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二章

堕ちた聖騎士

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「煌斗(らいと)……? もしかしてドラのお父さんと廃都市に向かった聖騎士って?」

 一馬はすかさず、瑠璃を守るように前に立った。
 煌斗は口元だけを歪めて、不気味に笑う。
 
「やぁ、久しぶりだね木造君。元気にしてたかい? 兵団を出て行った君がどうしているのかも気にはしてたんだよ?」
「そりゃ、どうも。おかげさまで元気さ」
「悪いけどそこを退いて貰えるかな? 俺は瑠璃姉と二人っきりで話がしたいんだ。頼むよ、木造君?」

 煌斗は一歩進み、警戒した一馬と瑠璃は揃って一歩下がった。
 
「なぁ、退いてくれよ、木造君」
「煌斗、今のお前はどうみてもまともじゃない。そんな奴を瑠璃に近づけるわけには行かない」
「るり、だと……?」

 ずっと眠たげにみえた煌斗の瞼に力がこもった。
 煌斗から発せられた不気味な気配に、一馬の背筋が凍り付いた。

「なんでてめぇなんかが瑠璃姉を呼び捨てにしてんだよ! 良いから退け! 黙って大人しく退けぇ! 退けつってんだよ!」

 剣が抜かれ、刃が迫る。しかし寸前のところでニーヤが割って入り、障壁で煌斗の攻撃を受け止めた。

「ニーヤ!」
「ご安心くださいマスター! 完全回復したワタシに防げないものはありません!」 
「なぁ、木造! お前にはこの子がいるんだろ? 十分だろ? だから返せよ! 返してくれよ! 俺の瑠璃姉をかえせよぉぉぉ!!」
「下がれ、下郎!」

 ニーヤは空いた手の甲に光の剣を発して、煌斗へ突き出す。
 煌斗は舌打ちをしつつ、剣を引いて後ろへ飛び退いた。
 
「……なんで、どうして、この魔力の感じって……?」

 そんなやり取りをドラグネットは、何故か茫然と眺めていた。
 
「んっ……? ああ! く、くそ! 出て来るなぁ!! あがががが!!」

 ドラグネットをみた煌斗は目を大きく向いて、苦しみだす。
やがて呼吸が落ち着き、ゆらりと顔を上げる。

「ド、ドラグネット!? く、来るな! 来ちゃいけない! これ以上パパに近づくなっ!!」

 それまで弛緩しきっていた煌斗の顔が急激に引き締まり、訳の分からないことを叫び始めた。

「パパ……? なんでお前からパパの魔力の気配が……?」
「良いから早く、ここから早く…………どけっ! 消えろ! 早く俺の一部となれ! クソジジイ!…………早く、早く逃げるんだドラグネット! もうパパは…………だから、うざいつってんだよぉ!!」

 煌斗は表情と声音をコロコロと変えつつ、一人で訳の分からないことを叫び続けていた。
 
「どなたかは分かりませんが、娘を、ドラグネットを頼みますっ! 頼…………さっさと力だけ残して消えやがれ、このクソジジイがぁぁぁ!!」

 煌斗は野獣のような叫びをあげて、身体から眩しいほどの輝きを発する。
 光が失せ、呼吸を整えた煌斗は顔を上げる。不気味な笑顔がそこにはあった。
 
「ふぅ……ようやく居なくなったか」
「煌斗、お前何をしたんだ……?」
「何って、ゴーレム召喚の力が欲しかったから吸収しただけだよ、瑠璃姉?」
「――ッ!? お、お前、なんてことを!!」

 瑠璃は煌斗へ今にも殴り掛からん勢いで声を放つ。
 そして脇では泣き出しそうなドラグネットが瑠璃の裾を引く。
 
「ねぇ、瑠璃どういうこと? パパは? パパはどこにいるの? どうなったの? ねぇ!」
「そ、それは……」
「ねぇ!!」

 誰もがドラグネットの悲痛な叫びを受け止めきれなかった。
 
 吸収の法――倒した・殺した相手を魔光に転換し、その能力を獲得する力。
 
 それを煌斗は同行していたドラグネットに父親に使ってしまったらしい。
どうやら先ほどの煌斗の豹変は、残っていたドラグネットの父親の最後の意識だと考えられた。 

 卑劣な行為に走ったら煌斗へ一馬は激しい怒りと、憎悪の念を抱く。

 そんな一馬の怒りなど露知らず、煌斗は剣をかざし「傀儡召喚(サモンゴーレム)」と叫んで、鉱石をばらまく。
 煌斗に由来する金色の魔力が鉱石を成長させ、人間サイズの無数のゴーレムを生み出した。
 
