33 / 53
二章
二度あることは三度ある
しおりを挟む「ヴォ―ッ!!」
「ブフォォー!?」
アインは突然、現れた巨大イノシシの牙を掴み、受け止める。
関節のアコーパールは激しい輝きを放ちながら、オーガパワーを全身へ漲らせている。
しかしイノシシの勢いは増幅されたオーガの力でも、押しとどめることはできないらしい。
イノシシの突進力は予想以上に強く、アインはそのまま地面を削りながら押されてゆく。
「てぇーい!」
「ブフォォー!!」
そんな拮抗状態の中、飛び出したニーヤのドロップキックが、イノシシの横顔にヒット!
ようやくアインが踏みとどまり、地面を強く踏みしめる。
「投げろ、アイン!」
「ヴォォ―ッ!!」
アインは肩のアコーパールを激しく輝かせた。
拳で岩をも砕くオーガの膂力が増幅されって、軽々と巨大なイノシシを横へ投げ飛ばす。
地面へ思い切り叩きつけられたイノシシはぐったりと倒れて、泡を吹きだし始めた。
撃退成功、と行きたいところだったが、そうは行かない。
山の向こうから、こちらへ向かって激しい足音が響いてきている。
木々のなぎ倒しながら、複数のビッグワイルドボアが、こちらへ迫っていた。
しかし今度は不意打ちではない。準備をする暇は十分にある。
一馬はアインへ、背中に装着したアクスカリバーの柄を握らせた。
少し腕を動かせば、びちびちと音を立てて、アクスカリバーをくくった縄がはじけ飛ぶ。
そして巨剣を一閃。飛び出してきたワイルドボアは一刀両断されて、地面の上を滑って行く。
切れることは確認した。
あとは――
(思い出すんだ、ファウスト大迷宮でニーヤと特訓したことを!)
猪は丸太。ニーヤが投げた丸太。真っ直ぐ飛んでくる、ただの丸太。
「うぉぉぉー!」
「ヴぉぉぉーっ!!」
一馬とアインは気合の籠った声を重ね合わせて、アクスカリバーを無駄の少ない動作で鮮やかに振り続ける。
その度に、巨大イノシシはアクスカリバーで切り裂かれて、後ろの方へ飛んでゆく。
「ニーヤ君、次は左だ!」
「てぇい!」
瑠璃の声を受けて、ニーヤはイノシシを蹴り飛ばす。
ニーヤの左右には邪魔にならないよう、倒れたビッグワイルドボアが折り重なっている。
「これで、ラストぉー!」
「ブフォぉー!!」
アインの巨剣が最後のビッグワイルドボワを一刀両断し、ずっと聞こえていた地鳴りがようやく収まった。
(これだけ倒せば、スキルが獲得できるはず)
一馬はアインを反転させて、ニーヤが左右に仕分けたビッグワイルドボアの山へと進ませる。
「こ、これは……!?」
と、今度は剣や、棍棒、弓に大槍を持った、人達がぞくぞく現れて、アインと積み重なったワイルボワを交互に見渡す。
(もしかしてこの人たち、こいつらを追っていたのかな?)
こういうのは早い者勝ちなのだが、この状況で吸収してしまうと、無用な諍いが生じてしまうかもしれない。
とりあえず一馬は様子を見ることにしたのだった。
「もしや、貴方のゴーレムが全部?」
「ええ、まぁ。まずかったですか?」
「まずいといえばまずいような……」
なぜか男は微妙な反応をする。
「おのれぇ! またあたしの邪魔をしたのは貴様だったか、卑劣で、悪魔なゴーレム使いカズマっ!!」
甲高い声が響き渡り、男たちを割って、赤いローブを羽織った、妙に足の長い少女が姿を表す。
ローブと同じく、赤い髪に、赤い目に、真っ赤に染まった顔色――明らかに憤怒の表情。
どっかで聞いた声、どっかで見たことのある風貌である。
「もしかして、お前……ドラグネット?」
「そうだ! あたしが天才で、至高で、最強のゴーレム使い! 【ドラグネット=シズマン】であるっ!」
きっと本人はカッコいいと思っているだろう、妙な決めポーズ――もしかして、こいつはアレか、中二病いうやつか――をドラグネットは決めて見せた。
異様に足が長いので、見下ろされてほんの少し腹立たしい。
「てい!」
「わふっ!?」
ニーヤがすかさずドラグネットへ足払いを喰らわせ、尻もちを着かせた。
赤いローブの裾から異様に底の厚い、ブーツが白日の下に晒される。イッツ、シークレット、ブーツ。
「そのへんてこな靴で自分がチビだというのを誤魔化していたんですね。なんと愚かな……」
ニーヤは薄ら笑いを浮かべながら、ドラグネットを見下ろす。
「う、煩い! チビなお前にチビにって言われたくないわい! 」
ドラグネットは立ち上がろうとするが、ブーツが厚底過ぎて、一人では無理らしい。
何度も立ち上がろうとするが、その度に靴底は引っ掛かって、地面へ何度もペタペタしりもちを付く。
「ああ、もう邪魔っ!」
ようやく厚底ブーツを脱いだドラグネットは立ち上がり、薄い胸を張る。
ブーツが無ければニーヤといい勝負の身長だった。
「あっ、そうだ! お前、昨日あたしのお金盗んだろ! 返せっ!」
「盗んだ? 人聞きの悪いことを言わないでください。昨晩は貴方のおかげで、迷惑を被ったのです。あのお金は壊れた家屋や、道の修繕費用として使わせてもらいました」
「ああもう、煩いチビ! さっさとお金返せっ!」
「むっ……チビにチビって言われたくありません! 貴方の方こそチビです!」
「チビチビいうな、チビ!」
「チビはドラグネット、貴方ですっ!」
「チビチビチビ……!」
「チビチビチビ……!」
おチビちゃんたちは、互いににらみ合って、バチバチ火花を散らしている。
いつまでこの不毛な争いが続くのか。そして覚える既視感。
(ああ、これはあれだ、犬の喧嘩だ)
さしずめチワワvsトイプードルと言ったところか。うるさいが、見ようによっては微笑ましい。
さすがの瑠璃も苦笑を禁じ得ない様子だった。
「もう良い! お金も獲られて、獲物も奪われたんだ! この恨み晴らすべし!」
全身真っ赤っかの少し痛い子のドラグネットは大声を出して、会話を遮断する。
そしてだぼだぼの赤いローブの袖から、丸くて細っこい腕を出した。
「悪魔ゴーレム使いカズマと、そこのチビ! 今度こそ捻りつぶしてやる! でろぉぉぉ! ギルバートmark6!」
ドラグネットが指をパチンと弾けば、木々の間に赤い輝きが浮かび、鈍い足音を響かせながら巨人が姿を現す。
体表は金属のように鈍色の輝きを放ち、腕は槍の先端のような、スコップのような形状をしている。
「ぬわっはは! これぞあたしのゴーレム術の粋を結集して生み出した、対悪魔ゴーレム使いカズマ用決戦ゴーレム! メタルゴーレムギルバートmark6! さぁ、勝負だ!」
鈍色に輝くゴーレム:ギルバートはスコップのような両腕を掲げて威嚇のポーズを取る。
またまた面倒なことになった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる