上 下
31 / 36

千変万化必殺攻撃

しおりを挟む

「ーーッ!!」

 マインは自分から太刀を手放す。
 そして上半身を思い切りそらした。

その勢いで小柄なマインの体が跳び、パルディオスの頭上を過ってゆく。

「らぁぁぁぁ!」

「うがっ!!」

 パルディオスの背後へ回ったマインは、奴の背中へ盛大な蹴りをお見舞いする。
予想外の攻撃を受けたパルディオスは、受け身も取れず吹っ飛んだ!

「ぎゃぁー! 鼻血がぁー!! てめぇ、剣豪だろ!? 刀剣手放して、蹴り飛ばす奴があるぁー!!」

 起き上がったパルディオスくんは鼻血をゴシゴシ拭きながら文句を叫ぶ。
しかしマインは彼の文句など気にした素振りも見せず、地面に転がった綾祢正宗の柄を蹴り上げ、手中に収める。

「これぞ千変万化必殺攻撃! 蹴ろうがなにをしようが、お前を倒せば良いという、我が師からの教えだぁ!!」

 再び太刀を手にしたマインは、パルディオスくんへ突っ込んでゆく。
 鼻血まみれのパルディオスくんはマインの上段切りをバックステップで避けてみせた。

 するとマインは刀剣を軸にし、横へ体を振る。

「そらぁ!」

「ぎゃっ!!」

 マインの蹴りが再度、パルディオスくんの脇腹を殴打する。

「だからてめぇは剣豪だろうが! 蹴るなんてルール違反だぁ!!」

「お前を倒すためだったら某はなんでもしよう!」

 マインは再び刀剣を構え、パルディオスくんとの距離を詰め始めた。

 先程までは身の丈に合わない太刀の重さや、長さに翻弄され、隙を作っていたマイン。
だけど、今はその反動を生かして、飛んだり、跳ねたり、時々蹴りをかましたりなど、完全に"流れに身を任せていた"。

「ああ、もう! うぜぇ! うぜぇぇぇ!!」

 パルディオスくんはマインに散々、蹴られ、切られ、怒り心頭なご様子。
鼻血を垂れ流しながら、暴れ回るその姿は、側から見ても情けない。
さっきまで黄色い歓声を送っていた女性観客も、ドン引き状態だ。

「パルディ、ライザぁぁぁぁ!!」

 しかしそんな周りのリアクションなど目もくれず、パルディオスくんは大技を放った。
 マインは太刀をより大きく地面へ打った。
強い反動がマインの体を宙へ浮かび上がらせる。
 彼女はパルディオスくんの黄金の刃を避け、綾祢正宗もろとも、彼の背後へ回り込んだ。

「お覚悟! 地雷一刀流奥義!」

「ーー!!」

「四の型! 風神斬!」

「ぎやぁぁぁぁぁ!!」

 綾祢正宗が巻き起こした旋風が、パルディオスくんを紙切れのように吹き飛ばした。
砂浜へ思い切り叩きつけられたパルディオスくんは、ピクリとも動かない。
その様子をみて、試合終了を告げる銅鑼が三回打ち鳴らされる。

 そして湧き上がった歓声と拍手の数々。

 マインは歓声の中、静かに太刀を鞘に収める。
そして満面の笑みで観衆へ手を振り始めた。

「うう……も、もう我慢できねぇ! ちょっとマインとやってくる!!」

「だ、ダメだよコン! 今はだめぇー!」

「コン姉どーどー」

 ふと、マインがこちらの方へ歩み寄ってくる。
 そして俺たちへ向かって深々と頭を下げた。

「三姉妹の皆さん、応援ありがとうございました! とても心強かったです!」

「マイン! 次はあたしとやるぞ! めっちゃ激しく行くぞ! 覚悟しとけよ!」

「あはは……ごめんね、マインちゃん。コン、割と戦闘狂でさぁ……」

「マイマイ、コン姉に逝かされないよう気をつける!」

「こ、心得ました!」

 マインは三姉妹へ再度会釈をすると、俺へ視線を向けてくる。
その熱さに、俺の胸は意図せずドキリと音を放った。

「トクザ殿……素晴らしいアドバイスをありがとうございました!」

「いえいえ。むしろ、あんな言葉だけで、全部察したマインの方が凄いと思うぜ?」

 そういうと、マインは嬉しそうに笑いつつ、頬を赤らめる。

「ありがとうございます。その上でお願いがあります……」

「優勝したんだ。お祝いだ! 俺ができることだったらなんでも聞いてやる!」

「ありがとうございます! では……これからもどうか、某をお導きください。某の師として側にいてください。お願いいたします!」

「お安い御用だ! 格安で引き受けてやる。そしてお前のことをもっと強くしてやる。覚悟しとくんだぞ!」

「はい!」

……三姉妹からは特に反対がなさそうだから……オッケーってことなんだろう。
むしろ、マインの行く末を、元冒険者としても見守ってゆきたいという気持ちもあった。

 そんなほっこりした気持ちの中、ようやく周りがざわついていることに気がついた。

「お、おい、なんだよアイツ?」

「なんか様子がおかしいぞ!?」

「ガァァァァー!!」

 突然、獣のような咆哮が聞こえ、会場全体が凍りついた。

 皆の視線の先には、大斧を携えた大男が1人。
たしかマインが初戦で倒した奴だ。

 そいつは空な視線で会場をぐるりと身わたす。

「カァァァァ!!」

 まるで魔物のような掠れ声を上げた。
すると砂の中か次々と黒光りする甲殻に覆われた"蛆"のような怪物が姿を表す。

 俺はその虫のような怪物に見覚えがあった。
そして無理やり、過去の嫌な記憶を思い出してしまう。


ーー虫に背中を食い破られ寄生された若い2人の冒険者。

彼女と彼は涙を流しつつ、かつての俺へ最悪の願いを口にする。

『兄貴、殺してくれよ……』

『トクさん、殺して! もう私とサフトは……!』


 地面から溢れ出た虫によって、大会会場は恐慌状態に陥っていた。

「先生! 私たち行きます!」

「身体が疼いてたんだ! ちょうど良いってもんだ!」

「シンの闇の炎が全てを焼き尽くす!」

 三姉妹は飛び出し、虫へ立ち向かってゆく。

「某も助力いたそう!」

 マインもまた虫の群れへ突っ込んでゆく。

……ちなみにパルディオスくんは、気絶したまま、大会関係者に搬送されているのだった。

「レイジングアロー!」

 キュウは空へ向かって輝きを帯びた矢を放つ。
矢は空中で無数に別れ、雨のように降り注ぎ虫を射る。

「行くぜ……岩石割りで決めだぁ!」

 コンの力が十分にこもったハルバートが砂ごと虫を押しつぶす。

「ダークネスファイヤー!」

 シンは暗色の炎を放ち、虫を次々と灰へ変えている。

「地雷流ニの型……水流閃!」

 マインは清流のような鮮やかな動作で、虫を切り裂いている。
特に先ほど身につけた"太刀の重さへ身を任せる"動作は鮮やかだった。

 4人は圧倒的な力で虫を次々と駆逐している。
しかしいくら倒そうとも、中心である巣となった大男が虫を吐き出しているため、数が一向に減らない。

(やはり、あの男をやらなきゃダメか……!)

 頭ではわかっているし、4人へ指示を出すことはできる。
でもここで虫の退治を止めさせると、未だに避難が完了していない観客に被害が及んでしまう。

 それに4人の体力も無尽蔵じゃない。
 もしも、今の勢いが少しでも削がれれば、結末は……

(やはりここは俺が……!)

 その時、背後に妙な気配を感じ取り手を掲げる。
 すると、打刀が手に収まった。

「使いなさい! 冒険者ギルドからの貸与品よ!」

「なんだよ、俺にやれってか?」

 軽装姿のローゼンへ、そういうと彼女はニヤリと笑みを浮かべた。

「良いじゃない! 今のトク、暇そうだし!」

「そりゃそうだ! こんな時、暇してるのは良くねぇよな!」

「道は私が開いてやるわ!」

 ローゼンは飛び出し、癇癪玉をばら撒いた。
無数の爆発が巻き起こり、地面の虫をはじけさせる。
そして虫を吐き出す大男への一本道が形作られた。

 俺は腰に差した打刀の柄を強く握り始める。
 瞬間、かつての勘が、意思が蘇った。

 意識を集中させ、森の静謐のような穏やかな心持ちで、強く地面を踏み蹴る。

「ガッ……ゴッゴ……!?」

「鬼神流ーー豪覇鬼神剣。あの子達に人殺しさせるわけにはいかねぇからな……悪いけど天に召されてくれや……」

「ガァァァァーー!!」

 虫に寄生された大男は斬撃と共に流し込まれた魔力によって、巣食っていた虫もろとも弾け飛んだ。
発生源は絶ったわけだし、後は三姉妹とマインに任せて大丈夫だろう。

 その時、妙な視線が注がれていることに気がついた。

 俺の視界の隅。
 木陰から俺の様子を伺っていたローブを羽織った誰か。
 奴はローブを翻し、俺へ背を向ける。
虫の甲殻のようなもので覆われた右腕がちらりとみえた。

 その右腕を見た途端、俺の胸はざわついた。

(右腕が甲殻に覆われた魔族……まさかあいつは!?)

 しかしすでに"右腕が甲殻で覆われた魔族"の姿は消失しているのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...