「最初は上手にできなかったんだけど、今はこんなにも精巧なゴーレムが作れるようになったよ瑠璃姉! 俺、ぶかっこうな人形しか作れない木造なんかよりも凄いんだよ瑠璃姉! 俺の方が木造なんかよりも凄いんだよ! 瑠璃姉?」
「……」

「俺、山でたくさんの大きな獣も倒したし、空飛ぶ大きな飛竜だって一人で倒せたんだよ? 木造みたいに瑠璃姉の大好きな巨大ロボットもたくさん作れるようになったんだよ? もう瑠璃姉の後ろに隠れてばっかだった、小さい頃の弱い俺とは違うんだよ? 今度こそ幸せにするよ? 大好きな瑠璃姉のために身も心も捧げるよ? だから来てよ、ねぇ、来てよ瑠璃姉ぇぇぇ!!」

「……何を言っているんだ、君は……」

 瑠璃は声を絞り出す。そして、煌斗を睨みつけ、一瞬彼を怯ませた。
 
「る、瑠璃姉?」
「私のため? ふざけるな! そんなことのためにたくさんの人へ迷惑をかけ、あまつさえドラのお父さんさえも……そんな気持ちは受け取れない! 受け取ってたまるものか! この人殺しめ!」

 瑠璃は迷うことなく投射機(グレネードランチャー)の銃口を突きつけた。
 
「邪悪の反応あり……殲滅準備」

 ニーヤも光の剣を発生させて、臨戦態勢を取る。
 
「カズマぁ、パパは、パパは……!」

 ドラグネットは一馬に縋って涙を流し続けている。
 一馬はそんな彼女の頭を撫でると、煌斗を睨んだ。
 
「煌斗、お前は人として絶対にやっちゃいけないことをした。ここで引導を渡してやる――行くぞ、アイン!」
「ヴォッ!」
「ああ、ああ……あああ! うぜぇぇぇぇ!! うぜぇぇぇぇぇぇ!! まっじ、まっじ、うぜぇぇぇぇぇっ!!」

 煌斗は髪を掻きむしり、血走った目を向けてくる。邪悪な雰囲気を称えたその様に一馬は息を飲んだ。
 
「木造、お前がいるからだ! お前が俺から瑠璃姉を奪ったんだ! 奪ったんだ! 奪ったんだ! だから殺す。ぶっ殺す。ぶち殺す! ここでまとめてお前らをぶち殺す! そして始めるんだ! 俺と瑠璃姉だけの幸せを! 俺と彼女だけの楽しい楽しい異世界無双冒険譚をぉぉぉ!!」

 煌斗は金色に輝く聖剣を高く掲げた。
 
「行くぞぉ……傀儡召喚(サモンゴーレム)! 傀儡召喚(サモンゴーレム)! 傀儡召喚(サモンゴーレム)! さぁぁぁもん! ごぉぉぉれむぅぅぅーー!!」

 煌斗が声を発するたびに、聖剣が波紋のような輝きを放った。
輝きを受けた周囲の瓦礫がふわりと浮き始め、竜巻のように渦を巻いて煌斗へ飛んでゆく。
 瓦礫が彼の下半身を覆い尽くすと、まるで植物のように膨らみ、成長を始める。
煌斗は瓦礫はおろか、地下空洞を形成する様々なものを吸い込んで巨大化して行く。

