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二章

強いぞアームカバー!

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「木偶人形を倒せ、ギルバート!!」

 赤ローブのゴーレム使い――ドラグネットの叫びを受け、ギルバートと名付けられたゴーレムは、ゴリラのような大勢で突っ込んできた。
 単純明快な、猪突猛進も甚だしい動きを、アインは人のようにひらりとかわす。
目標を失ったギルバートは木々に大激突。しかし何事も無かったかのように振り返り、再びアインへ狙いを定める。

(バカ力(ぢから)で、丈夫……パワータイプの敵ってところか)

 さすがのアインでも、あの突進をまともに受ければひとたまりもないだろう。
 
「あはは! どうした! 驚いて声も出ないてかぁ!! だーっはっはっは!」
「マスター、あいつ煩いんでブン殴って良いですか?」

 ニーヤは背中に不愉快な声を浴びて、眉間に皺を寄せている。
一馬はポンと、ニーヤの頭を撫でた。

「まっ、いざって時は頼むよ」
「むぅ……了解です……」

 再び正面から地鳴りが響き、ギルバートが突っ込んで来た。
 相変わらず、勢いはあるけどまっすぐな、力任せの突進。
 
「スパイダーストリングス!」

 アインの腕からネット状の蜘蛛の糸が飛び出した。
 足を取られたギルバートはそのまま、ドスン! と前のめりに倒れた。
そんなギルバートへ今度はセイバーアンカーを打ち込む。

「そぉーれぇーっ!!」

 アインのアコーパールが輝きを放ち、オーガパワーを増幅させる。
 竜さえも振り回した膂力は、アンカーで繋がれた鈍重なゴーレム:ギルバートを軽々と引き寄せる。
そして、アインの五指を保護するように、スパイクの付いたアームカバーが展開した。

 アームカバーで覆われた右の拳が、ギルバートの胸を激しく打つ。
 一瞬で、ギルバートの上半身にひびが入り、粉々に砕け散った。
 しかしアームカバーにはへこみどころか、傷一つ見受けられない。
さすがは瑠璃が作成した最高の装備品である。

 闘争を見守っていた村人は、アインに砕かれ粉々になったギルバートを唖然と見下ろしている。

「よくもギルバートを! 死ねぇ、ファイヤーボルト!!」

 と、背後からやっぱり聞こえた甲高い声のゴーレム使い:ドラグネットの憤怒の声。
 しかし一馬はゆるりと踵を返す。
 丁度その頃、ニーヤが腕から光の剣を発生させて、魔法を弾き飛ばしているところだった。
 
「ニーヤ! やってよぉーし!」
「かしこまりました!」

 一馬の指示を受け、ニーヤは解き放たれた犬のように飛び出し、
 
「マスターに危害を加えた罪――万死に値!」
「ぎゃふっ!!」

 ニーヤのドロップキックが、魔法使いのドラグネット腹へ痛烈直撃(スマッシュヒット)!
ドラグネットはくの字に折れ曲がり、ボシャンと流れ出した川へ落ちてゆく。
 さすがに溺れ死されては寝覚めが悪いと思い覗き込むと、ドラグネットは仰向けの姿勢で、水面にぷかぷか浮きながら、木の葉のようにゆるりと流されていたのだった。

「なんか、アレだ……ニーヤ君は一馬君の犬だな」
「失礼なっ! ワタシは犬じゃありません! ホムンクルスですっ!」

 瑠璃の小声を、ニーヤはしっかり拾って、抗弁する。

「ま、まさか、ホムンクルスさえも所有していらっしゃるとは!? 高名なゴーレム使い様とは知らず、大変失礼いたしました!!」

 代表の老人をはじめ、村人たちが次々地面へ膝をつき、土下座を始める。 
 さすがの一馬も、動揺し、どう反応して良いやらたじろぐ。
そんな彼の肩を瑠璃は叩いて、代わりに前へでた。

「安心なさい。カズマ様は寛大なお方です。きっとお許し下さいます……が、カズマ様は少々お疲れ気味です。どこか安全に休めるところはありませんか?」
「でしたらぜひ、我が村へ!」
「ありがとうございます。カズマ様もきっとお喜びになるはずです」

