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二章 南の荒野と可愛い弟子と無法者集団
作戦開始!
しおりを挟む「わっふ!」
「ひゃん!」
意図せず尻に顔を埋めてしまい、そうされたドレが短い悲鳴をあげる。
「わ、悪い! 急に止まるだなんて予想してなくて……」
「う、ううん、良いよ全然! 私の方こそ急に止まってごめんね」
俺とドレは今、街の集会場の屋根裏にいる。
ここからアラモ達の動向を伺うためだ。
「こっち来て。この隙間から下の様子がみえるよ」
「はいよ」
俺はドレのところまで行って、その隙間とやらを覗き込む。
確かにこれなら、アラモ達には知られずに、集会場の様子を伺うことができそうだ。
「ふふん。んふふ……」
肩を寄せあっているドレがすごく嬉しそうな顔をしていた。
「おいおい、あんまり声出すなよ。アラモ達にばれちゃうから」
「あ、ごめん……」
「ドレも一緒に観察してくれよ。こういう時は目と耳が多い方がいいからね」
「わかった! 頑張る!」
やがて続々と人相の悪い無法者が入室し、最後に葉巻を咥えたボスのアラモが姿を現した。
アラモは入室するなりドカッと椅子にふんぞり返った。
そして机の上へ無造作に足を投げ出す。
途端、集まった無法者達に緊張感が走った。
「じゃあまずはジャンゴ五兄弟から聞こうか?」
「へ、へい!」
まるでゴブリンのような顔をした男が声を震わせる。
しかも5人全員、個性的な顔をしている。
どうやらさっき、漆黒の騎士団へ悪戯をしようとしていたのはコイツららしい。
"ジャンゴ五兄弟"はアラモへ、人質の中から、人身売買に使えそうな人間の報告をしている。
「でー次は……おいおい、後ろの二人はどうした? 随分ぼこぼこじゃないか」
「すみませんでしたボス。うちの若いモンが勝手をしまして……制裁はご覧の通りで」
アラモへ赤いスカーフを巻いた男が頭を下げた。
どうやら勝手に街へ火を放っていたのは、この男の部下らしい。
「火遊び大好きだなんて、猿の集まりのブロンディ強盗団らしいわな」
「クッ……!」
「まぁ、せいぜいシルバーくんの餌にならないよう気をつけることだ。ところで収集状況は?」
赤いスカーフを巻いた"ブロンディ強盗団"は、街からの金品の収奪状況を報告し始める。
やがて、アラモに散々搾られたジャンゴとブロンディは肩を落としつつ、集会場を跡にする。
「くそっ! アラモのやつ、いっつも威張り腐りやがって!」
「兄貴止めなよ! ベヒーモスがこっち睨んでるぜ?」
ジャンゴ五兄弟は集会所の裏に座るベヒーモスを恐れて、足速にその場を去った。
「リーダー、このままで良いんですかい?」
「……分かっている。このままでは済まさんさ」
ブロンディ強盗団も不満げな様子で帰路についてゆく。
大体の事情が把握でいた俺は、ドレと共にアジトへ戻ってゆく。
●●●
ボスは悪漢アラモ。
そのペットが危険で凶暴なベヒーモス。
構成員はゴブリン似のジャンゴ五兄弟に、赤いスカーフが目印のブロンディ強盗団。
これでベヒーモスを除いて合計13人。ドレが教えてくれた人数と相違ない。
しかもこの組織はアラモがベヒーモスを使って恐怖政治を敷いている。
なら打てる手といえば……
「アルさん、食べないの? 冷めちゃうよ?」
ドレに声をかけられ、思考の世界から舞い戻った。
俺とドレは今、ベヒーモスから最も遠い位置にある、ビリーさんの家に忍び込んで腹ごしらえをしていた。
全部済んだら、きちんとビリーさんには家を使わせてもらったお礼を言わないと、と思った。
「ところでアラモ達を懲らしめる手段で思いついた?」
ドレはライ麦パンを齧りながら聞いて来た。
「勿論。いい手段を思いついた」
「そうなんだ! で、どんな!?」
「まぁ、これをするにはもう少し情報が欲しいところだ。明日からも先導役頼んだぜ?」
「分かってから! だから教えてよ!」
「ふふ、それはだな……」
ーーそれから、俺とドレは丸二日ほど、アラモ一味をつけ回し、色々と情報を収集して行った。
その中でジャンゴ五兄弟、ブロンディ強盗団、そしてボスのアラモはそれぞれ別の家を占領して使っていると分かった。
そして三日目。俺はいよいよ計画した作戦を実行に移すべく、夜の闇に紛れて動き出した。
目的地は街の中心にある雑貨屋。
そこは下調べ通り、ゴブリン似のジャンゴ五兄弟のアジトになっていた。
今夜も連中は上機嫌な様子で店の食品や酒を、食い荒らしている。
俺は意を決し、雑貨屋の扉を叩いた。
「だ、誰だっ!?」
「俺だ。ブロンディだ」
おれはここ二日間で練習したブロンディ強盗団のリーダー:ブロンディの声真似をする。
「な、なんだよブロンディかよ。驚かせんなよ……」
五兄弟はホッとした様子で銃を下げた。
「こんな夜更けに悪いな。少し話したいことがあるんだが……」
「おう、良いぜ。んなとこいねぇで入ってこいよ」
「いや、それは遠慮をする。もしもこんなところをボスに……アラモに見られたりでもしたら大変だからな」
そうなるべく声を低めてそういうと、扉の向こうがより一層静まり返った。
一気に緊張感が高まり、心臓が破裂しそうなほど激しい鼓動を上げている。
「で、直接顔が見せられないほどの、やべぇ話ってどんなのだよ?」
うまく引っかかってくれたかどうかはわからない。
でも、このままやり切るしかない。
「……一緒にアラモを殺(や)らないか?」
「ヒヒっ! 一体どういう風の吹き回しだい?」
「良い加減、アイツにでかい顔をされるのに嫌気が差したんだ。お前達はどうだ?」
「……確かにな、ひひっ! 気が合うじゃねぇか! 俺たち兄弟もそう思ってたところだ。なぁ、みんな!」
扉の向こうからまるでゴブリンのような不愉快な声の数々が漏れ出してくる。
「決まりだな」
「おうよ! で、決行は?」
「明後日の夕刻でどうだ?」
「わぁったよ。ひひっ……今に見ていろ、アラモめ……!」
ジャンゴ五兄弟が沸き立ちはじめる。
俺は危なくなる前に、その場から去ろうとする。
「おい、待てよ」
「な、なんだ?」
「さすがの俺でもよ、一切顔を見ねぇでこんな話を受けるほど馬鹿じゃねぇ」
「……」
「ちっとでも良いから顔を見せろよ、ブロンディ」
「……分かった」
内側から鍵が開いた。
そしてゆっくりと扉が開き始める。
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