 そのため地下空洞は激しい揺れに見舞われ始めた。どう考えても崩れるのは時間の問題。

「一馬、みんなアインの肩へ乗るんだ! こんなこともあろうかと素敵な装備を追加しておいた! 早くっ!」

 瑠璃の叫びに従って一馬はアインを膝立ちさせて降下体勢を取らせた。

「ニーヤ、ドラを頼む」
「了解です! さぁ、ドラ行きますよ?」
「……パパ……」

 ニーヤは憔悴するドラグネットをそっと抱き、アインをよじ登る。
 一馬は瑠璃の手を取って、アインの肩へ乗った。
 いつの間にかアインのアーメットの脇には金属の取手が取り付けられていて、体を支えるためにそれを掴んだ。

「一馬、ドラゴンバーストだ!」
「わかった! アイン、ドラゴンバースト!」

 一馬の意思が、アインへ先日ドラゴンゾンビから吸収させた炎のスキルを発動するよう促す。
いつの間にかアインの背面に取り付けられたた、二本の円筒状のパーツが激しい音を響かせる。
正体は円筒の下部から吹き出した真っ赤な爆発を伴った炎だった。

 炎はアインを天井の地上へ続く大穴目掛けて打ち上げる。

(ブーストジャンプ!? さすがは瑠璃! 最高だ!!)

 そして白銀の巨人は一気に、茜色の夕陽に包まれた廃都市へ舞い戻る。

 セイバーアンカーを地面へ放ち、急制動をかける。そしてもう一度ドラゴンバーストを放って、飛び出した勢いを相殺し、ゆっくりと地面へ降り立つ。

 刹那、目の前で複数の廃屋が夕陽へ打ち上がった。 
 地面へ蜘蛛の巣のように亀裂が走り、朽ち果てた建造物が次々と呑み込まれてゆく。
 
 そして巨大な異様が、地下深くから這い出してきた。
 
 アインの肩に乗る一馬でさえ見上げしまうほどの身の丈。全長50mは優に超えるだろう“ゴーレム”が夜の帳が居りつつある世界へ姿を見せた。
 
 超巨大ゴーレムはまるで邪魔だと言わんばかりに、廃都市を蹴散らした。
そして一馬やアインに目もくれず、背を向けて、砂塵と地鳴りを巻き起こしながら歩き始める。

「こっちへ来ない……?」
「あれだけの巨体です。もしかすると制御できずに暴走しているのかもしれません」

 ニーヤは眉を顰めつつも、冷静な様子で答えを提示する。
 
「一馬! 奴の先にはトロイホースが! このまま奴を野放しにしては!!」

 たとえおかしくなってしまったとはいえ、煌斗は一馬や瑠璃にとって同じ世界の出身者である。
 何ができるかは分からないが、何かをしなければならい。今は、少しでも自分たちができることをすべき時。
 
「みんな、しっかり掴まって!」

 一馬はアインへ意志を送り、超巨大ゴーレムを追って走らせ始めた。
 


【白き巨人:アイン】現状(更新)

 
★頭部――龍鱗アーメット
*必殺スキル:竜の怒り

★胸部――丸太・魔石×1
*補助スキル:魔力共有

★背部――魔法上金属製ランドセル×1 NEW!
*移動スキル:ドラゴンバースト NEW!

★腹部――丸太

★各関節――アコーパール×10
*補正スキル:魔力伝導効率化

★腕部――鎧魚の堅骨・球体関節式右腕部・魔法上金属(素材追加)
*攻撃スキル:ワームアシッド
*攻撃スキル:セイバーアンカー
*攻撃スキル:スパイダーストリングス
*必殺スキル:アインパンチ
*補正スキル:オーガパワー

★脚部――鎧魚の堅骨・魔法上金属(素材追加・交換)
*補正スキル:水面戦闘
*補正スキル:オーガパワー

★武装――斬魔刀アクスカリバー×1
*必殺スキル:エアスラッシュ
*必殺スキル:フレイムアクスカリバー
*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加)

★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1
*補助スキル:魔力共有
*攻撃スキル:障壁突撃(V-MAX)

★武装3――虹色の盾×1 
*防御スキル:シェルバリア

★武装4――戦闘用アームカバー
*必殺スキル:撃滅鉄拳メガトンアインパンチ

★武装5――パイルバンカー

★武装6――白銀の鎧

★ストックスキル
 なし
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