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二章 南の荒野と可愛い弟子と無法者集団

トラウマを乗り越えて

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「ダークネスブレイドぉー!!」

 ノワルは叫び声と共に大技剣技を発動させる。

 しかしそれを正面からまともに食らっても、ベヒーモスは多少怯んだだけで、大きなダメージは見て取れない。

「ネーロ! 早く魔法を!」

「今やってるって! 焦らせないでよ!」

「ネーロの時間を稼ぐぞブラック! シュヴァルツ!」

「「おうっ!」」

 ノワル達を先頭に、男どもが攻勢に出た。
しかしあっさりとベヒーモスに弾き飛ばされてしまう。

「みんな下がって! 行くよーーマグマファイヤーボールっ!」

 ネーロが掲げた杖からまるで溶岩ように沸る火球が打ち出された。
これが彼女の最強クラスの魔法とみて間違いない。

「NGA AAAAA!!」

 するとベヒーモスは怯むことなく火球に食らいついた。
そして大顎で真っ赤に沸る火球を一瞬で噛み砕く。

「う、うそ……私のマグマファイヤーボールが……」

「ネーロ、危ないっ!」

 呆然と立ち尽くすネーロを、女僧侶のヘイスアが弾き飛ばす。
 ヘイスアは防御壁を展開するも、ベヒーモスの突進が、それをあっさりと打ち砕く。

「がはっ……!!」

「「「「ヘイスアっ!!!」」」」

 真正面からベヒーモスの突進を受けたヘイスアは人形のように吹っ飛んだ。

 ノワル達は全力で戦っているのはわかる。
だが、アラモのベヒーモスがあまりに強すぎるためか、一方的にやられているだけだ。

ーー予想外だった。
まさか、アラモのベヒーモスがここまで強力だなんて……

「あの人達大丈夫なの……?」

 俺と一緒に物陰から情勢をうかがっていたドレも、不安そうな声を漏らしている。
このままでは漆黒の騎士団が全滅するどころか、イーストウッドタウンそのものが壊滅してしまうかもしれない。

「ね、ねぇ、アルさん……」

「……」

「アルさんは行かなくて良いの……?」

「それは……」

 ドレの純粋な質問が胸に突き刺さる。
 今は、イーストウッドタウンのために飛び出すべき時なのはわかる。
しかし過去のトラウマが、その気持ちに静止を促してくる。

ーーアルビスの力は、みんなの輪を乱す

ーートドメを持ってゆかれてばかりで不愉快だ。

ーー真似られるのってなんとなく気持ち悪い。

 3年前に、アイツらからかけらた心無い言葉の数々が、俺の体を竦ませていた。

 また同じようなことを言われるんじゃ……嫌な気持ちをさせられるんじゃないか……
そんなつまらない記憶に縛られている場合じゃないのは、頭では分かっていた。
だがどうしても、漆黒の騎士団の連中を見ていると、胸がざわつき、足が踏み出せない。

 そんな中、突然俺の手が暖かさに包まれる。

「さっきの納屋でのやりとりを見てて、あの時のアルさん本当に怖かったよ……」

 ドレは俺の俺の手を握り締めつつ、そう言ってきた。

「……」

「あんなアルさんの顔初めて見た。きっとアルさんは、あの人達に昔酷いことされたんだろうなって……」

「…………」

「だから飛び出せない。だから戦えない。そんなアルさんの気持ちは分かっているよ。だけど……」

 ドレはギュッと俺の手を握り締めてくる。

「この状況を変えられるのはきっとアルさんだけ。アルさんならなんとかできる。あたしはそう思ってる!」

「ーーッ!?」

「お願いアルさん! 戦って! いつもみたいにカッコよくイーストウッドタウンを、あたし達の未来を守って!」

 心からのドレの叫びが心に響いてゆく。
 そしてつまらないことで、ずっと決断できなかった自分が恥ずかしくなった。

 女の子に、ドレにここまで言われちゃぁな!

