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三章 北の大地と豪快なお嬢様とヘタレな皇子

強くて逞しいラスカーズを見せつけろ!

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「アルビスが私を誘ってくれるなんて珍しいわね! 行くわ! 絶対に行く!」

「そ、そうですか」

「さっ、早く支度をしましょ! さぁ早くっ!」

 ある日、俺から害獣駆除へレオヴィルを誘った。
彼女は嬉しそうに了承してくれた。

「や、やぁ、レオヴィル! ひ、久しぶり……!」

「なんだラスカーズもいるの……」

 おいおいレオヴィル、あからさまに残念そうな顔をするなよ。

「きょ、今日は絶好の狩日和だな! はっはー!」

 ラスカーズも笑ってる場合じゃないって!

「うん、そうね。はぁ……」

 しかしレオヴィルは屋敷の前で待っていたラスカーズを見るなり、盛大なため息を漏らす。
 ラスカーズは相変わらず緊張しっぱなしで、いつもの覇気がない。

 だけど二人のこんなリアクションは織り込み済みだ。
 
「さっ、アルビス! 早く行きましょ!」

 相変わらずレオヴィルは俺へ熱い視線を向けてくる始末。
俺が本気で頑張らないと、北の大地の将来が危うい。

 それに加えて、他にも気になることがある。

 屋敷のテラスからレオヴィルの二人の姉が、俺たちを見下ろしているのだ。
遠目で見ても、とっても怖い顔をしているように見える。

 少しいつもよりも警戒しておいた方が良さそうだ。

「お二人さん! しっかり着いてきてくださいよ!」

 馬竜に乗った俺は、レオヴィルとラスカーズを先導し始めた。

 俺が間に居なきゃ会話の一つや二つでも発生すると思っていたが……

「……」

「……」

 レオヴィルは憮然とした顔で、ラスカーズは耳まで真っ赤にして、無言のまま馬竜を走らせ続けている。

 こりゃ相当だな……

 とりあえず森の中ほどに到着したので、馬竜を止めた。
すると下馬してすぐさま、レオヴィルが駆け寄ってくる。

「アル! 行きましょう! さぁ、早くっ!」

「お、おいおい! 君は俺じゃなくてラスカーズと!」

「ア、アルビスが一緒か! それなら安心だ! はっはっはー! では俺は一人でのんびりと……」

 ああもう!
ラスカーズのやつ、がっくり肩を落とすなら、俺からレオヴィルを奪い取るぐらいの気持ちをみせないか!

……しかしこういう状況も織り込み済みだ。
あとは上手いこと、魔物が出てきてくれれば良いんだけど……

「アル! 退いてっ!」

 俺が身を屈めると、レオヴィルはナイスなタイミングで弓弩を放った。
矢は弱ったワイルドボワを撃ち抜き、絶命させる。
相変わらず素晴らしい狙いの付け方だと思う。

「てやぁぁぁ!」

「GOBUーーっ!!」

 レオヴィルの綺麗なハイキックがゴブリンの頬を殴打した。
見事な蹴りだった。

「ふふん! どうアル! キック、上手くなったでしょ?」

「お、お見事です……」

 最近では屋敷でスタイルを維持するために、体術を学んでいるらしい。
スタイル維持のために体術って、豪快なレオヴィルらしいといえばらしい。

 ここ一年でレオヴィルはかなり強くなっていた。
そんじょそこらの冒険者や、雑魚魔物程度では太刀打ちできないくらいに。

 それはそれで害獣駆除に使命感を燃やすレオヴィルにとっては良いことなんだけ……今日はそれだとちょっとまずい。

 やっぱ春だから魔物たちも緩んでるのかなぁ……

 と思ったその時のこと。

 周りの空気が一瞬にして変わった。

 さっきまでは自信満々だったレオヴィルも、緊張しているのか肩を震わせている。

「アル、これって……」

「気をつけてください。何かきます!」

「GUUUU……」

 薮の向こうか現れたのは固そうな黄金の毛と2本の鋭くて太い牙を持つ魔物ーーセイバータイガーだった。
こいつは本来は、東の山の山間部を主な生息地域にしている。

「な、なによ、この獣……こんなやつみたこともないわ……」

 いつもは勝ち気なレオヴィルも、初めて見る魔物に怯えているようだ。
なんでこんなところにセイバータイガーがいるのかよく分からないけど、これは絶好のチャンス!

「レオ、俺に任せてください! 貴方は隠れていてください!」

「わかったわ! 気をつけてね!」

「かしこまり!」

 レオヴィルと別れた俺は、セイバータイガーへ向けて飛び込んだ。
そしてすぐさま、アーミーアクションを抜き、牽制を仕掛ける。
しかし、弾は当たるが、全くダメージが見て取れない。
さすがは剣さえも通さない剛毛だ。
東の山の時、だいぶ苦労させられたことを思い出す。

「GAAAAーー!」

「ぐわぁぁぁぁー!!」

「ア、アルっ!」

 セイバータイガーの爪が俺を切り裂き、レオヴィルが悲鳴を上げた。
 俺はそのまま、脇の坂へ転げ落ちてゆく。

「GUUUU……」

「ひぃっ!!」

 坂の上からセイバータイガーの唸りと、レオヴィルの怯えた声が聞こえてきた。
俺は急いでエリクサを飲み干した。
 今すぐに飛び出したい気持ちをグッと堪えて、タイミングを待つ。

「GAOOOOO!!」

「きややぁぁぁぁ!!」

 遂にレオヴィルが悲鳴をあげた。
今がチャンス!

「レオヴィル……今助けてやるからな!」

 立ち上がった俺は形態模写の力を発動させる。
そして、ラスカーズの姿となった俺は、坂を一気に駆け上がった。

「レオヴィルぅぅぅーー!」

「ラスカーズっ!?」

 俺はレオヴィルの頭上を飛びながら、ロングソードを抜く。
そして、セイバータイガーへ目掛けて、それを叩きつけた。

「GOOOOO!!!」

 刃がセイバータイガーの胸の辺りを切り裂いた。
もちろん、直前にもらった爪攻撃を物真似してだ。
驚いたセイバータイガーは、俺たちの前から姿を消してゆく。

 これがもし本物のラスカーズだったら一撃必殺だったんだろう。
てか、あいつ、いっつもこんな重い剣を軽々とあつかっているのか……バケモンかよ。

「だ、大丈夫か? レオヴィル?」

 俺は涙目になっていたレオヴィルへ振り返り声をかけた。

「ラスカーズ! ありがとう! 急がないと……!」

 すると強気に戻ったレオヴィルが坂へ向けて身を乗り出し始める。

「お、おい! なにをするつもりだ!?」

「アルがさっきの獣にやられて落ちちゃったのよ! 助けないと! アルーっ! 今行くからね!」

「まてまてまて!! わ、私が行くからレオヴィルはここにいろ!」

「でも!」

「良いから、任せて!」

 俺はレオヴィルを横切って、坂を滑り降りてゆく。
 予想では……「きゃー! ラスカーズかっこいい! だいちゅき!」とレオヴィルがなる予定だったのだが……

 これで平然と元の姿の俺が戻っても変だし、どうしよう……

 と、困り果てていた俺の視界へ本物のラスカーズらしき人影が映り込んでくる。

 俺はすぐさま形態模写を解除して、地面へ倒れ込んだ。

「ぐわぁぁぁ! だ、誰か助けてくれぇーー!!」

「ア、アルビス!? 一体何があったんだ!!」
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