26 / 49
三章 北の大地と豪快なお嬢様とヘタレな皇子
頑張れ! ラスカーズ!
しおりを挟む「や、やぁ、レオヴィルにアルビス! 今夜はよく来てくれたよ!」
「ご機嫌麗しゅうございます、ラスカーズ殿下。本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
「ぐっ……そ、そうか……」
あー、もう! レオヴィルの奴、完全にラスカーズを拒否ってんじゃん!
しかもラスカーズも、気圧されて黙っちゃうし!!
……本気でなんとかしないと、マズイいぞ、これは……
でも、今夜が絶好の機会なのは確かだ。
こんな華やか雰囲気の中で、かっこいいラスカーズの姿を見せれば、レオヴィルだって!
「お、おい、アルビスっ!」
意気込んでいた俺の肩を掴んできたのは、なんとラスカーズ本人。
まさか、俺の動きを察して動く気になってくれたのか!?
「なんだい、ラスカーズ!」
「少し、なんだその……相談したいことが……」
「おう、良いぜ! なんだい?」
「いや、ここではまずい……」
ラスカーズの奴、チラチラレオヴィルをみてるな?
実のところ良い予感と悪い予感が半々な俺である。
「わかった」
「ありがとう! 付いてきてくれ!」
「そういう訳で、レオヴィルは少しの間一人で宜しくね」
「はいはい、お好きにどーぞ」
相変わらずレオヴィルは、ラスカーズに無関心な様子で去っていった。
ホント、この二人世話が焼けるよなぁ……
……
……
……
俺はラスカーズに連れられて、城壁の上へとやってきた。
ここには基本的に見張りの兵以外はいない。
「で、なによ話って?」
「……レオヴォルのことなんだが……」
おーおー! キタキタ! さぁ、恋愛相談どーんと来い!
「こ、これをアルビスからレオヴィルへ渡して欲しいんだ!」
「は……?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。
それもそのはず。ラスカーズはまるで、俺がレオヴィルかのように、むっちゃ緊張した面持ちで包みを差し出してきたのである。
「ちなみに中身は?」
「靴だ! これは先日、東の山の行商人が持ち込んだ素晴らしいダンスシューズでな! 今日の舞踏会でぜひレオヴィルに履いてもらいたいと思って!」
「ふーん、そうなんだ。で、なんで俺に渡せなんて?」
「それはその……どうやらレオヴィルは、俺なんかのことよりもアルビスのことを好いているような気がして……」
心臓が少しドキリと音を上げた。
さすがのラスカーズでも気づいていたか。
むしろ結婚の申し込みまでされているだなんて、口が裂けても言えない状況なのは間違いない。
「あのさ、ラスカーズ……仮にレオヴィルが、俺のことを好きだったとして、お前はそれであの子を諦められるのかい?」
「レオヴィルが幸せなら……」
「いや、今はレオヴィルの気持ちなんて聞いてない。お前自身がどう思うのかってことだっ!」
「ーーッ!?」
「確かにお前とレオヴィルは政略結婚かもしれない。だけど、俺はわかってるぜ。ラスカーズは昔から、レオヴィルのことが大好きでたまらないってことを!」
言い終えて初めて、俺は随分な物言いだと思った。
なんてたって、相手はたとえ友達と言ってくれていても王族。
更に将来は北の大地を背負って立つ男だ。
本来ならこの場で、自慢のロングソードで首を跳ね飛ばされても文句は言えない。
「お前はレオヴィルの前でいっつもダメダメになるのは、それだけレオヴィルのことが大好きな証拠だ! 今日こそ、勇気を持って、お前自身の手でそいつを渡してやれ!」
「勇気を出して……」
「ああ、そうだ! じゃないと……お、俺がレオヴィルをもらっちまうぞ!」
「やっぱりそれダメ……!」
ラスカーズの決意の言葉に、兵の叫び声が重なった。
普通なら"邪魔んすんな!"と思うところだったが、今は違う。
兵の声が妙に切迫していたからだ。
「どうした、そんな声を出して?」
さっきまでのダメダメラスカーズはどこへ行ったのやら。
いつもの凜とした彼の顔と表情に切り替わっている。
「騎士団よりの報告です。城内にマッドスライムの残滓を発見したとのことです」
「なんだと!? それは本当か!?」
「はい。現在、騎士団が残滓を追跡中です」
「報告ありがとう。このことは?」
「殿下と騎士団の方々のみにご報告を」
「配慮をありがとう。まずは皆に気取られぬよう舞踏会場の警備を厳に。一応、父上の耳には挟んでおいてくれ! 今宵は年に一度の舞踏会だ。極力、不安を煽るような行動は慎むように」
「御意」
「もしかしてそのマッドスライムってのは、この間城に潜り込んできたっていう……?」
俺の問いにラスカーズは頷きを返した。
「これはマッドスライムを侮った俺のミスだ……」
「マッドスライムじゃ仕方ないって。あいつ、少しでも残ってりゃ再生するのはわかってるし……それじゃあ俺も……」
そう声を上げた俺へ、ラスカーズは手を開いて静止を促して来た。
「アルビス、すまないが俺の代わりにレオヴィルを守ってやって欲しい」
「……分かった」
「もしかするとアルビスには、俺が怖気付いて逃げたように映っているかもしれない。しかし、この点については誤解をしないでほしい。俺はレオヴィルも大事だが、民の命も大事だ。民あってこその国だからな」
「分かってるって。今度、そういうちゃんとしたカッコいいところをレオヴィルにみせてやるんだぞ?」
「ぐっ……ぜ、善処する。それでは!」
ラスカーズは兵と共に去って行った。
それじゃあ俺は近いうちにラスカーズがカッコよく決められるように、レオヴィルの警護をしますかね!
●●●
舞踏会場へ戻ると、既に優美な音楽の下で、参加者の踊りが始まっていた。
しかしレオヴィルは踊ることなく、脇のソファーへ一人で座り込んでいる。
「遅い! 一人で暇っだったのよ!」
近づくなりレオヴィルは、嬉しそうな表情で、文句を言ってきた。
「ごめんごめん、ちょっとラスカーズと盛り上がっちゃってね」
「ふーん、そうなの」
「踊らないの? 靴も履き替えてないようだし……」
「仕方ないじゃない。ヒールが無くなったんだから……」
レオヴィルは足をブラブラさせつつ、憮然とそう言い放った。
「馬車の隅っこに落ちたんじゃ? ちゃんと探した?」
「探したわよ! でも無いの!」
レオヴィルが声を荒げるとダンス中の姉のポワフィレとパルトンがクスクスと笑っている。
……またあの二人か……懲りない連中だな……
しかし参った。
踊っていないのはレオヴィル一人きりだ。
