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三章 北の大地と豪快なお嬢様とヘタレな皇子
北の大地の未来を願ってーーアルビス、行動開始!
しおりを挟む「にしても、なんで今日は城門前を集合場所にしたんだよ?」
「最近、警備が厳しくなってな。今では部外者を城へ招き入れるには3つの城門を潜り、更に5つの扉を潜らねばならん。しかもそのためには応じた通行許可証が必要で、それの発行には各大臣の押印が必要になってしまってな……本当に面倒臭い!」
「じゃあ、こんな風に出歩いちゃまずいんじゃ?」
「大丈夫! こっそり出てきたし、今日はアルビスが一緒なのだから問題ない!」
「いや、大有りだろ……お前、次期国王だろ? 何かあったらそれこそ……」
「だから日々鍛えている! 先日も城に侵入してきた魔族は私が撃退したからな! はっはっはー!」
ラズカーズとそんな会話を交えながら、領地を周り、害獣駆除に精を出している。
もともとコイツは、俺が北の大地にやってくるまで、一人でこっそりとこんなことをしていたらしい。
んで、ある日、レオヴィルと害獣駆除をしていたら出会って、意気投合し……気がつけば、俺とラスカーズは友達となっていた。
「ラスカーズ、そっち!」
「任せろ! つぁぁぁぁっ!!」
ラスカーズの剣裁きは見事なものだった。
本人が自負するように彼の戦闘力はそんじょそこらの冒険者よりも遥に高い。
どうやら公務の合間を縫っては日々、鍛錬に余念がないらしい。
「ほう、こんなところにマカライトの鉱脈が……アルビス、すまないが少し調査をしたい」
「その間の護衛でしょう? はいよ!」
「助かる!」
害獣駆除の途中で、ラスカーズは岩肌を調べ始める。
彼は王立の大学校で地質学を学び、優秀な成績で卒業している。
つまり脳筋ではなく、頭脳も明晰ということだ。
更になんで地質学を勉強したかというと、今後の北の大地の発展を思ってのことらしい。
確かに北の大地の産業は、天候に左右されやすい農業が主なので、他の稼ぎができることは非常に有益だ。
「わぁ! ラスカーズ様だぁー!」
「お、おいおい少年少女たち! あまりでかい声を出さないでくれるか? これでも今の私はお忍びで……」
「いやいや、もうバレバレだって……」
村へ立ち寄れば、誰もがラスカーズを慕って声をかけてくる。
彼もそんな民との交流を大事にしている。
このようにラスカーズは、あらゆる面において完璧だ。
容姿も良いし、文句の付け所がない……と言いたいところだが、こんなラスカーズにも大きな問題が一つ。
「で、お前最近レオヴィルに会ってるか?」
村の酒場で食事を摂っている時に、あえてそう聞いてみた。
「ぶはっ!? な、なんだ急に! どうして今、レオヴィルの話なんかを……」
ラスカーズの顔がみるみる真っ赤になり始め、体がガタガタと震えだす。
文武両道で、民からの信頼も厚く、本人の人柄も大変優れている。
「そろそろ結婚の時期だろ? ちゃんと顔を見せてやらないと、レオヴィルが寂しがるぜ?」
「ぐっ……そ、そうしたいのは山々だが、色々と忙しく……」
「俺とはこんな風にプラプラする暇があるのに?」
「あ、会いたいさ! 会いたいのだが……やはり、その……恥ずかしくて……」
ラスカーズはレオヴィルのことになると、こう言うふうに全然ダメダメになってしまうのだ。
二人は許嫁で、幼馴染だ。
そしてラスカーズは小さい頃からレオヴィルのことが大好きらしい。
逆に好きすぎて緊張してしまい、普段の彼の良さが発揮できないという問題があった。
「お前、レオヴィルのこと、本気で好きなんだろ? そんないつまでもウジウジしてちゃ誰かに取られちまうぜ?」
「そ、それは困る! 困るのだが……」
「じゃ、じゃあ、俺が貰っちまおうかなぁ……?」
「困る! 困るのだが……アルビスがレオヴィルの旦那か……それはそれで彼女が幸せになれるのなら……」
「いや、そこはダメって言えよ!」
「じょ、冗談だ! はっはっはー!」
レオヴィルはことあるごとに、こういう消極的なラスカーズの態度にがイラつくと言っていた。
もしかすると、こういうことがあるから、俺なんかに結婚を申し込んできたのかもしれない。
手広く商売をしているレオヴィルのボルドー家と、王家であるラスカーズのジュリアン家が手を組めば、北の大地はより一層の発展を遂げるはず。ラスカーズは本気でレオヴィルのことを愛しているし、きっと大切にする筈。
だから色々と考えた上で、俺がレオヴィルと結婚するわけには行かないのだ。
レオヴィルだって、ラズカーズの良い面に気付けば、俺のことなんて忘れてしまうはずだ。
ーーこれが俺の北の大地でやり残していることだ。
俺は北の大地と、二人の未来のために動き出す決意をするのだった。
●●●
「お姉様、またレオヴィルは狩りになんて出かけているそうよ?」
ボルドー家の長女ポワフィレが、そう声を上げた。
「まぁ! なんて野蛮な! ボルドー家の恥晒しよ!」
次女のパルトンが同意する。
「そうよ、そうよ! なんで私たちのような淑女ではなく、レオヴィルなんかをラスカーズ殿下はお見初めになったのかしら!」
「でも、あの子は例の冒険者にお熱なんでしょ?」
「ならそのことを殿下へ……うふふ。面白くなりそうだわ!」
「そうそうお姉様! 実は先日、ラグを作るためにセイバータイガーを買ったのよ!」
「あら? それは良いわね。所詮、毛皮用なんだから、うふふ……」
……屋敷の廊下をあるていると、たまたまめっちゃ嫌な会話を聞いてしまった俺だった。
俺が聞いているとは知らず、レオヴィルの二人の姉は、テラスで馬鹿騒ぎをしていた。
正直見た目もあんまり良くないし、性格だって今の会話から大体わかる。
だから嫁ぎ先が見つからなくて、困っているんじゃないか。
それでレオヴィルを妬むのって、おかしいと思う。
1年間、俺みたいな風来坊によくしてくれたボルドー家には感謝をしている。
しかし、この二人の姉だけは、捨ておけない。
それに今はレオヴィルとラスカーズにとっては大事な時期だし、何かができる最後チャンスだと思う。
俺は足速に自分の部屋へ戻った。
そして音が漏れないようベッドの上で、暑い布団を被った。
「あー……あー……、やぁ! レオヴィル! 久しぶりだな! はっはっはー!」
ラズカーズにしては少し声が高いと思った。
俺はそれから暫く発声練習を繰り返し、ようやく納得できるクオリティーに落ち着ける。
ほんと練習すれば声も真似られるだなんて、俺の能力は便利だなぁ。
次いで俺は鏡へ向かった。
まずはゆっくりと深呼吸。
頭の中にラスカーズの姿を強く思い浮かべる。
すると、まるで物真似カウンターの時のように、身体中から輝きが溢れ出た。
輝きは俺の体格を1.2倍ほどに拡張し、形を変えてゆく。
「完璧だ……!」
今鏡に映っているのは、冒険者アルビスではなく、誰がどう見てもラスカーズ殿下だ。
北の大地で鍛えたおかげで、物真似の力の一部である"形態模写"の力はかなり高まっているらしい。
形態維持の時間も、南の荒野にいた頃は数分が限界だった。
しかし今では1時間程度は可能となっている。
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