり持って、目下の魔物の集団へ、銃を突きつけた。
すぐさま俺の銃が、ドレと同じような輝きを帯び始める。

 やっぱ初めて真似る攻撃って緊張するけどワクワクするね!

「ばーんっ!」

 擬音語と同時に銃から激しい光を伴った光弾が弾かれた。
光弾は地面を抉り、そこにいた魔物たちを一瞬で吹き飛ばす。

「さすがアルさん!」

「これ気持ちいいな!」

「……そういえば昔もあたしの射撃を真似してくれたことがあったよね。あの時、すっごく嬉しかったんだ」

「そうなの?」

「そうだよ! 好きな人が自分の真似をしてくれるのって、結構嬉しいものだよ! へへ!」

 ドレは成長して凄く美人になった。それに強い。
だけど、こうして笑顔をみると、中身はいい意味で全然変わっていないのだと思う。

きっと俺は、南の荒野にいた頃から、ドレのことが好きだった。
改めてそう思う。

「よし、サクッとここを切り抜けて、西の果ての国を目指すぞ!」

「了解っ!」


●●●

「おい、ノワルどうすんだよ!? こんなの知られたらやべぇぞ!!」

 漆黒の騎士団の一員、戦士のブラックが焦りの声を上げた。
ようやくスタン状態から抜けた他のメンバーも、顔を真っ青に染めている。
それはリーダーで剣士のノワルも同様だった。

 彼らは西の果ての国から、国境の防衛を請け負っていた。
最近は"聖光の魔術師シグリッド"や"西岸事変の英傑ドレ"などの登場により、彼ら漆黒の騎士団の名前が、世間から忘れられつつあり、どうしても輝かしい実績が欲しかったからだ。

 だが結果は、突然現れた強大な化け物にやられて、国境を越えられてしまっていた。
更に化け物は臍の街と西の果ての国を結んでいる魔列車へ向かっている。

 このままでは自分達の失態で、多数の犠牲者が出てしまう。

「い、行くぞ! なんとしても俺たちの手で、ジャガナートを止めるんだっ!!」
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