 瑠璃は振り返らずに、腰の裏へ手をまわしブイサインをして見せた。

(先輩ノリノリだなぁ……)

 瑠璃のお茶目な一面に、好感を抱く一馬なのだった。


⚫️⚫️⚫️


「それにしてもニーヤ君は良く食べるね?」
「これは魔力の貯蔵です。マスターのためです」
「こらニーヤ、先輩にそんなつっけんどんな態度取るなよ」

 一馬は口ではそう言いつつも、ニーヤの頭をワシワシ撫でる。
ニーヤはほんの少し不満層ながらも、それ以上何も言わず、がつがつと肉を頬張り続ける。
 
 一馬達は森の中腹にあった、村というには大きく、町というには小さい集落の食堂で食事にありついてた。
 様々な食べ物がテーブルに並んでいるがこれで銀貨10枚という価格は、高いのか安いのか。
盛りをみるに、もしかすると大盛りを売りにする食堂なのかもしれない。
 
「一馬君とニーヤ君は本当に仲がいいな」

 瑠璃は並んで座る一馬とニーヤへ目を細める。
 
「まぁ、仲がいいというか、ニーヤとアインのおかげで迷宮から返ってこれましたから」
「そふてひゅ! わたひとあいひんかいたひゃから、まひゅたーは……」
「ニーヤ。食べながら話しちゃダメ」
「すびまへぇん……」
「ニーヤ君は良いにしても……」

 何故か瑠璃は、クラスへ一人でいた時のように、目つきを尖らせれる。
 
「ごっくん……牛黒瑠璃。珍しく意見が合いそうですね?」

 ニーヤもまた眼だけを細め、頬を出会ったばかりの時のように強張らせる。
 
「ふ、二人ともどうしたの?」

 物々しい雰囲気に、一馬は声を震わせる。
 そんな一馬に構わず二人が窓の外とを鋭く睨んだ。
窓の外では、まるで蟻の子を散らすように若い村娘たちが散って行く。

「今のは……?」
「なに、食事の邪魔だと思ったので、ミーハーな小娘どもを追い払っただけさ。ふふっ……」

 瑠璃は危険な笑みを浮かべて、

「そうですっ! 邪魔者は殲滅ですっ!」

 ニーヤはぷんぷん怒った様子で、がつがつ食事を再開した。

(よくわかんないけど、この二人は怒らせない方が良いな……)

 突然、一馬の背後でバンっ! と音が成り、店がシンと静まり返った。
 雑な足音が響き、にゅっと一馬へ黒い影が伸びてくる。
 
「懲りずにマスターに何か御用ですか、ヘタレゴーレム使い!」

 ニーヤは一馬の背中へ回るなり、上を見上げてそう言い放つ。
 
「なっ――ヘタレじゃない! 至高のゴーレム使い:ドラグネット様だっ!」

 聞き覚えのある声がしたと思いえば、一馬の後ろには日中にコテンパンにやっつけた、赤いローブのゴーレム使いがいた。
 
「お前! もう一度、あたしのギルバートと勝負……」
「許可なくマスターに触れること、禁忌!」

 一馬の肩を掴もうとしたドラグネットの手を、ニーヤは鋭く弾き飛ばす。
 あんまり良くない空気が辺りに立ち込めた。
 
(やれやれ、静かに食事したいだけなのに……)

 一馬はゆるりと立ち上がり、ニーヤの頭をポンと撫でた。

「まぁまぁ、ニーヤ、そうかっかしない。どうどう」
「ぬぅ……マスターがそう仰るのでしたら……」
「ドラグネットさん、でしたけ? ここじゃ周りの皆さんにも迷惑なんで表で話をしましょうか?」
「ふん! いい心がけだ!」

 がたりと後ろで椅子を引き音が聞こえる。
 一馬は、振り返らずに後ろの瑠璃へブイサインを送り、ニーヤと共に外へ向かってゆく。
 
「おお、これはまた皆さんお揃いで……」

 思わず一馬はそう呟く。
 既に表に待機させていたアインは無数の岩巨人――ゴーレムに取り囲まれていたのだった。

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