 俺はドレの手を強く握り返す。

「ありがとう、ドレ。おかげで勇気が湧いた!」

「ほんと!?」

「ああ、ほんと!」

「良かった!」

 イーストウッドタウンに来てから、俺はドレの明るい笑顔に何度も助けられていた。
この子がずっと側にいてくれたからこそ、この地で頑張ることができていた。
そして彼女の笑顔を見るたびにいつも思う。

ーードレの笑顔にちゃんと応えたい、と!

「それじゃあ行ってくる!」

「いってらっしゃい! 気をつけて!」

 俺は背中にドレの暖かい視線を感じつつ、物陰から飛び出した。
そして真っ直ぐベヒーモスへ突き進んでゆく。

「も、もう一度! ダークネスブレイドっ!」

 ノワルは俺の目の前で、闇属性を纏った剣技を放った。
大技のため、ベヒーモスが怯んでみせる。
しかしやはり今一歩威力が足りていない。

……大丈夫。昔のことなんて気にするな。それに後ろでドレが俺の戦いを見ているんだ。
勇気づけてくれたあの子に、恥ずかしいところなんてみせられない!

 俺は思い切り地面を蹴り、そしてベヒーモスへ向けて一直線に飛び込んだ。

「ダークネスブレイドォォォォーっ!!」

 直前のノワルの剣技を真似て、それを怯み状態でいるベヒーモスへ叩きつけた。

「GOOOOOOOーー!!」

 ベヒーモスが大きな悲鳴を上げ、胸の辺りが盛大に切り裂かれる。
大技を二回も、間髪入れずに二回も食らったのだから当然だ。

「ア、アルビス、お前どうして……?」

 きっとノワルや漆黒の騎士団たちは俺の背中を阿呆面してみてるんだろうな。

「ボーッとすんな! 俺の能力はお前達がよく分かってるだろ! 俺がいれば戦力は二倍だ! 早く目一杯技を叩き込めってんだ!」

「わ、分かった! 行くぞみんなぁぁぁ!!」

 ノワル達は立ち上がり、再度ベヒーモスへ立ち向かってゆく。

 俺はノワル達の動きに全神経を集中させた。
そして漆黒の騎士団たちの技を次々と真似て放ってゆく。

 大技は強力な分、発動前後の隙が大きい。だから、ベヒーモスに回避や、体位変更の間を与えてしまう。
でも、そんな間を与えないよう、俺が間に入って大技を真似て放てば勝機はある!

「マグマファイヤーボール!」
「ーーマグマファイヤーボールッ!」

「ナイトメアアックス!」
「ーーナイトメアアックスッ!」

「GUOOOONーー……!!」

 実際、俺が間に入り始めてから、ベヒーモスはその場から動けずにいた。
ただ一方的に殴られ続けていて、時間を追うごとに悲鳴が強まってゆく。

 そんな中、脇から鋭い殺気を感じ取る。
 アラモがにやりと笑みを浮かべながら、俺へ銃口を向けている。
ベヒーモスが強力過ぎて、うっかり飼い主のアラモの存在を忘れてしまっていた。
だけど、アラモはもう気にする必要はない。
なぜならばーー!

「銃を捨てな! じゃないとあたしがアンタを撃ち抜くよ!」

 ドレがアラモの背後から銃を突きつけていた。

「こ、このガキ! てめぇ一人で何が……ひぃっ!!」

 すると、街の住人達が、アラモへ四方八方から武器を突きつけて動けなくする。
多分、ドレが街のみんなを開放したんだろう。

いやはや勇ましい! さすがは俺が手塩にかけて育てた弟子だなぁ。
きっとドレは良い保安官になるはずだ。

「アルさーん! こっちはもう大丈夫だから、思いっきりやっちゃってー!」

 俺はそう叫ぶドレへサムズアップを返し、再びベヒーモスへ集中することにした。

「ま、まだやられないのかよ……」

 さすがのノワル達も長時間の戦闘で疲れの色が見え始めている。

「GOOOOO……」

 ベヒーモスも相当ダメージを負っているようだが、まだ早いと感じる。

 まだだ、まだコイツの力は……

「GAAAA AAAAA!!!」

 しかしその時は、唐突に訪れた。
 ベヒーモスが激しく咆哮を上げ、空気を震撼させる。

 俺は待っていた。この瞬間を! 千載一遇のチャンスを!
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