こんな状況が長く続けば、周りがどんな非難を浴びせてくるか、容易に想像が付く。
いや、待てよ……この状況は使える!
「俺、ヒール探してくるよ」
「い、良いわよ! 別に……」
「レオヴィルだってこの場でこの状況が続くのはマズイと思ってるんでしょ?
「それは……」
「待ってて! 必ず探してくるから!」
俺はレオヴィルから離れて、会場の外へ出た。
そしてすぐさま、物真似の力の一つ"形態模写"を発する。
みるみるうちに、俺の姿はラスカーズへと変わった。
「あー、あー……よし!」
声を整え、茂みへ手を伸ばす。
ラスカーズからレオヴィルへ宛てたプレゼントを手に、舞踏会場へ戻ってゆく。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです
青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。
その理由は、スライム一匹テイムできないから。
しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。
それは、単なるストレス解消のため。
置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。
そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。
アイトのテイム対象は、【無生物】だった。
さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。
小石は石でできた美少女。
Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。
伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。
アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。
やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。
これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。
※HOTランキング6位
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました
フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が
ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。
舞台は異世界。
売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、
チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。
もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、
リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、
彼らを養うために働くことになる。
しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、
イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。
これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。
そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、
大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。
更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、
その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。
これによって彼ら「寝取られ男」達は、
・ゲーム会社を立ち上げる
・シナリオライターになる
・営業で大きな成績を上げる
など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。
リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、
自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。
そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、
「ボクをお前の会社の社長にしろ」
と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。
そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、
その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。
小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する
花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。
俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。
だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。
そんな俺に一筋の光明が差し込む。
夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。
今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!!
★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。
※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる